女性の気持ちをもてあそび、金をだまし取る結婚詐欺。2022年11月、詐欺の疑いで福岡県警に逮捕、起訴されたのは、職業不詳の前田征美(まえだ・まさみ)被告(51)だ。女性たちを本気にさせた巧妙な手口とは?さらに、前田被告の金に対する執着心をツイセキした。

被害者が語る結婚詐欺師の手口 なぜだまされたのか?

前田被告から結婚詐欺の被害に遭った、関西在住のAさん(50代)。Aさんが前田征美(まえだ・まさみ)被告と出会ったのは、2017年1月、頻繁に通っていた飲食店で声をかけられたのがきっかけだった。

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その時は、Aさんには、前田征美(まえだ・まさよし)と偽名を名乗っていた。

Q.漢字は?

被害に遭ったAさん:
同じでした。読み方が違って、“まえだ・まさよし”と呼んでいました

前田被告は、電気工事会社の代表と名乗り、当時離婚協議中だったAさんにこんなメールを送って交際を迫った。

前田被告からのメール:
俺、Aさん好きですよ。Aさんのこと考えてると楽しいし、ほっこりした気持ちになります

Aさんは交際を断り続けていたが、前田被告から猛アプローチを受けた。

被害に遭ったAさん:
最後に一回お茶行こうよと言われて、デートに行った先で、指輪を渡されまして「これが約束の印だから待つから付き合ってほしい」と言われて、つい、のってしまって「はい」と言ったのが運の尽きだったと思います。本当にうれしかったと思います。会わない時には一日中LINEが来て、朝から晩まで「愛してるよ」の言葉が続いて…

前田被告の愛の言葉にAさんは次第に心を許していった。

愛の言葉で信用させ…交際し始めたAさんに打ち明けた“金の悩み

Aさんと交際し始めた前田被告は、次第に金の悩みを打ち明けるようになった。

被害に遭ったAさん:
事務員の子が来月支払いするところに間違って入金してしまって、それが引き落とされてしまっているから、今月の支払いができなくなっちゃってどうしようという連絡が来たと。「たかが50万円が用意できない俺って情けないよね、ごめんね」「こんなこと言ったら嫌われちゃうよね」みたいなLINEが来て。次、会う約束した日に私は現金50万円をもう持っていました

前田被告の「必ず返す」という言葉を信じ、金を貸したAさん。しかし…

「従業員が事故に遭い、違約金がかかる」、「大きな仕事が入ることになったので、契約金が必要」、「大腸に怪しい影ができて手術をしなければいけない」とAさんへの返済日が来るたびに、前田被告は新たなトラブルがあったといって金の相談をしてきた。

結局、前田被告から金が返ってきたことは一度もなく、Aさんは相談のたびに、数十万円単位で現金を貸し続けた。

被害に遭ったAさん:
信じていたし、ある意味“軽い洗脳”じゃないけど、私がどうにかしてあげなかったら大変だって、どうにかしてあげなきゃっていう変な心理状態に入っていました

Aさんは、娘のための積立金や生命保険を取り崩し、前田被告に貸した金は、総額450万円にものぼった。

なぜ途中で気づくことができなかったのか?

被害に遭ったAさん:
何度か確かに、ん?って思ったこともあったんです。でも、私が疑っている感じがあると、それ以上に上回って連絡がきたり、こと細かくここの現場だからとか、写真をすごく送ってくるようになるんですね。疑った自分に申し訳なさを感じてしまうというところはありました

そして、交際からおよそ1年がたった2018年3月14日に前田被告は「おやすみ、愛してるAさん。誰よりもね」というメッセージを最後に突然、姿を消した。

被害に遭ったAさん:
次の朝に待ち合わせの場所に行っても来ない状態で、朝から一番絶対「おはよう」ってLINEも入るのに、そのLINEも来なくて

一晩中張り込むと…結婚詐欺が発覚 現れた前田被告の“本性

Aさんはその後、仕事場だと言っていた場所に前田被告を探しにいくと、驚くべき事実が発覚した。

被害に遭ったAさん:
ふっと見た駐車場に前田がよく乗っていた車があったんですよ。一晩、夜の1時ぐらいからずっと張り込んだんです。朝になって、女性が乗って来られて、急いで声をかけたら、「私のもとは2日前に置き手紙で出てったのよ」って言われて、その人が現れたことで結婚詐欺、はなからだます気で動いていた話だったと

