大ベストセラーとなった「ビリギャル(※)」の主人公、ビリギャルこと小林さやかさんがニューヨークにあるコロンビア大学院で学び始めてから約1年。いよいよ2年目に突入するさやかさんは、夏休みにヨーロッパへ教育を探究する旅に出た。さやかさんが見た教育事情について話を聞いた。
(※)『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40あげて慶應大学に現役合格した話』(坪田信貴著)
【前編】ビリギャル、ニューヨークの大学院で2年目に突入「いまのところオールAです」
この記事の画像(7枚)「ヨーロッパはめっちゃ面白かったんですよ」
「めっちゃ面白かったんですよ」
「ヨーロッパはどうでした?」という筆者の問いに、開口一番さやかさんはこう言った。
「目的地を決めずに、バックパック1個でニューヨークを出たんです。いま教育で起業したいとすごく考えているけど、アイディアが浮かんでも何か違うなとモヤモヤしていて。それもあって、いろんな刺激に触れながら1人で考えたくて旅に出たんですよね」
ヨーロッパ9か国を旅して、夕方には仕事を終え家族や友人たちとゆっくり時間を過ごす人々を見て、羨ましいと感じたと言う。
「私が訪れた国々に共通していると思ったのは、自分の幸福=ウェルビーングが第一で、個人の幸福度が集団の幸福度に繋がっているという考え方が根付いているなと。あとは、これは北欧の国々(オランダ、デンマーク、フィンランド)で特に強く感じたことなんですが、合理性と効率性がすごく重要で、だからこそ生産性を落とさずにプライベートの時間をゆっくり過ごせるんだと思いました」
オランダはビリギャルが生まれにくいなと思った
では、さやかさんが見た各国の教育事情はどうだったのか?
まずオランダについて聞いてみると、「日本でオランダ教育って言うとイエナプランが浮かびますよね、でもオランダ人はイエナプランをほとんど誰も知らないんですよ」と答えが返ってきた。
「オランダの子どもたちは小学校を卒業するまでに、大学まで進学するコース、知的職業訓練コース、いわゆるブルーカラーの職業訓練コースの3つの進路に分けられると聞きました。小学校3年生から毎年受ける全国共通テストの結果をもとに、進路を先生が決めるそうです」
この教育システムには、オランダ国内でも「進路決定が早すぎる」という議論があるという。
「小学校で進路がだいたい決まってしまうので、たとえばブルーカラーのコースに行った子どもは基本的に大学に行くのは難しい。大事な進路のことをそんな早い段階で決めるのはどうか、という声がずっと前から多く上がっているそうですが、なかなか変わらないそうです。オランダでインタビューした方が『小学校までは自由にのびのび学べてすごくいいんだけど、中学校からは地獄が始まる』と仰っていました。子どもたちの可能性を縛っているようで、オランダでは私のような物語(ビリギャル)が生まれにくいなと思いました」
「デンマークの教育、すごくいいなと思う」
ではデンマークはどうだったろう。さやかさんは「デンマークの教育、すごいいいなと思います」という。特にさやかさんが驚いたのが、「ペタゴー」の存在だ。
「一言で言うと、個性に合わせて人の成長をサポートするプロですね。例えば小学校では、先生は教科を教えるのに専念して、誰かが元気がないとか、何かもめごとが起きた時に登場するのがペタゴーです。ペタゴーになるには認知科学や発達心理学などを学んで、教育現場での実習も数年にわたって行われるそうです」
そして、さやかさんがフィンランドでよく聞いたのは「人が資源」という考え方だ。
「資源がないので人が資源という考え方があるので、教育への投資や健康への意識はすごいですね。フィンランドで先生になるには修士号が必須だと聞きました。先生は教育のスペシャリストとして、生徒に尊敬され、保護者からの信頼も厚い。ちなみにオランダでも教育実習は最低2年かかると聞きました」
「好きなことは皆違うのが大前提になっている」
では、健康についてはどうか?さやかさんは「フィンランドの小学校の体育の時間は、生涯スポーツの入り口という見方がある」という。
「体育の授業では子どもたちに様々なスポーツさせます。こうすると子どもたちは『自分はサッカーが好きだな』『自分は個人プレーが好き』と自覚するようになって、自分に合ったスポーツを始めるきっかけになります。だから、フィンランドでは高齢者でもスポーツを楽しんでいる人が多い。フィンランドの教育の目的は『良き納税者を育てる』なんだそうなので、生涯スポーツで、国民が健康で長く働いて国の負担も減るというのは理にかなっていますね」
デンマークとフィンランドでさやかさんは、「好きなことは皆違うのが大前提になっている」と強く感じたという。
「だから子どもの時から、自分で考える、自分で選ぶ、失敗を恐れず何でもやっていいという心理的安全性が確保されている教育・学習環境があって、一人一人が将来何をやりたいのか考える。そしてやってみて、もし違うなって思って別の道にいっても誰も責めない。やり直しがきく文化なんです」
失敗を恐れず、失敗してもやり直すことができるのは、いまの日本に最も欠けているかもしれない。さやかさんはこう続ける。
「日本だと卒業するとすぐ就職で、ブランクは悪、白紙にしたら『何やっていたんだ』となりますね。でもデンマークやフィンランドは、『ブランクがないと自分のやりたいことは見つけられないよね』と社会全体で理解しているのが、すっごくいいなと思いました」
「日本は素晴らしい国だからこそ、もったいないな」
旅の中でさやかさんは、家族との時間を大切にする人々を見ながらふと「自分はどれだけ家族の時間を取れたかな」と考えたという。
「私はこの10年くらい、何か世の中に貢献しなくちゃ、もっと成長しなくちゃ、もっと勉強しなくちゃって自分のことばかり考えてずっと走ってきたんです。でもヨーロッパで『会いたい人に会えるときに会っておかなくちゃ』ってふと我に返ったような感覚になって、衝動的に日本行きのチケットを買って帰国しました」
家族と大切な時間を過ごしたさやかさんは、インタビューの翌日、ニューヨークに飛び立った。最後にさやかさんはこう言った。
「久しぶりに戻ってきて思うんですけど、やっぱり日本ほど住みやすい国は無いですね。どこから見るかだけど、素晴らしい国だなってすごく思います。だからこそもったいないなあっていう点もすごくありますね」
帰国後は教育関連の起業をするというさやかさん。次回のインタビューがいまから楽しみだ。
【執筆:フジテレビ解説委員 鈴木款】