2023年7月10日、福岡地裁で3件の詐欺の罪に問われた51歳の男に懲役3年2カ月の判決が言い渡された。この男は全国の女性たちに結婚詐欺を繰り返し、金をだましとっていた人物だった。

「仕事は、詐欺師。」女性をだまし…

被害女性が語った、知られざる裏の顔。

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被害者A子さん(50代):
仕事は、詐欺師。息をするように人をだませる人と思う

カラオケで楽しそうに歌う男。5年前の映像が残されている(2018年8月撮影)。福岡地裁で判決が言い渡された住居不定、職業不詳の前田征美被告(51)だ。

起訴状などによると、前田被告は2022年11月に職業や名前を偽って交際していた埼玉県の女性に対して「銀行口座が不正利用されて凍結された」「必ず返す」などと嘘を言って合わせて380万円をだまし取ったとされている。

また2021年6月と2022年7月に福岡と兵庫で、こちらも職業や名前を偽って不動産物件を内覧した際、返すつもりもないのに交通費などを借りて逃げた、いわゆる寸借詐欺をした罪にも問われている。

1都2府11県に出没していた

実は、この前田被告。インターネット上では少し知られた人物だった。

鑓水航記者:
ブログには、前田被告の写真に「詐欺師です」と書かれています。「偽名多数」「職業詐欺師です」とも書いてます

取材班は前田被告について、ブログにつづっていた関西在住のA子さんに話を聞くことができた。A子さんは前田被告から結婚詐欺の被害に遭ったという。

被害者A子さん(50代):
被害額は、私は450万円です。私には前田征美(まさよし)ですね。読み方は、征美(まさみ)ではなく征美(まさよし)と読むと聞いていた

A子さんが前田被告と出会ったのは6年前の2017年1月。前田被告は電気工事会社の社長「前田征美」と名乗ったという。

被害者A子さん(50代):
飲食店に前田被告が来たときに、私がたまたまいた。前田被告が、常連的にその店に行くようになって話をするようになって「付き合わないか?」と言われた。数年前に子どもを亡くされて、奥さんが後追い自殺をして、それからは仕事に没頭してきて「初めて付き合いたいと思う人と出会えたので、一緒にいてほしい」と言われました

当時、A子さんは離婚協議中で前田被告は「将来一緒になろう」などと猛烈に交際を迫ってきたという。

前田被告からのメール
「俺A子さん好きですよ」
「A子さんの事考えてると楽しいし、ほっこりした気持ちになります」

A子さんは、いったんは断ったものの徐々に好意を抱き、交際をスタートさせる。

被害者A子さん(50代):
うれしかったのはうれしかった、すごく話し上手で、別に外見が魅力的なわけでもない。かっぷくのいい社長さんという感じで

前田被告と過ごす時間が増えていったというA子さん。すると、前田被告は様々な金の悩みを打ち明けるようになったという。

被害者A子さん(50代):
「従業員が事故に遭い違約金がかかる」とか「大きな仕事が入ることになったので、それの契約金が必要」だとか、あとは前田被告が「大腸に怪しい影ができて手術をしなければいけない」と。それで病院代を貸した

A子さんは「必ず返す」と誓った前田被告を信じ、相談のたびに数十万円単位で現金を貸し続けたという。

被害者A子さん(50代):
本当に好きになったので「助けたい」という一心だった。貸したお金は子どものために貯めていたお金、生命保険の貸付金で借りたお金とか。それは、前田本人も分かっている

A子さんが前田被告に貸した金は総額450万円にのぼる。しかし交際を初めてから1年が過ぎた2018年3月14日。

前田被告からのLINE(2018年3月14日)
「おやすみ、愛してる」
「誰よりもね」

前田被告は、この日のLINEを最後に姿を消したのだ。

被害者A子さん(50代):
「誰よりも愛してるよ」という言葉を最後にLINEが来なくなって、立ち寄り先を一生懸命探しているときに、前田が乗っていた車をたまたま駐車場で見つけた。その車を一晩中、見張った。前田が出てくると思ったが、出てきたのが女性だった。その方に「この方、知らないですか?」と(前田のことを)聞いたら、その方も1年間、前田と一緒に過ごしていて、その2日前に前田が出て行って「連絡がとれなくなった」と言った。そこで「やっぱり詐欺師だった」と気が付いた

その後、A子さんが調べたところ、前田被告の本名は「征美(まさよし)」ではなく「征美(まさみ)」だったと判明。さらに、前田被告は同じ時期にA子さん以外にも4人の女性と交際していたことも分かった。この女性たちからも金をだまし取っていたというのだ。

