岩手県内の老舗しょうゆ店が新たに発売した調味料には、なんと「木」が使われている。商品には、森林と林業を未来に残すという思いがこめられていた。

店の大きなテーマは「岩手の木」

岩手・盛岡市にある創業約100年の老舗・浅沼醤油の直営店「クラビヨリ」は、しょうゆだけではなく約60種類の調味料を扱っている。

この記事の画像(12枚)

この店の大きなテーマは「岩手の木」。内装が県産木材で揃えられているほか、食品の原材料にも木が使われている。店内は真新しい木の香りに包まれていて、心まで癒やされる。

原材料に注目
原材料に注目

取材に訪れた住本結花アナウンサーは、手に取ったジンジャーシロップの原材料を見て、あることに気がついた。

住本結花アナウンサー:
原材料に“アカマツ”という文字。木が使われているんですね

浅沼醤油店では今「木」を食品に使う研究を進めている。9月に発売された県産のナンブアカマツを使ったジンジャーシロップと、県産のイタヤカエデを使ったシロップは、それぞれの木材で香りづけがされている。

ジンジャーシロップは炭酸水で割るとジンジャーエールになる。試飲した住本アナウンサーは「味わい深いジンジャーエールになっている。しょうがの味わいがしっかり広がりつつ、鼻にすっきりとしたスパイシーな香りが抜けていきます」と感想を語った。

岩手県の“林業”が抱える課題

社長の浅沼宏一さんは、県産の木材の活用法を見つけることで岩手の林業を支えたいと言う。

浅沼醤油店・浅沼宏一社長:
林業は岩手の重要な資源だと思うので、そこを活用しながら次の世代に残す取り組みにしたい

岩手県によると、県内の林業従事者はピーク時の4分の1に減り、約4割が60歳以上と高齢化も進んでいる。

SDGsの目標
SDGsの目標

林業は木を切るだけではなく、森林を育て守ることも大切な仕事。持続可能な開発目標の15「陸の豊かさも守ろう」のほか、環境に関する様々な目標に関わってくる。

しかし「木を食べる」とはどういうことなのか。

木によって色や香りに個性

浅沼醤油店の工場では、木を煮出したり水につけたりして香りの成分を取り出し、調味料に使っているという。

同じ方法で香り成分を抽出した5種類の木
同じ方法で香り成分を抽出した5種類の木

木によって個性は様々で、5種類の木を同じ方法で抽出すると色と香りに違いが出る。

イタヤカエデ
イタヤカエデ

まずはイタヤカエデ。

住本結花アナウンサー:
メープルシロップのような香りがします

浅沼醤油店・浅沼宏一社長:
イタヤカエデからもメープルシロップがとれるので、木を焙煎(ばいせん)して抽出しても甘い香りが出る

ナンブアカマツ
ナンブアカマツ

次はナンブアカマツ。

住本結花アナウンサー:
さっきのイタヤカエデと比べると甘さがなくてさっぱりした香りがする

浅沼醤油店・浅沼宏一社長:
和のスパイシーな香りが特徴

「時代に合わせて役割を持たせたい」

実は、木と食は昔から深く結びついている。

浅沼醤油店・浅沼宏一社長:
100年以上前に作られた木おけが残っている。しょうゆのもろみをおけの中に入れて、熟成させる工程で使っていた。今でもそうして使っている

木のおけで作ることで、木の香りや木の中にすみついた微生物がしょうゆに移り、ここだけの味が生まれるという。

浅沼醤油店・浅沼宏一社長:
こういった技術は、昔から今にかけて移り変わる中で切り捨てられてきた。その良さにもう一度注目して未来につなげていく

浅沼醤油店の店舗も、築約200年の町家を活用。一方で商品の棚には県産の新しい木材を使っていて、味わいのある古い木と、香りまで感じる新しい木。両方の良さが感じられる。

古くから私たちの生活に寄り添っていた「木」を新しい発想で未来に残していく。

浅沼さんは「新しい食文化やライフスタイルにつながれば、地域で循環しながら豊かな生活ができると思う。先人が積み上げてきてくれたものを時代に合わせて残し役割を持たせたい」と話した。

(岩手めんこいテレビ)

岩手めんこいテレビ
岩手めんこいテレビ

岩手の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。