さらに、前田被告は同じ時期にAさんを含め、5人の女性と交際していたことも判明。この女性たちからも金をだまし取っていた。

被害に遭ったAさん:
多分、今後もう誰かを好きになるっていうのをできなくなったんだって。あんだけ「愛してるよ」とか「好きだよ」とかを平気でお金のために言えるんだなって

Aさんは警察に被害届を出そうとしたが、警察は「男女間の金の貸し借り」だからと受理しなかった。

そこで2019年、Aさんは前田被告の手口を伝えるブログを開設。すると、被害に遭った女性たちから次々と連絡が寄せられた。

Aさんが確認しただけで、前田被告は「前田」のほか「正木(まさき)」「樫木(かしき)」「神崎(かんざき)」「松本(まつもと)」などいくつもの偽名も使い、1都2府11県に出没。

被害者はすべて40~50代の女性ばかりで、20人以上、被害総額は5,000万円を超えていた。

“結婚詐欺だけでなく…新たな犯行 不動産会社でも現金8万の寸借詐欺

前田被告によるカネの被害は、実は結婚詐欺だけではなかった。

兵庫県神戸市の不動産会社に勤める小谷有里さん。2022年7月、前田被告は電気工事会社社長の吉川忠良(よしかわ・ただよし)と名乗り、関西に拠点を移すため、従業員の家など合わせて5軒の契約がしたいと来店した。

被害に遭った不動産会社勤務の小谷有里さん:
お話の内容がリアルだったので、裏に空き地があってそれが売土地なのか調べてほしいとか平屋を建てたいから図面を引いてくれとか特に違和感はなく、普通のお客さまだと思いました

移動中の車内でも、1年前にコロナで妻を亡くしたとうその身の上話をした前田被告。

被害に遭った不動産会社勤務の小谷有里さん:
今、考えたらこういう人をペテン師って言うんかなってくらい、奥さんが去年亡くなったって話聞いた時、車を運転しながら泣いたんですよ。それくらい(話が)うまかったです

異変があったのは、ある物件を見ていた時。

被害に遭った不動産会社勤務の小谷有里さん:
携帯を持って中を撮影されていた。その間、(私は)電話が来たので玄関で電話をしていた。そしたら、あわてて降りて来て、2階から携帯を落としちゃって、画面がバキバキになったんです

前田被告は、スマホが壊れて決済ができず、新幹線で帰れないと困ったそぶりを見せた。それを見かねた小谷さんは、3日後に打ち合わせの約束をしていたこともあり、前田被告を信用し現金8万円を貸した。

そして、約束の日…。

被害に遭った不動産会社勤務の小谷有里さん:
全ての書類をたくさん用意して待ってましたが、木曜日の10時に来ますってことだったんですけど、待てど暮らせど来ずで…。一瞬、何が起こっているのかっていう感じだったんですけど、アポイントを取っていたので、キャンセル作業をしないといけなくて。正直、私の信用もなくなりますよね。そっちの方が私の気持ちの損害は大きいです

その後、小谷さんは警察に被害届を提出し、受理された。

結婚詐欺だけでなく、日常的に人をだまして金を得ていた前田被告。しかし、それも終わりがやって来た。前田被告は、福岡県警から詐欺容疑で手配されていたことから、2022年11月、大阪の街にいたところ捜査員に見つかり逮捕された。

「自分が弱かったから」法廷で語った前田被告の本音

2023年6月、裁判が開かれた。前田被告は、埼玉県で女性から380万円をだましとった詐欺事件や小谷さんから8万円をだましとった事件など3件について起訴内容を認めた。

裁判長の質問に対し、「当初は純粋に恋愛目的で女性と交際していましたが、途中から金をだましとろうと思うようになりました」と話した。

では、どうして偽名を次々に使ったのか?と聞かれると…

前田征美被告:
検索をするとネットに「この人は詐欺師です」と自分の名前が出てきてしまうから

このように答え、数多くの女性をだましていたことを認めた。最後に裁判長から、どうしてこんな詐欺をしたのか聞かれ、「自分が弱かった」と話した。

裁判を傍聴していた被害者のAさんは…。

被害に遭ったAさん:
たかが3件で反省しているという言葉で終わらせられるのは悔しいです。今までだましてきた人その人たちに対しては何もないのか…

言葉巧みに数多くの女性から金をだまし取った前田被告。

7月10日、福岡地裁は「巧妙かつ狡猾(こうかつ)なものであって、常習性が認められる」などとして、前田被告に懲役3年2カ月の実刑判決を言い渡した。

(関西テレビ「newsランナー」2023年7月13日放送)

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