2021年、大分県で発生した時速194キロの車による死亡事故。
過失運転から危険運転へと検察の判断が変更されたこの事故などをきっかけに全国の遺族などによる被害者の会が立ち上がった。「適切に処罰してほしい」そう願う遺族の思いを取材した。

時速194キロで死亡事故 

8月、大分市内の納骨堂を1人の女性が訪れた。

「命日やお盆しかなかなか帰って来られなくて、その時にはここにお参りに来るが年数が経ち過ぎるとだんだん表情、声とか忘れていってしまいそうな気持ちにもなる」と話すのは交通事故で弟を亡くした長文恵さん。

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2021年2月、大分市大在の交差点で市内に住む小柳憲さんが車を運転中、当時19歳の男が運転する車と衝突し亡くなった。この男は時速194キロで運転していたとされている。

「危険運転致死罪」へ変更求める

大分地検は当初、男を「過失運転致死罪」で起訴。
遺族は地検に対し、適用する罪名をより法定刑が重い「危険運転致死罪」に変えるよう求め約3万人分の署名を提出。
そして去年12月、地検が「危険運転致死罪」への変更を大分地裁に請求し認められた。

法定刑のうち懲役部分は過失運転致死罪は「7年以下」だが危険運転致死罪は「20年以下」で裁判員裁判の対象にもなる。

長さんは、危険運転致死罪の適用を求める遺族の思いについて、こう話す。
「交通事故って一瞬で命が無くなる。故意に悪質で無謀で危険な運転をしたのに不注意の事故だったと終わらせられるのは遺族感情として納得できるものではない」

危険運転適用求める動き全国へ

危険運転致死罪へと変更された大分での事故。
長さんは交通事故で家族を亡くした全国の遺族とともに行動を起こす。

ことし7月に立ち上がったのは「高速暴走・危険運転被害者の会」。
スピードの出し過ぎによる交通事故で家族を失った遺族などが、立証のハードルが高いとされる危険運転致死罪の積極的な適用を求め会を発足させた。

7月に行われた会見で長さんは、
「当時、私たちが感じた気持ちと同じ思いをする遺族がいるということで、大分が訴因変更を出来ているのだからきっと出来るだろうと思って遺族とともに声を上げたいと思って上京してきました」と話している。

会見に同席していた栃木県の佐々木多恵子さんは交通事故で夫を失った。

佐々木さんの夫の一匡さんはことし2月、国道をバイクで走行中、車に追突され亡くなった。
車は時速160キロを超える速度が出ていたとされているが、運転手は過失運転致死罪で起訴された。

佐々木さんと被害者の会は、この事故について「危険運転致死罪」への適用を求め8月末までに、宇都宮地検に約7万人分の署名とともに要望書を提出。

「今回、会としてより重く受け止めてもらいたいというそのような思いもあって、会の方で要望書を出すということになった。危険運転致死罪に訴因変更をして宇都宮地検と一緒に裁判を戦っていきたい。まずは、その土俵にあげてもらいたい」

佐々木さんは、会の存在が行動を後押ししたと話す。

被害者の会の共同代表を務めている大分の事故の遺族の長さんは、
「加害者を適切に処罰しなければ抑止にもならないし、これは全国各地で起きている問題で、これ以上悲惨な事故が起こらないように会としても力を合わせて取り組んでいきます」と話し、他の遺族とともに危険運転致死罪が適用されにくい現状を訴えていきたいとしている。

自民党 実態調査へ

一方、危険運転致死罪の適用を巡っては8月、自民党の交通安全対策特別委員会が実態を調査するためプロジェクトチームを立ち上げることを決めた。今後、国会の場で本格的に議論される可能性も出てきている。

「猛スピードの事故だけでなく赤信号無視や飲酒運転の事故で子供を亡くしたという遺族が(会の)メンバーにはいる。自分の裁判も並行して、この会で法律の運用の改善を求めていくという活動をやっていきたい」と長さんは話している。

大分での事故などをきっかけに全国に広がっている「危険運転致死罪」の適用を求める動き。
遺族の思いは法の運用を変えるのか。今後の動きが注目される。

(テレビ大分)

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