2050年のカーボンニュートラル達成に向け、注目される電気自動車(EV=Electric Vehicle)だが、鹿児島県内の新規登録自動車数における割合は、1%台と少ない。環境に優しいとされる一方で、走行距離が短く購入価格が高いなどデメリットを指摘する声も。鹿児島県内のEV導入例を取材、普及への課題を探った。
世界自然遺産の島、屋久島でEVを体験
世界自然遺産の島、屋久島は「EVの先進地」と言われていると聞き、早速訪ねてみた。
島内にある屋久島交通タクシーを訪ねると、「こちらが2月に入ったEVのタクシーです。」ドライバーの白濱剛志さんが、車庫に止めてある白い車両を見せてくれた。車体には「電気自動車タクシー」の文字。
上村和明所長は、「排ガスを一切出しません。環境に優しい」と話すが、乗り心地はどうなのか。実際に乗せてもらった。
「エンジンがかかります。」運転席に座る白濱さんがダッシュボードの丸いボタンを押すと、一般的なカーナビよりだいぶ大きめのディスプレイが起動した。
「今、エンジンがかかりました?」思わず確認した記者に「かかりました。めっちゃ静かです。」と笑顔の白濱さん。「電気自動車はすごく静かで、平坦な道でも山道でもグイグイ上がっていくから快適。評判はすごくいいですよ」と教えてくれた。
屋久島では、レンタカーにEVを導入している業者もある。記者も自らEVを運転してみた。山岳部が多いが、「上り坂もスムーズに進み、音もとても静かです。」との印象。乗り心地は上々のようだ。

レンタカーにEVを取り入れたTHE HOTEL YAKUSHIMAの鶴田有美さんも、「フル充電すると446km走ることができるので、島内を観光する分には途中で充電することもなく、皆さん快適に乗っている。」と話す。
このほか、屋久島では6月2日から国内で初めてとなるEVの中型電気路線バスも運行を始めた。

屋久島の特性生かし再生可能エネルギーを有効活用
屋久島町では、なぜこれほどEVが取り入れられているのだろうか。
その背景を調査した鹿児島大学の市川英孝教授は「住民の1日の移動距離は、20kmいくかいかないかくらい。また、屋久島で盛んな水力発電は再生可能エネルギーなので、その電力を有効活用するという点でEVは政策としては良い」と説明する。

屋久島は1周約100㎞で移動距離が短い。そして「ひと月のうち三十五日は雨」と言われるほどの雨量を生かした水力発電による電力のうち、島内で使われているのは4分の1ほどで、余裕を持って電力が供給できている状況だ。

屋久島町は県とともに充電設備の整備を推進。そのすべてが無料で使用できる。さらに町は独自にEV購入に対し55万円の補助金を出している。荒木耕治町長は「世界自然遺産の冠で経済活動をやってきたが、これからはもう一つ、脱炭素に向けてこの島が生きる道が出てきたのではないか」と、環境への取り組みも打ち出していく考えを示した。

新規登録自動車数でEVの割合は全体の1.28% 普及への課題
県内の新規登録自動車数に占める電気自動車の割合の推移を見ると、2018年から一時減り、2020年から2022年にかけて伸びてはいるが、2023年時点で全体の1.28%にとどまっている。EVの先進地と言われる屋久島でさえ、普及率は2%ほどだ。
屋久島交通タクシーの白濱剛志さんは、「山を上がった方が、充電の減り方が早いんですよ。グッと踏み込んだ時に、数字がどんどん落ちていくのが怖いですね。」と、航続可能距離や充電施設不足への不安を漏らす。
また、THE HOTEL YAKUSHIMAの鶴田有美さんは「一般のガソリン車ぐらいになってくれたら」と、車両購入価格が高いことへの悩みを語った。
屋久島町の荒木耕治町長も「通常の充電だと、7~8時間かかる。だいぶ充電設備もそろえていますが、まだ少ない。」と現状を話す。

専門家「公用車や社用車ならEVを導入しやすい」
航続可能距離や充電設備の不足など課題のあるEVだが、鹿児島大学・市川教授は、「社用車であれば、毎日乗っても1日の走行距離は想定できるというか、EVでも安心して乗れるのはないか」と指摘する。
東京に本社を置く住友三井オートサービスは、2009年からEVのリースを始めた。佐野恒仁鹿児島支店長は、「EVリースの導入を検討している企業や自治体向けに、用途に応じた車種の選定から、充電環境の整備、導入後のアフターサービスなど、最適なEV導入プランを提案するサービスを提供している」と説明する。
現在全国で2200社がEVを導入していて、2023年に協定を結んだ指宿市も公用車に取り入れた。
社用車としてのEVの使い勝手は「不安に感じることはない」
賃貸マンションの建設や管理などを行っているユーミーコーポレーション(本社・鹿児島市)は、2025年3月から、住友三井オートサービスからリースで、営業車2台にEVを採用した。
導入から約3カ月。経理部の多嘉良和貴さんは、「繁華街の天文館など、街中に取引先があるので、そこを回る時や、本社から40~50㎞ほど離れた霧島にも支店があり“街乗り”で使っているので、不安に感じることはないですね」と話す。社用車としての使い勝手に特に不満はないようだ。

充電する設備があるから『EVを購入しよう』と考えてもらえる
ユーミーコーポレーションの弓場昭大社長は、社会的に脱炭素の動きが高まる中、「会社としてもそういう取り組みをきちんとしていきたい。」と考えていたという。
そこで、2年前から管理する賃貸マンションのほぼ全てに、EVの充電設備を設置するようになった。
「EVに乗っている人がいるから充電設備ではなくて、充電する設備があるから入居者も『EVを購入しよう』と考えてもらえるだろうなと思って」と、EV普及への思いを語る。
弓場社長は「利用者は少ない。」としながらも「これから、少しずつ増やしていく努力をしたい。」と、力を込めた。
EV普及の大前提はCO2をトータルで排出しない環境づくり
今後、鹿児島県内でどれだけEVが普及していくのか。
EV普及に必要な条件とは。鹿児島大学・市川教授は「EVは走行時にはCO2を排出しないが、動力源や製造面でのCO2の排出量を考えないといけない。それを含めて、CO2をトータルで排出しない環境を築いていくのがEV普及の大前提になると思います。」と話す。

国が掲げるカーボンニュートラル実現に向け、EVはどのような役割を果たしていくのか。今後の動向に注目だ。
(鹿児島テレビ)