北海道中札内村。

農業が主な産業で人口は約3,800人。
移住者が立候補で無投票を回避
卵農場でパートとして働く木村優子さんは、10年前に大阪から家族で移住してきた。
木村さんにはもう一つの顔がある。村議会議員を務めているのだ。

中札内村議会の定数は8。4年前の統一地方選挙では、立候補者が7人にとどまり無投票に。議会は定員割れとなった。
当時、木村氏は住民アンケートなどを行い、原因を調査した。

すると、「議員の高齢化」、「女性議員の不足」を指摘する声や、「子育て世代の声が届かない」という意見が寄せられた。
これをきっかけに木村氏は、補欠選挙に立候補し無投票で当選。

唯一の子育て世代の村議としての活動。2年間で、高校生までの医療費無償化や、村外の認可外保育園の保育料全額助成などを提案し実現につなげた。
木村 優子氏:
「子どものことばかりだ」という議員もいたが、言えるのは私しかいないのでこだわった
木村さんを支えてきた家族は。
夫・剛樹さん:
誰かのためになっているのを子どもに見せるのは将来的にいいと思う
長男・晃之くん:
頑張っているなとか、ずっと忙しいという感じ。すごいことしているなと思う
そして迎えた2023年4月の統一地方選挙。
4年前に引き続き再び無投票となる可能性もあったが、8年ぶりの選挙戦となることが確実となった。

全て自分たちで行う選挙活動
木村氏の後援会のメンバーは、子育て世代を中心に11人。
後援会メンバー:
勉強会などで知り合った人や近所の人など、みんな子どもがいて顔を合わせる関係
選挙カーはメンバー所有のキャンピングカーに自費で購入したスピーカーをつけた。
ポスター張りなど全て自分たちで行った。

無投票の危機から一転し選挙戦となった背景には、木村氏のような移住者の立候補があった。
無所属で立候補する佐久間正氏は、約3年前に中札内村に移住してきた。
佐久間正氏:
空港が近い立地というのは、人口が増える可能性が高い。ということはサテライトオフィスを作ってほしい
佐久間氏は、にぎわい作りのため閉店したスナックをレンタルスペースに改装し運営。
さらに、村の移住促進協議会や行政推進委員会などに精力的に参加してきた。

佐久間正氏:
議会を動かせるポジションがあれば、発信力を高められるのではというのがきっかけ
移住者の候補者、もう一人は米脇将郁氏。
旭川市出身の米脇氏は、地域おこし協力隊を経て2年前に移住。
投票したい政党がないという人の受け皿になろうと、参政党から立候補した。

5日間にわたる8年ぶりの選挙戦。
定数8に対して立候補者は10人。
そのうち3人が村外からの移住者だ。
現職の木村氏も初めての選挙戦となる。
各陣営のポスターには個性的なものが並ぶ。

候補の支持者:
この方がおもしろいでしょ
顔写真がなく、候補の名前だけが書かれたポスターも。
候補の支持者:
昔から写真はないんだわ。1期目からのポスターだから
地方ならではの投票基準が移住者にとってのハードルにも…
8年ぶりとなった選挙戦。
有権者に投票の基準を聞いてみた。
中札内村民:
僕は知り合いを、信用できる人なので
中札内村民:
私は子育て関係
中札内村民:
村なので知っている人が多い。入れる基準は、知っていて信頼できる人かどうか
人口約3,800人の中札内村。
候補者の人柄が投票基準になることも多いようだ。

地縁がない移住者の候補にとっては、それがハードルになる側面も。
木村氏は演説で実績をアピールして、子育て世代に訴える。
選挙カーに子どもたちが手を振る場面も。

同じく移住者候補の佐久間氏は。
佐久間正氏:
移住してまだ3年目。やはり議員として入っていかなければならないと感じました
街頭演説では政策を前面に押し出し、選挙戦を進める。
そして、選挙戦最終日を迎える。

佐久間正氏:
やるだけやりました。全然知らない人から「期日前投票で入れた」と言われたときは、涙が出るくらいうれしかった
地縁のない移住者が政策を訴えて当選できるのか…
そして投票日。有権者が続々と投票にやってきた。
投票率は75.94%。

自宅で結果を待つ木村さんのもとに、電話が入った。
木村 優子氏:
当確ですか?
木村氏は313票を獲得。

第4位で2期目の当選を果たした。
1位から3位は、村の主な産業である農業や畜産業に従事する候補が独占。
移住者候補の佐久間氏は、わずか8票差で落選した。
同じく移住者の米脇氏は最下位に終わった。

佐久間正氏:
残念なのが正直なところ。123票の重みを感じる
地方議員のなり手不足問題に一石を投じた選挙戦
8年ぶりの選挙戦となった中札内村議選。
結果は3人のうち2人が落選することとなった。
しかし、有権者に1票を投ずる機会を提供したことには大きな意味がある。

深刻な地方議員のなり手不足問題に、移住者の存在は一石を投じたようだ。
(北海道文化放送)