イタリアの政財界に長年君臨したベルルスコーニ元首相が、6月12日ミラノの病院で死去した。86歳だった。約1兆円ともいわれる莫大な遺産はどうなるのか?

イタリアの元首相であり大富豪としても知られるベルルスコーニ氏
イタリアの元首相であり大富豪としても知られるベルルスコーニ氏
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注目されているのは、53歳も年下で現在33歳の「最後の彼女」。154億円もの巨額の遺産を手にしようとしているが、「開封された遺言状」をめぐる疑惑も浮上している。

4度首相経験もスキャンダラスな人生

若い頃はクルーズ船で歌う歌手もしていたというベルルスコーニ氏。建設業を皮切りに財界で頭角をあらわし、メディアグループを率いるまでに成功した。世界最高峰のサッカーリーグ・セリエAの名門、ACミランのオーナーを長年務めた事も有名だ。

クルーズ船の歌手から実業家、首相まで上り詰めた
クルーズ船の歌手から実業家、首相まで上り詰めた

政界に進出してからは、ポピュリストと揶揄されながらも、4度イタリア首相の座に上り詰めた。

ベルルスコーニ氏の死去に際しプーチン大統領は「真の友人だった」との哀悼メッセージを出した
ベルルスコーニ氏の死去に際しプーチン大統領は「真の友人だった」との哀悼メッセージを出した

華やかな成功の一方で、少女買春、汚職、マフィアとの癒着、数々の失言と、その人生はまさしくスキャンダルまみれ。私生活では、2度の結婚と離婚を経験している。

巨額の遺産…総額約1兆円

米フォーブス誌によると、ベルルスコーニ氏の遺産は64億ユーロ。1ユーロ=154円で換算すれば、約9856億円と1兆円に迫るものだ。

リビアの元指導者カダフィ氏と握手(2009年6月)
リビアの元指導者カダフィ氏と握手(2009年6月)

首相時代に世界のリーダーをもてなした豪奢な邸宅や別荘などの不動産、高級ヨット、ジェット機、ヘリコプター、美術品のほかに、メディア企業や資産運用会社を傘下に置く一族の持ち株会社がある。

8人の相続人

ベルルスコーニ氏の死後、3通の遺言状の存在が明らかになった。遺言状は7月5日に公開され、相続人が8人いることが判明した。

8人のうち5人は実子である。最初の妻との間に生まれた長女マリーナ(56)と長男ピエルシルヴィオ(54)。2人目の妻との間に生まれた次女バルバラ(38)、三女エレオノーラ(37)、次男ルイージ(34)だ。

ベルルスコーニ氏の長女マリーナ氏(56)
ベルルスコーニ氏の長女マリーナ氏(56)

この5人の実子のほかに、3人の相続人が明らかになった。

ベルルスコーニ氏の実弟パオロ氏(73)、脱税やマフィアとの癒着などの容疑で実刑判決を受けながら、長年元首相を支えた盟友のマルチェロ・デルートリ氏(81)、そしてベルルスコーニ氏の「最後の彼女」であるマルタ・ファシーナさん(33)だ。

ベルルスコーニ氏の「最後の彼女」マルタ・ファシーナさん(33)
ベルルスコーニ氏の「最後の彼女」マルタ・ファシーナさん(33)

手書きの遺言状

1通目の遺言状は2006年10月2日付けだ。この遺言状は、「総資産の3分の1を最初の妻との間に生まれた長女と長男に平等に、残りの3分の2を5人の実子全員に平等に分け与える」との内容だった。最初の妻との間にもうけた50代の長女長男と、二人目の妻との間にもうけた30代の3人の子供たちに明確な差を付けた。年長の2人にグループ会社の経営の手綱を渡す意思を示したとされる。

暴漢に襲われ出血することも 2010年8月
暴漢に襲われ出血することも 2010年8月

2通目の遺言状は2020年10月5日付けだ。最初の遺言状の内容に加え、実弟へ1億ユーロを与えることを記載している。

そして最後の3通目の遺言状が今、物議を醸している。

封がされていなかった3通目の遺言状

最後の遺言状は、今年7月5日、53歳年下の「最後の彼女」マルタ・ファシーナさんが、封がされていない状態で公証人に手渡したものだ。

ベルルスコーニ氏の棺に手を触れるマルタ・ファシーナさん(33)
ベルルスコーニ氏の棺に手を触れるマルタ・ファシーナさん(33)

