「リスキリング」という言葉を知っていながらも、なかなか実践できない人は多いだろう。
責任ある仕事を任されるようになる30代は「会社ブランドに依存せず、個人としてFA宣言できる実力を」備えることが重要だという。
その30代のうちに、どのように自身のキャリアと向き合い、スキルを習得していけばいいのか。
著書『新しいスキルで自分の未来を創る リスキリング【実践編】』(日本能率協会マネジメントセンター)から一部抜粋・再編集して取り上げていく。
著者はリスキリングの第一人者で、一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブ代表理事の後藤宗明さん。
30代にしておきたい3つのチャレンジ
20代で何か一つ市場価値の高いスキルを身につけることができたなら、さらに自分をアップデートしていくために以下の3つにチャレンジしてみるといいかと思います。
(1)マネジメントスキルを一定レベルで習得する
(2)勝負スキルの専門性のレベルを上げる
(3)新しいハードスキルの習得に向けたリスキリング、調査、仕込みを始める
この3つをどのようにチャレンジしていけばいいのか、解説していきます。
もちろんこれは現段階であり、5年後、10年後には全く違うアプローチが必要になるかもしれません。
(1)マネジメントスキルを一定レベルで習得する
スタートアップでは20 代でマネージャーに昇格することも多くありますが、一般的な企業で多くの方がマネージャー職になるのは、 30代からだと思います。
その中で「一定レベル」のマネジメントスキルを身につけることはとても大切なことです。マネージャーになるとプロジェクトマネジメント、チームマネジメント、予算管理とマネジメントスキルも広範にわたって求められます。
ただ、大切なのは、自分はマネジメントに向いているのか、マネージャー職が好きなのか、を自分に問いただしてみることです。
この記事の画像(5枚)何となく、向いていないと思いつつ給料が高くなるからマネジメント職に就いた、しかし全く楽しくない、プレーヤー時代の方が楽しかった、そんな方々も多く見てきました。
30代のうちは未経験からマネジメント経験をさせてもらえる機会があると思うので、貪欲にチャレンジしていただきたいです。
しかし、マネジメントスキルを習得していく際に自分の心の声に耳を傾けてみてください。この判断が40代、50代のキャリアに大きく影響します。
自分のスキルは会社を辞めても通じるもの?
(2)勝負スキルの専門性のレベルを上げる
20代で培ってきた得意なスキルの専門性を上げ、市場で評価してもらえるレベルにもっていけると、将来的にさまざまなオプションを持てるようになります。
例えば、その得意なスキルを活かして、転職をすることも可能ですし、また別の分野のリスキリングを行う際にも、その得意なスキルを活かして収入を確保することができるからです。
新卒で大企業に就職した方の場合、そのまま30代に突入すると、一つ判断が必要となってきます。
それは自分のスキルが大企業というブランド・信用に支えられたものなのか、それとも会社を辞めても通じるスキルなのか、ということです。
しかし、これは配属部署や経験によって大きく異なります。
これからはスキルベース雇用の時代に移行していきます。社内でも、社外への転職でも、スキルが評価される時代になるので、自分の勝負スキルのアップデートを心がけてください。
(3)新しいハードスキルの習得に向けたリスキリング、調査、仕込みを始める
これは僕の反省からくるものです。
僕は40歳からデジタル分野のリスキリングを開始しましたが、正直なところ遅すぎたと感じています。
もし30代でデジタル分野のスキルを身につけていたら、全く違った40代を過ごすことができていたと感じます。
僕は30歳で起業したので、すべてを早回しでやらざるを得ない環境に追い込まれ、広範なマネジメントスキルやソフトスキルを身につけることができましたが、決定的に欠けていたのがハードスキルの習得でした。
職務を遂行するだけで精一杯で、デジタルスキル習得の必要性は30代に感じていながらも、見過ごしてしまっていたのです。
これからの時代は、グリーン分野や宇宙分野のスキル習得を意識していくと、自分の10年先のキャリアの選択肢を増やすことができるのではないかと思います。
そのため、自分の強みとなる勝負スキルに加え、もう一つ別の分野の適性を見極められるよう、リスキリングを開始するための調査、仕込みが重要になってきます。
30代は“一国のリーダー”が出る世代であると意識
日本では30代はまだまだ中間管理職的な立ち位置ですが、海外では30代はもう国のリーダーとなる人が出始める年齢です。
例えば、フィンランドでは、2019年、34歳の女性首相が誕生しました。
上場企業でも20代〜40代の創業社長が活躍していますが、2022年の帝国データバンクのデータで、上場企業の社長の平均年齢は60.4歳、60代以上が5割超です。
高齢化が加速する日本では、劇的な変化がない限り、おそらくこれからも「順番待ち」が永遠に続きます。
劇的な世代交代が起きない限り、日本はおそらくこのままです。それが日本の文化だからです。
現在50代、60代の方々もかつて20代、30代だった時が当然あったわけですが、総じて年齢とともに、新しいことへの関心を失い、変化を避けるようになります。
今 20代、30代の方のほとんどもそうなる可能性が高い訳です。
現在20代、30代で、高齢の人たちによる政治や会社経営に不満を持っている方々もいらっしゃると思います。
ところが、世代交代の順番待ちをしているうちに、自分も新しい挑戦を避け、変化を嫌う、今の日本の文化に吸収されていきます。
そうならないようにするための抑止力となるのは、30代のうちの成功体験だと思います。
では、その30代をどう有効に活用していけばいいのかを紹介していきます。
30代は「自分のための時間」のラストチャンス
結婚、出産、子育てなど、ライフスタイルが大きく変化する人が多いのが30代です。
仕事以外の大切なことが24時間の中で占めるウェイトが20代の時より上がってくるので、ほとんどの方たちにとって海外移住のような大胆に行動範囲を広げられるチャンスは、30代までではないかと思います。
もちろん何歳になっても家族と共に大胆なライフシフトを試みる方も中にはいます。
特に30代からは親が病気になって介護が必要になるといったこともあり得ます。
子育てもありますし、自分のためだけに時間を使えるラストチャンスが30代です。
そのためには、自分の行動範囲を広げることによる成功体験を持っておくと、その記憶が40代、50代になった時に役立ちます。自分から環境を変える成功体験があるかないかは、とても大きいのです。
後藤宗明
一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブ 代表理事/チーフ・リスキリング・ オフィサー。SkyHive Technologies日本代表。著書である『自分のスキルをアップデートし続ける リスキリング』(日本能率協会マネジ メントセンター)は「読者が選ぶビジネス書グランプリ2023」イノベーター部門賞を受賞