大ベストセラーとなった「ビリギャル(※)」の主人公、ビリギャルこと小林さやかさんがニューヨークにあるコロンビア大学院で学び始めてから約1年。いよいよ2年目に突入するさやかさんが一時帰国した際に、大学院で学んでいることの話を聞いた。
(※)『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40あげて慶應大学に現役合格した話』(坪田信貴著)

「成績はいまのところオールAです」

「成績はいまのところオールAです、英語出来ないのに。だからなんとかなるぞと伝えたいですね」

前回インタビューしたのは今年1月。ちょうど2022年9月から始まった秋学期が終了し、春学期がスタートするところだった。

(関連記事:ビリギャル、ニューヨークの大学院で学ぶ「留学でまたビリ…人生であと何回ビリになれるか楽しみ」

さやかさん「春学期では4つ受講しました」
さやかさん「春学期では4つ受講しました」
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「春学期では4つの授業を受講しました。1つが『成人学習(Adult Learning)』。2つめが『社会性と情動の学習(Social Emotional Learning)』。3つめが『教育分野におけるモチベーション理論(Motivation in Education)』。4つめが『統計学』です。必修科目は3つだったので、1つは教授にお願いして聴講だけさせてもらいました」

話し上手な先生が多くて聞くだけで面白い

成人学習とは、今注目されているリスキリングかと聞くと、さやかさんはこう答えた。

「リスキリングという言葉は聞かなかったですね。成人発達理論なので、20代と30代はどのように脳の構造が変わるかとか。でも実は授業では『この話、関係あるかな』というような話を教授がたくさん楽しそうにしてくれて。お話上手な先生が多いので聞いているだけでも面白いです」

SEL(社会性と情動の学習)の授業では、キーワードが”再評価”だった
SEL(社会性と情動の学習)の授業では、キーワードが”再評価”だった

「社会性と情動の学習の授業で何度も出てきたキーワードは、再評価=Reappraisalでした」とさやかさんはいう。
「例えば彼氏に振られたら、普通に考えれば悲しいですよね。でもこの人とうまくいかなかったのは運命の人が他にいるんだなと捉え方を変える、つまり自分に起きたことを角度を変えて再評価する。これによって自分の感情をコントロールする練習をすると、色んなスキルが上がるんだそう。とてもシンプルなことだけど実践するのは難しい。そしてこれがすごく重要だというのを理論的に学びました」

ビリギャルを理論的に説明された気がする

そしてさやかさんが一番学びになったと思うのは「教育分野におけるモチベーション理論」だった。

「まさにビリギャルを理論的に説明するなら、一番使えるなと思いました。モチベーションを構成する因子は2つあるという期待値価値理論(expectancy-value theory)では、期待値(expectancy)は高すぎても低すぎてもモチベーションがわかないといわれています。
だから坪田先生(※)が高校2年生の私に学力テストをして、小学4年のレベルだなと4年生のドリルを渡したのは、まさにこの理論でいうと超正解だったんですね。タスクが難しすぎても簡単すぎても、学習者のモチベーションは上がらないので」
(※)「ビリギャル」の著者。小林さやかさんを学習指導し、慶應入学に導いた。

コロンビア大学のキャンパス
コロンビア大学のキャンパス

また期待値価値理論のもう1つの因子が価値(Value)だ。さやかさんはこう続ける。

「私が慶應に行きたいと初めて衝動的に思えたのは、櫻井翔くんみたいなイケメンがたくさんいる世界最高!とワクワクしたからなわけですが、傍から見たら不純な動機でも本人にとっては超高いバリューだったんですね。ビリギャルの話を当てはめると、これらの因子がピタッと揃っているので、勉強に取り組む高いモチベーションがなぜ引き出されたのかを、理論的に説明された気がしたんです」

起業のためビジネススクールの授業を取りたい

さやかさんはこれまで、多くの子どもたちから「勉強ができないんですけど、どうしたらいいですか?」、保護者からは「うちの子はやる気ないんですけどどうしましょう?」と聞かれてきた。さやかさんはこう語る。

「多くの人は自分の能力以上に難しすぎることをやっている上、『なんでこんなことを学ばなきゃいけないの。意味ない』って価値も理解できていない。それではモチベーションがわかないのはごく当たり前ということが、この理論で言語化しやすくなった。もともとビリギャルを言語化したいから留学したので、『こういうことがやりたかったんだ』って思っています」

さやかさん「秋学期ではビジネススクールの授業も取りたいな」
さやかさん「秋学期ではビジネススクールの授業も取りたいな」

そして9月から始まる秋学期で、さやかさんは何を学ぶのか?

「以前起業したいって言ったんですけど、ビジネススクールの授業を取りたいなと。そこではできればスタートアップを疑似で立ち上げる授業を取りたい。もし履修できたら起業の予行練習ができるだろうし、日本人以外とパートナーを組むことになると思うので、新しい視点が得られるかも」

ニューヨークは歩いているだけで面白い

最後にさやかさんに「ニューヨーク、どうですか?」と聞いてみた。

「私、ニューヨークはすごく好きですね。クレイジーで街を歩いているだけで面白い。『それ、ありなんだ。そういう反応するんだ』と人を見ているだけで楽しい。だから暇さえあれば外に出て異文化に浸っています。ニューヨークはいるだけで自分が進化している気持ちになります。錯覚じゃないと思います」

「ニューヨークはクレイジーで面白い」
「ニューヨークはクレイジーで面白い」

さやかさんはこの夏休み、ヨーロッパでバックパッカーさながら教育を探究する旅をした。後編ではさやかさんが様々な国で学んだことを聞いた。

【後編】ビリギャル、ヨーロッパへ行く「日本は素晴らしい国だからこそ、もったいない」

【執筆:フジテレビ解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。