安倍元首相が演説中に銃撃され死亡してから1年。フジテレビ系「日曜報道 THE PRIME」(日曜午前7時30分)では9日、「安倍元首相がこの国に遺したもの」をテーマにスタジオで議論。自民党の稲田朋美元政調会長は、北方領土問題をめぐり、ロシアのプーチン氏との間で二島返還を進めた安倍元首相の対応について、「あの方針は正しかった」と強調。

また、「安倍晋三回顧録」で安倍氏に計18回、36時間にも及ぶインタビューを行った、読売新聞特別編集委員の橋本五郎氏は、「日本の四島一括返還という大事な原則、それを踏みにじるものであるという批判があるけど、私はそうは見ない」と語った。二島返還で“限りなく合意に近づいていた”時期があったと明かすとともに、ロシア国内の反発が大きくなったことで交渉が頓挫したという認識を示した。

ロシアによるウクライナ侵攻が続くなか不透明さを増す領土交渉。今後の展望について、ジャーナリストの櫻井よしこ氏は、「ロシアというのは、どういう形かで崩壊して行くと思う。非常に力を無くしていくので、その中で必ず北方領土奪還するチャンスはある」と分析。

一方、番組コメンテーターの橋下徹氏は、「ロシアの力が弱まったらチャンスが出るというのは、政治としては、全くダメだと思う」と指摘した。

以下、番組での主なやりとり。

梅津弥英子キャスター(フジテレビアナウンサー):
(北方領土交渉をめぐる)トップ同士で進めた交渉は、合意を目指し閣僚レベルの交渉に移ったが、具体的進展をみることはなかった。2006年から始まった日露トップ会談は、27回。安倍元首相は一対一の会談にこだわり、プーチン大統領に説得を続けた。一方、日ソ共同宣言に基づいた二島返還について、「安倍首相は四島を諦めたのか」という批判の声もあった。合意には至らず終わったが、「安倍晋三回顧録」のなかで交渉の舞台裏が赤裸々に語られていた。

松山俊行キャスター(フジテレビ政治部長・解説委員):
「安倍晋三回顧録」の中で明らかにされた事実として、我々も少し驚いたが、プーチン大統領と安倍元首相が2019年のG20大阪サミットで、二島返還について、その場での合意を目指すことで一致していたと。これはどの程度、合意に近づいていたと見ればいいのか。

橋本五郎氏(読売新聞特別編集委員):
私は限りなくそう(合意に近づいていた)思う。しかし、それをやっぱりロシアの国内が許さなかったということがあったと思う。これについては、日本の四島一括返還という大事な原則、それを踏みにじるものであるという批判があるけど、私は、そうは見ない。(ドイツ帝国の)ビスマルクが言っているように、「政治は可能性の技術」だ。可能性があることを追求する。四島一括返還を求めるというのは、100年経っても帰ってこないってこと。日ソ共同宣言の中で二島返還とまず言っている。これに手をつけて何が悪いのか?と私は思う。なので、あのときかなり合意に近づいたと思う。ただ、残念ながら、そのプーチンでさえロシア国内を説得できなかった。それはそれなりの理屈がある。血で洗われた北方領土、それは獲得したものである、というロシア国内の意見は強い。だから、これだけ強大な権力を持っているはずのプーチンでさえ、できなかった。領土問題難の難しさがあるが、この(二島返還の)可能性を追求することが大事だったと思う。

稲田朋美氏(自民党元政調会長):
私は防衛大臣のとき、本当にもうロシアがもうアメリカに対して不信感いっぱいで、そのときイージスアショアを置くということについても、ミサイル防衛で、ロシアは「自分のところにミサイルが飛んでくる」ということを言う。もうすごい不信感があって、ロシアは(北方領土を)絶対にこれは返さないなって思った。ただ、安倍元首相とプーチン氏との関係で、もし二島返還が実現し、平和条約が締結されたら、やっぱり対中国、対北朝鮮という意味においても、非常に国益に合致するということで、安倍元首相は頑張られたが、やっぱりロシアはそんな戦争で取ったものを返さないと。不法なものだが。

松山俊行キャスター(フジテレビ政治部長・解説委員):
今ロシアによるウクライナ侵攻という新しい事態が起きて、日本がロシア制裁に加わっているということで、ロシア側は完全に平和交渉は打ち切りだと言っている。

