15回日本一に輝いた長崎・佐世保市の九州文化学園高校バレー部を率いてきた監督が定年退職を迎え、2023年の春から西海市の西彼杵高校を指導している。

監督のもとで指導を受け成長したいと「転校」という道を選んだ生徒たち。彼女たちを支え見守る地元市民との新たな絆も生まれている。

「新しい場所で始まったなという気持ち」

長崎市と佐世保市の中間に位置する、西海市の長崎県立西彼杵高校は全校生徒102人。2023年春、5年ぶりに女子バレー部が復活した。

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部員は、九州文化学園から転校してきた2・3年生17人と1年生5人の22人。

市川すみれ主将(3年):
新しい場所で始まったなという気持ち。西彼杵が有名になるくらい頑張っていこうと思う

全国大会の優勝回数15回を誇る九州文化学園のバレー部は、43年間チームを率いた井上博明監督のもと、絶対的なエースはいなくても全員で拾ってつなぐ「真実(こころ)」のバレーで勝利を重ね、全国にその名をとどろかせてきた。

ところが、井上監督は2023年3月末に定年退職で九文を退任し、西海市の声かけで西彼杵を指導することに。

井上博明監督:
真実(こころ)のバレーの進化を頑張ってやっていくことが、西海市の地域の方々にも応援してもらえるようなチームになっていくのでは

「強豪バレー部」の看板を下ろすことになった九文は、部員のほとんどにあたる17人が井上監督のもとで競技を続けたいと希望し、長崎県教育委員会も「やむを得ない事由」にあたると転校を認めた。

田中聖華選手:
(井上監督なら)バレーだけじゃないし、人として成長するから

西海市は、2005年の発足以降人口減少が続いている。(2005年4月末 3,4545人→2023年7月末 2,5619人)

西海市は 西彼杵バレー部をいわば“まちの活性化のシンボル”として受け入れを決め、2023年度、部員たちの寮の整備などバレー部関連の予算として1億円あまりを支出する。

西海市民:
頑張っているなって注目していますよ。車で通った時に、若い子がいると「あーっ」と思って見る

西海市民:
(井上)先生を思って、子供たちが集まってくれたらいいと思います

県高総体には出られない…転校の代償も

転校後、半年間は「高校体育連盟」が主催する大会に出場できない規定がある。そのため西彼杵は、全国大会につながる県高総体には出られなかった。

ドロストきいら選手(3年):
なんでっていう部分があるけど 悔しいからこそまた絶対に負けないために頑張ろうとも思いました

“転校の代償”で大きな大会には出られなくても、彼女たちは ほかの大会で結果を出し続けた。
長崎地区春季戦・皇后杯県ラウンド・長崎県協会長杯で優勝を飾った。

いつしか、スタンドには保護者ではない西海市民も駆けつけるようになった。

西海市民・平井康司さん:
1度西海市の体育館で(練習試合が)あったときに見に行った。きょうは絶対に見に行こうと

西海市民・平井房子さん:
こんな勇気と元気をもらって、ありがとうございます

早朝練習に向かう部員たちへ、地域の人が声をかける光景も。地域とのつながりが広まっている。

西海市民・平井房子さん:
いままで静かだった。ここにあの人たちが来られるまでは

西海市民・平井康司さん:
自分たちが高校生のとき、西彼杵高校は全校生徒で大体600人ちょっと切るくらいですね。バレー部が来てくれて、ちょっと活気が出てきた

市川すみれ主将(3年):
あまり(気分が)乗らなかったりするときに声をかけてくれると頑張ろうと思えるし、試合で結果を残せるように頑張らないといけない

2023年7月には西彼杵高校の卒業生を中心とした後援会も発足した。2024年3月までには新しい寮も完成する予定だ。至れり尽くせりの対応に、環境の変化に不安があった保護者たちも胸をなでおろしている。

3年生の保護者・河内富美子さん:
ありがたいのはこっちに来て自然な場所で、ノビノビといきいきとした顔で(バレー)をしているのが1番。みんな一環となってできているのがうれしい

新しい地元で歩みを進める「西彼杵高校バレー部」

西彼杵はチームごと長崎代表に選ばれた「国体」の九州ブロックの予選を苦しみながら突破し、初の全国大会の切符をつかんだ。長崎県少年女子代表として「かごしま国体」に出場する。

大分まで応援に駆けつけた地域の人も、大興奮の様子だった。

西海市民・平井房子さん:
良かった。最後までハラハラしました。なんか血圧が上がった気がして体に悪いですね。こんな人生来ないと思っていた

9月10日、新しい寮の建設現場で地鎮祭が営まれた。地域の人や卒業生、保護者など約65人が参列した。西海市・杉澤泰彦市長は「高校の魅力を内外に発信して、若い人たちが西海市を選んでくれるようなまちづくりを進めていきたい。みなさんには、その大きな力を担っていることを自覚してほしい」と話した。

井上博明監督:
100年以上続く高校スポーツのなかで、今いる生徒たちは前例のない体験をしている。西海市の方々、多くの関係者のおかげだと思っております

市川すみれ主将(3年):
こんなにたくさんの方が動いていただいて当たり前のことじゃないし、これから新しい寮がどんどん大きくなっていくように、自分たちもこれから来る一つ一つの大きな試合で、どんどん成長していけるようにしていきたい

新しい地元=西海市で、地域の人に支えられながらその歩みを進める日本一15回の“元・九文”バレー部。感謝の思いを結果で返すと誓っている。

(テレビ長崎)

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