10月7日から鹿児島県内各地で行われた「かごしま国体」。期間中、選手だけでなく選手たちを受け入れる宿泊施設も特別な日々を過ごした。宮城県のチームを受け入れた老舗旅館の奮闘ぶりを追った。

国体選手を“おいしいご飯”でおもてなし

鹿児島県北部・熊本県境に近い伊佐市にある旅館、松栄館。1917年創業の老舗で、かごしま国体のカヌー競技に出場する宮城県のチームを受け入れた。

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「我が子が帰ってくるような感じで選手を迎え入れたい」と話すのは、四代目のご主人、山下竜一さん。実はこの旅館、1972年に鹿児島で初めて開催された「太陽国体」でも新潟県のラグビーチームを受け入れていた。

その当時から働いている貴嶋加代子さん(74)は「かわいい子ばっかりだよ。イケメンばっかし。写真も撮ったんだよ。上腕二頭筋がすごい!」と、半世紀ぶりの国体に胸を躍らせていた。

松栄館が選手に提供する料理
松栄館が選手に提供する料理

松栄館が特に力を入れたのが、選手に提供する食事。「ぜひ食べて喜んでもらいたい」と山下さんが語るこの日のメニューは、鹿児島県産の黒毛和牛に朝捕れたタイ、さつま汁など全て鹿児島のもの。旅館のみんなでメニューを考えたという。

2023年3月に取材した時、旅館では選手に出すメニューを考案していた。その時、山下さんが魅せてくれたのが「さつまいものポテトサラダ」。

なんとその時思いついたというメニュー。山下さんは「うまいですよ!」と太鼓判を押す。

あれから7カ月。ついに選手に食べてもらう日がやって来た。「すご!!!やべ!」「いつもすごいけど、きょうはいつもに増してやばい」と声を上げる選手たち。果たして反応は?

カヌー宮城県チーム(成年男子)・永沼崚選手:
めちゃくちゃおいしいです!国体は今まで10回以上来ていますが食事は今までで一番おいしいですね!

サツマイモが使われていることを知り「だから甘いんだ!」と話す選手はみんな満足そうだった。

おいしく食べてもらえているか不安な山下さん
おいしく食べてもらえているか不安な山下さん

選手が食事を楽しんでいる間、山下さんは夕食会場の外から落ち着かない様子で中をのぞいていた。いつも「おいしいと言っているかな?」と気になって見ているという。

笑い声が聞こえる食堂。山下さんの心配をよそに、みんなきれいに食事をたいらげていた。

「うれしいよね。毎回ちゃんと食べてくれる。たまに『食器をなめたのか?』というぐらいきれいに食べてくれる」と、後片付けに忙しい山下さんも一安心。

初めてのカヌー競技観戦に大興奮

試合当日の朝。会場に出発する選手をみんなで送り出した。

山下さんの妻・絵里さんに、鹿児島と宮城、どちらを応援するか尋ねると「う~ん」と少し考えて「宮城かなぁ?でもどっちも応援したい」と苦笑いしながら答えた。

選手を見送った後も、夕食の仕込みや部屋の掃除など大忙し。厨房には宮城チームの試合時間が書かれたメモが。間に合うように急いで準備だ。

そして初めてのカヌー競技観戦に出発!「ワクワクしかない!初めて見るから」と興奮した様子の山下さん。遅れて合流した貴嶋さんも「伊佐市にいながら初めて来た。旅館は閉めてきた」と、息を切らしていた。

この日は会場の伊佐市・菱刈カヌー競技場で予選が行われ、山下さんたちは「いけいけ~!頑張れ!」と声をからして応援した。

「来て良かった。感動した。途中うるっときたもんね。我が子を見るようで」という山下さん。貴嶋さんも「初めて見たから興奮した」と話した。

おもてなしが生んだ“宮城との絆”

午後4時、選手たちが帰ってきた。「お帰りなさい」の声に「応援ありがとうございました」と笑顔で応じた選手。

山下さんたちの応援も功を奏したのか、宮城県チームは3人の選手が決勝に進んだ。中でも永沼崚選手は成年男子カナディアンシングルの200メートルと500メートルで見事優勝。2冠を達成した。

また、少年男子カナディアンシングル(200メートル)では奥山陽仁選手が4位に、成年男子カヤックシングル(200メートル)では橋沼新選手が5位に入賞した。

競技を終え旅館を去る日、国体2冠を達成した永沼崚選手は「色々なおもてなしを頂き、本当にありがとうございました。実家に帰ってきたような感覚になって、この8日間本当にリラックスして過ごせたし、レースにも集中できて本当に良かったと思います」と、選手を代表してお礼を述べた。山下さんも「楽しかったです」と笑顔で答えた。

山下さんに「どんな8日間でしたか?」と聞くと、「あっという間でしたね」という答えが返ってきた。

鹿児島の老舗旅館の温かいおもてなしは、かごしま国体で宮城との強い絆を生んでいた。

(鹿児島テレビ)

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