櫻井よしこ氏(ジャーナリスト):
その前に、二島か四島かということで、安倍さんとかなり長い時間話し合ったことがある。その時に言っていたのは、「安倍晋三回顧録」に書いているように、「四島一括と言っている限り永遠に戻ってこない」と。そして、今、日本が置かれている立場というのは、中国とロシアの両方に向き合わなければならない状況。だから、そういう意味ではやっぱり中国、ロシアというものを念頭に置きながら外交をやらなきゃいけないということで、「プーチン氏も色々あるが、自分は積極的に外交を進めている」という説明があった。日本の対応は、紆余曲折を経ていて、一時期は、歯舞、色丹、国後、択捉の四島を固有名詞で書いて、これを交渉の対象にするというところまでいったん行った。ところが、1956年の日ソ共同宣言に戻るとか、日本側の外交路線もはっきりしない。それに、対してロシア側も官僚レベルで、ものすごい反発がある。だから、政治家同士がどんなに頑張ってみても限界はあるのだけれども、政治家が頑張るしかないというところで、安倍さんは二島の方に傾いたのだと思う。

櫻井よしこ氏(ジャーナリスト):
(ロシアのウクライナ侵攻を受けた日本の対応を受けて)ロシアから見ると、こんな国に北方領土を返す必要はない、というのは当然だと思う。ただ、国と国の交渉は力と力のバランスの問題なので、私は必ずロシアというのは、どういう形かで崩壊して行くと思う。非常に力を無くしていくので、その中で必ず北方領土奪還するチャンスはあると思っている。今、ロシアが日本に対してきついことを言っていることに振り回されないで、ちゃんとどのようにしたらいいか、という戦略を考えたらよいと思う。

橋下徹氏(番組コメンテーター、弁護士、元大阪府知事):
桜井さんの主張は、言論人としてはいいが、政治としては全くダメだと思う。ロシアの力が弱まることっていう希望的観測に基づくのは、政治は絶対やっちゃいけないと思う。安倍さんは、日ソ共同宣言に至るこの交渉記録ってものを全部読み込んで、僕も北方領土について議論させてもらった。もう本当に議論して、研究されていた。これは有名な話だが、いわゆる「ダレスの恫喝」というのがあって、もともと日本は二島返還で収めるところを、アメリカの方から“恫喝”が入って、四島返還に日本が主張を切り替えた。安倍さんはこれが日本の一番の突っ込まれどころだということを認識していて、その後、旧ソ連が崩壊した時に、国家が崩壊した1991年あたりから、東京宣言で四島帰属の問題ということが復活したが、国家が崩壊してもあそこ止まり。ソ連が崩壊してもあの東京宣言止まり、なのだから、僕は桜井さんが言う「ロシアの力が弱まったらチャンスが出る」というのは政治としては、全くダメだと思う。

櫻井よしこ氏(ジャーナリスト):
ソ連が崩壊した時にドイツは、ものすごく敏感に対応して、東西ドイツ統一を一年間で成し遂げた。あの時、日本にも北方領土を取り返すチャンスが本当にあった。具体的な話として。ただ、それを日本の外交当局者と当時の政治家がぼんやりしていて見逃した。こういう歴史上のチャンスは一回あるか、ないか。

橋下徹氏(番組コメンテーター、弁護士、元大阪府知事):
しかし、1956年の日ソ共同宣言を基礎にするのであれば、ここはやっぱり“100点満点派”を振り切ってでもやらないと。国境を確定するのに100点満点なんてあり得ない。

橋本五郎氏(読売新聞特別編集委員):
基本的に領土問題の解決は、二つしか方法がない。一つは戦争をやって取り戻すこと。もう一つは、同じ国になること。例えば、沖縄の返還で言えば、アメリカにとってそれは、都合が良かったから。ということを考えれば、北方領土問題は非常に難しい。難しい中で、しかし、針の穴を通すようにして、追求しなければいけないのが政治。で、そのことを安倍元首相はやった。そして、やってもできなかった、結果として。

稲田朋美氏(自民党元政調会長):
島民の皆さんのことを考えたら、本当にこの問題を解決しなきゃいけない。でも、北方領土のロシアにとっての安全保障上の重要性は本当に増している。しかも、ロシアとアメリカとの関係がここまで悪くなっている中において非常に難しいと思う。その中で、二島返還でもと考えた安倍さんのあの方針は、正しいと思う。

日曜報道THE PRIME
日曜報道THE PRIME

今動いているニュースの「当事者」と、橋下徹がスタジオ生議論!「当事者の考え」が分かる!数々のコトバが「議論」を生み出す!特に「医療」「経済」「外交・安全保障」を番組「主要3テーマ」に据え、当事者との「議論」を通じて、日本の今を変えていく。
フジテレビ報道局が制作する日曜朝のニュース番組。毎週・日曜日あさ7時30分より放送中。今動いているニュースの「当事者」と、橋下徹がスタジオ生議論。