被害者A子さん(50代):
前田が消えた後、何を調べても前田本人のものは無かった。名刺も嘘だったし、会社の住所も無かった。出会ったときに乗り回していた車も別の被害者に買わせていた車だった

A子さんは警察に被害届を出そうとしたが、警察は「男女間の金の貸し借り」などとして受理しなかったという。

被害に遭ったという翌年、A子さんはブログを開設。全国の女性たちに向けて前田被告の結婚詐欺の手口などを紹介して注意を促した。すると…。

被害者A子さん(50代):
「私も被害に遭いました」と。「この人にだまされました」と。20人以上と連絡が取れていて、なかには1,000万円以上だまされた方がいる。被害者の多くは40~50代。これ以上、お金を出してもらえないと分かると逃げる

A子さんが確認しただけで前田被告は「前田」のほか「正木」「樫木」「神崎」「松本」などいくつもの偽名も使い1都2府11県に出没。被害総額は5,000万円を超えているという。

初公判「金は返すつもりだった」

全国各地に出没し、女性をだまし続けたと見られる前田被告。しかし2022年11月、ついに逮捕される。

酒井麻衣記者(関西テレビ):
曽根崎警察署阪急東通交番前です。福岡県警から詐欺容疑で手配されていた前田被告は去年11月、大阪の街にいたところ、捜査員に見つかり、逮捕されました

前田被告の逮捕容疑は2021年6月、内見していた不動産の業者から、返すつもりがないのに現金15万円をだましとったというもの。その後、兵庫県と埼玉県での詐欺事件でも起訴され、福岡地裁でまとめて裁判が行われることになった。

そして2023年6月26日、福岡地裁で迎えた前田被告の初公判。福岡地裁には傍聴に訪れたA子さんの姿があった。

被害者A子さん(50代):
腹が立つのを通り越しているので「みんなに謝れ」と言いたい

福岡地裁904号法廷。前田被告は、丸刈りにTシャツ、ジーンズ姿で現れた。

裁判官:
公訴事実は理解した?違うところは?

前田被告:
ありません

初公判で起訴内容を認めた前田被告。裁判では、埼玉県で起こしたとされる詐欺事件に注目が集まった。

検察側 冒頭陳述:
被告人は、去年10月頃、一級建築士「神崎」を名乗るなどして被害者と交際を始め、被害者に対して「銀行口座を不正利用されて凍結された」と嘘を言い、現金をだまし取るようになった

法廷で読み上げられた冒頭陳述。その手口はA子さんとほぼ同じだった。

検察側によると、だまし取った金額は380万円。しかし法廷で前田被告は、金は返すつもりだったと主張した。

弁護側:
はじめは純粋な気持ちで、お金をだまし取る目的ではなかった?

前田被告:
純粋な交際目的です

弁護側:
お金をだまし取ろうとしたのは、いつ?

前田被告:
途中から

弁護側:
380万円の返済の意思は内心はあった?

前田被告:
ありました

弁護側:
今後は、やり直したい?

前田被告:
はい

また前田被告は、起訴された事件以外にも金をだまし取ったことがあることを認めた。

裁判官:
名前を偽ったのは?

前田被告:
検索するとネットに「この人は詐欺師です」と自分の名前が出てきてしまうから

裁判官:
ほかの人からもだまし取ったことがある?

前田被告:
はい

裁判官:
詐欺を働けばどうなるか、考えていなかった?

前田被告:
はい

裁判官:
なんでした?

前田被告:
自分が弱かった

裁判官:
どうすればよかった?

前田被告:
どうしていいか分からなかった

論告で検察側は「他人をだましたり、身分や記録を偽ることに抵抗感が極めて乏しい」「もはや職業的犯行と言わざるを得ない」「徹底した矯正教育を図ることが必要不可欠」などとして懲役4年を求刑。
一方、弁護側は「被告人はやむにやまれず犯行に至った。極めて重大で悪質とは言えない」「深く反省していて十分な更生が考えられる」などとして情状酌量を求めた。

裁判の傍聴を終えたA子さんは…。

被害者A子さん(50代):
たかが3件で「反省している」という言葉で終わらせられるのは、本当に悔しいです。今までだましてきた人、その人たちに対して何もないのか

そして7月10日。被告に下された判決は、懲役3年2カ月。判決を聞く被告は、微動だにしなかった。

(テレビ西日本)

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