福井を代表するソウルフードの一つに「ソースカツ丼」がある。その名店として全国にファンを持つ福井市内の老舗洋食店が、7月末で半世紀の歴史に幕を下ろすことになった。夫の死後、店主として味を守り続けてきた女性の思い、そして別れを惜しむファンの声を取材した。

お店を1人で切り盛り…50年の歴史に幕

異様な長さの列の先には…
異様な長さの列の先には…
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福井市内でひときわ目を引く長蛇の列。店の敷地を出て、道路にまで伸びている。客が求めるのは、創業50年の老舗レストラン「ふくしん」だ。

ソースカツ丼の名店として、県内だけでなく県外からも連日、多くのファンが訪れる。

名物は大盛りのソースカツ丼。しっかりソースをまとわせた4枚のカツが重ねられ、どんぶりからはみ出す豪快さ。柔らかな触感を出すため、豚肉の筋を丁寧に取り除き、たたいて伸ばす。

約30年にわたって店を切り盛りしてきたのが、店主の橋爪節子さんだ。2023年で72歳になった橋爪さんは、一つの大きな決断を下した。

ふくしん店主・橋爪節子さん:
ちょうど店を開いて50年。亡くなった主人の17回忌も重なり、7月末で店を閉めようかと。体力的にきついものがある

1973(昭和48)年、ソースカツ専門店で修業を積んだ夫の真一さんと共に店をオープンした。ところが店を開いてから20年後の1993年、真一さんに肝臓がんが見つかった。その後、13年間にわたり、橋爪さんは夫の看病と店の営業の両立に追われる多忙な日々を送った。

夫が亡くなった後も店を守り続け、2023年で開業から半世紀を迎えた。

ふくしん店主・橋爪節子さん:
1年ほど前から自分の中では、50年の節目でやめようと思っていた

ーーお元気そうですが?

ふくしん店主・橋爪節子さん:
いや、元気じゃないですよ。主人が元気なときから一代でやめよう話していた。娘や息子にはできるだけ長く店をしてほしいと言っていたが、私にはそんなことは何も言わなかった

一味違う「ふくしん」のソースカツ丼

開店30分前から行列ができていた
開店30分前から行列ができていた

午後4時。午後の部オープンの30分前だが、店の外には既に長い行列ができていた。7月に入り、閉店のうわさを聞いたファンが毎日、大勢押し寄せている。

来店客:
タレが全然違う

来店客:
見た目のインパクトがあって、唯一無二のカツ丼

来店客:
カツを食べにいくというか、ふくしん食べにいく感じ

「ありがとう」…母の背中を見続けてきた長女

幼い頃から店を手伝ってきた長女の美幸さん。母親の背中をずっと見てきた。

長女・美幸さん:
小さい体で男の人の分まで支えるような縁の下の力持ち。自分はできないなと。父が築き上げた店を守らなきゃいけないという思いと、味が変わったと言われないように一生懸命だった

ふくしん店主・橋爪節子さん:
ただ必死で守ってきただけです。長い間ありがとうございました。感謝の気持ちだけ。あっという間です、早かった

来店客:
私、看護師をしていて、夜勤明けにがっつり系のところ食べに来ていたんですけど、それがなくなるのは寂しい

来店客:
私が子どもの時からあるので、さみしいです

来店客:
福井のソースカツ丼の文化が少し減ってしまうのが悲しい

長女・美幸さん:
すごくありがたい。こんなにたくさんの声をいただけるとは思っていなかった。満足のいく対応ができていないので申し訳ない

閉店の寂しさと、母親の苦労への思いが入り交じる。

長女・美幸さん:
重たいものを持ち続けて、腰を痛めたのも知っているし。無理はしてほしくない

ーーお店の最終日にはお母さんにどんな言葉をかけたい?

長女・美幸さん:
お疲れさまでしたと、ありがとう。店を守ってもらったので

後継者を名乗り出る客もいたが、夫との約束もあり断っている。
最終営業日は7月31日。一代限りのソースカツ丼の名店は、最後の日まで感謝の気持ちをこめて全力で走り抜ける。

(福井テレビ)

福井テレビ
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