大ベストセラーとなった「ビリギャル(※)」の主人公、ビリギャルこと小林さやかさんは去年からニューヨークにあるコロンビア大学院で学んでいる。「留学してよかった」というさやかさんが、この半年の間に何を学び、次に何を目指しているのか聞いた。
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(※)「学年ビリのギャルが1年で偏差値を40あげて慶應大学に現役合格した話」(坪田信貴著)
「留学してよかったです」とさやかさんは答えた
「街を散策しているだけでも楽しい。留学してよかったです。大変なのは英語がまだ十分にできないから、申し訳ないくらいディスカッションに貢献できないことですね」
筆者から「留学はいかがですか?」とオンラインで聞くと、ビリギャルこと小林さやかさんはこう答えた。さやかさんが学んでいるのはアメリカ屈指の名門校・コロンビア教育大学院(Teachers College, Columbia University)。文字通り教育について学ぶ大学院だ。

学校での授業について聞くと、「授業は基本的に週3コマで、1コマは1時間40分です」とさやかさんはいう。
「前期の授業の開始時間は月曜日と火曜日は午後5時10分、そして木曜日は午後7時半でした。授業以外の時間は自習かグループで授業の準備。例えばこの火曜日は午後1時から授業開始までグループで、最終プロジェクトで提出する課題、このときは学校の先生向けの学習カリキュラムのデザインについて話し合ったりしていました」
「どうしたら教育が変わるか」皆で話し合った
大学院は昨年末に秋学期が終了し、冬休みが終わってこれから春学期が始まる。さやかさんが秋学期に受講したのは、「学校における変化について(School Change)」「認知と学習(Cognition and Learning)」と「認知発達学(Cognitive Development)」だった。
「前期に取った3つのうち2つは必修科目で、人の認知がどう働くのかを教育の目線から学ぶものでした。来期は統計学(Statistics)やモチベーションについてのクラス、そして今アメリカで注目されているSEL(Social Emotional Learning(※))を学べるクラスなどを取るつもりです」
(※)学校で社会的、情緒的スキルを育成する教育法
(参照:白馬に全寮制インターナショナルスクール開校…中高一貫でサステナブル社会を創る人材育成目指す)

秋学期で必修以外に取った「学校における変化について(School Change)」という授業は、「教育現場ではなぜ変化が起こりづらいのか」というテーマについて、学生のディスカッションをベースに学ぶ授業だった。
「『現場の先生たちが動かないと学校は変わらないよね』とか『ではどうしたら教育が変わるのか』を皆で話し合いました。この授業のクラスメイトにはアメリカの幼稚園から高校の先生が多くて、いまでも先生としてフルタイムで働きながら授業に来ている学生もいて驚きました。アメリカではキャリアを積みながら大学院に通うということが、日本より身近なんだなと感じました」
「大人こそ学ばないとだめだなあ」と改めて思った
秋学期では「不安が大きくて土日もほとんど勉強していた」というさやかさん。
「初めての学期は『私、大丈夫かな?単位もらえるのかな?』と思って、ついていけるのか不安すぎて、土日もほとんど1人で勉強していました。ですから、テストも平均点以上取れました。反省点は…ずっと1人で勉強していて、ふと英語をほとんど話していないことに気が付いて、このまま2年間終わるのももったいないなと思ったので、英語を話す友人とこれからはどんどん出かけようと思っています」

「この半年の学びの中でどんな気づきがありましたか?」と聞いてみると、さやかさんは「大人こそ学ばないとだめだなあと、改めて思いました」と答えた。
「グロースマインドセット(Growth mindset)とフィックストマインドセット(Fixed mindset)という考え方があります。グロースマインドセットは『自分は努力すれば成長できる』、一方のフィックストマインドセットは『能力は生まれつき決まっているものだ』です。日本人の多くは後者を持っている人が多いように感じます」
「この仮説はビリギャルストーリーと重なっている」
そこでさやかさんが学びを深めると、「アメリカには『学習者のマインドセットが学力を左右する』という論文がある一方で、『本人がグロースマインドセットを持っているだけでは、学力は上がらない』というデータもある」ことに気づいた。

「さらに論文を探すと、『先生と生徒の両方がグロースマインドセットを持っていることが、生徒の学力の向上に関係があるかもしれない』という仮説がありました。この仮説はビリギャルストーリーとも非常に重なっていて個人的にはとても納得感があるので、この分野の研究を深めるのは面白そうだなと思います。いま日本は教育の転換期だと言われることが多いけど、素晴らしい教育目標を掲げるだけでは十分な変化は起こせません。現場の先生が悩んでいる『その学習目標を達成するには具体的にどうしたらいいのか』という部分で、少しでも貢献できるといいなあと思っています」
「英語が出来ないのは大変だけど、何とかなる」
さやかさんに「あとに続く人たちへのアドバイス」を聞いてみた。
「私は、留学がすべての人にとっての正解だとは思わないです。日本の方がはるかに安全で安定した生活が送れますし、その上アメリカだと学費も物価も高い。でもやっぱりこの経験は何にも代えられないですね。私は留学という道に思い切って飛び込んでみてよかった。もっと早く留学に行けばよかったなあと思うけれど、同時に解決したい課題が明確にある今でよかったなとも思います。もし何歳であれ興味があるんだったら、本当に飛び込んでみてほしいですね」
留学を躊躇する理由に挙げられるのが「語学力」だ。しかしさやかさんは「英語が出来ないのは大変だけど何とかなる」と語る。
「私もまだ十分に英語が出来るわけじゃ無いけれど、頑張ったら前期の授業はすべてAがもらえました。翻訳アプリなどテクノロジーの力もあります。『飛び込んだら何とでもなるな』というのが半年経ってすごく思うことですね」

そしてさやかさんはこう続けた。
「今オンラインで学ぶのも流行っていて、わざわざ海外に行かなくても学べると思う人もいるかもしれないけど、『全然違うよ』って言いたいです。そこにいて、同じ空気を吸わないと経験できない、感じられないものが沢山あります。あとに続いてくださる人には、絶対諦めないでほしいですね」
「人生であと何回ビリになりにいけるか楽しみです」
ビリギャルから慶應大学に入学したさやかさんは、コロンビア教育大学院でまたビリからスタートした。最近さやかさんが出版した本のタイトルは「ビリギャルが、またビリになった日」だ。しかしさやかさんはこう笑う。
「人生であと何回自分からビリになりにいけるか、楽しみです。挑戦した!という、証ですから」

インタビューが終わる時、さやかさんは「私、留学終わったら起業しようと思います」と語った。
「まだ何するのか具体的には決めてないですけど、留学に来て『こんなに大きな山を登れているんだから、この先どんな山もきっと乗り越えられる』という自信がちょっとついて。『じゃあ留学後はいよいよ起業しよう』と腹が決まりました」
留学を終えたさやかさんが次にビリになりにいくのはどこなのか、楽しみでしかない。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】