即日公開された3通目の遺言状は、2022年1月19日付けの手書きのもので、5人の実子のうち、なぜか末っ子のルイージ氏をのぞいた4人にあてた手紙となっている。この遺言状には、2通目の遺言状と同様、実弟パオロ氏への1億ユーロの贈与が記載されていた。

さらに盟友のデルートリ氏に3,000万ユーロの贈与、そしてマルタさんにも1億ユーロ、日本円で約154億円を贈与すると記載されていたのだ。

ベルルスコーニ氏の葬儀会場には、かつてオーナーを務めたACミランの旗を振る人の姿も
ベルルスコーニ氏の葬儀会場には、かつてオーナーを務めたACミランの旗を振る人の姿も

遺言状が書かれた2022年1月というのは、ベルルスコーニ氏が白血病の診断を受けた時期だ。
以前の筆跡に比べて乱れた印象を受けるが、ハッキリとこう読める。

ベルルスコーニ氏の「3通目の遺書」
ベルルスコーニ氏の「3通目の遺書」

「マリーナ、ピエルシルヴィオ、バルバラ、エレオノーラ(※なぜか末っ子のルイージ氏の名前がない)これからサン・ラッファエレ病院に入院する。万が一戻れなかった場合、君たちが相続する私の総遺産から次の贈与金を確保してほしい。
パオロ・ベルルスコーニに1億ユーロ、
マルタ・ファシーナに1億ユーロ、
マルチェロ・デルートリに3000万ユーロ。
私のみんなへの愛と、
みんなの私への愛のしるしに。
ありがとう。みんなにたくさんの愛を。
パパより」

遺言状の内容が公開されるとイタリア国内はもとより、世界中のメディアが騒ぎ出した。

注目されたのは、親族以外の2人だ。

ベルルスコーニ氏と53歳年下の「彼女」マルタ・ファシーナさん(33)
ベルルスコーニ氏と53歳年下の「彼女」マルタ・ファシーナさん(33)

デルートリ氏は、駆け出しのベルルスコーニ氏が建設業での成功を成し遂げる際に、マフィアとの橋渡しをし、自ら実刑判決を受けながら元首相を守り抜いたとされている。

3000万ユーロ(約47億円)もの贈与について「やはり『沈黙は金』」などと書き立てられている。

オバマ大統領と握手
オバマ大統領と握手

本人は現地メディアの取材に対し、3000万ユーロは口止め料ではなく、「親愛のしるし」と述べている。

そして、53歳年下の彼女であるマルタさんについては、自分に「1億ユーロを」と書かれた封をされていない状態の1年前の「遺言状」を、彼女自らが公証人に渡したとあって、遺言状としての有効性を疑問視する報道が散見される。

専門家が指摘している「不可解な点」は以下だ。

葬儀会場で涙ぐむマルタ・ファシーナさん
葬儀会場で涙ぐむマルタ・ファシーナさん

①「子供たちへ」と封筒には表書きされているのに、末っ子のルイージ氏の名前がない。これは元首相のうっかりミスなのか、故意なのか。

②文中に「万が一戻れなかった場合」とあるが、実際には元首相は一度退院している。戻れなかった場合にのみ、この遺言状は有効なのか?

③遺言状はベルルスコーニ氏が死去した後、7月になってマルタさんが公証人に届けた。なぜ遺言状が書かれた昨年の時点で届けなかったのか?

④実弟のパオロ氏、マルタ氏、デルートリ氏に合わせて2億3000万ユーロを支払うのは誰になるのか?

53歳年下彼女と実子の微妙な関係

6月14日に行われたベルルスコーニ氏の国葬では、こんな場面があった。

実子である長女マリーナ氏が、マルタさんと手を繋いで歩き、葬儀でも最前列に並んで座ったのだ。実はマルタさんは、実子たちの反対で法的な「妻」にはなれなかったという経緯がある。

そのマルタさんが「未亡人」として認められた証ではないか、とされたのだ。

ベルルスコーニ氏の実子と並んで座るマルタさん(右端)
ベルルスコーニ氏の実子と並んで座るマルタさん(右端)

一方で、実子である長男がマルタさんに対し、ベルルスコーニ氏の本宅から10月中に退去するよう通告したという報道もある。
この報道について、実子側は否定しているが、何やら雲行きが怪しくなっている。

巨額の遺産は誰の手に渡るのか…
巨額の遺産は誰の手に渡るのか…

巨額の遺産は、本当に年下彼女に渡るのか?

ベルルスコーニ氏亡き後、その財産の行方はこれからもイタリア人の大きな関心事であり続けることだけは間違いなさそうだ。

(フジテレビ国際局 柾谷美奈)