福井・越前市の河川敷に無数の人影が並んでいる。その人影に近づくと、その正体は「かかし」だった。通常、かかしといえば田畑にいるイメージだが、なぜ河川敷にいるのか?
取材を進めると、地域住民の「ある生き物を守りたい」という熱意が背景にあった。
なぜ河川敷に「かかし」?
日光を浴びて、微動だにしない「かかし」。“身長”は成人男性ほどあり、手書きで描かれた穏やかな表情が特徴的だ。

周囲の人:
人かなと思ったけど動かない。かかしがきれいに並んでいるのが、ここを通るたびに気になっていた

周囲の人:
普通田んぼなら、スズメやカラスを追い払うのに立てるけど…
その場所は越前市の日野川河川敷にある。

この不思議なかかしに疑問を感じていたのが、入社16年目で、この春に福井テレビの営業部から初めて報道部に異動になった“新人”小林直史記者(38)だ。私用で近くを通りかかった時に、その存在に気付いた。

福井テレビ・小林直史記者:
河川敷に並ぶかかし、なぜYouはここに?
漁協を悩ませる“カワウによる食害”
かかしの調査を進めると、設置したのは地元の日野川漁協だということが判明した。
早速、副組合長に真相を聞いた。

日野川漁協・佐々木武夫副組合長:
アユの食害を無くすための防御策、カワウ対策として設置した。24時間監視してくれるかかしを立ててはどうだろうという提案があった

かかしを設置した場所は、流れが緩やかになる地点だ。そして、この場所は水位が低いため、水中の魚を潜水して捕食するカワウの「狩りスポット」になっているという。

日野川漁協では毎年、アユ漁を前に70万匹の稚魚を放流している。ただ近年、カワウの食害が続いており、漁協も頭を悩ませていた。
この流域では最大100羽程度のカワウが目撃されている。専門家によると、1日の食べる量は約400グラム。稚鮎に換算すると80匹程度となる。

日野川漁協は被害を減らすため、川に糸を張るなどの対策を講じてきたが、ほかの鳥が引っかかったり、景観が悪くなったりという別の問題が生じてしまった。
「鳥害防御」以外の効果も
そうした中、苦肉の策として生まれたのが「かかし作戦」だった。
2023年4月中旬に初めて設置してみたが、果たしてその効果は?

日野川漁協・佐々木武夫副組合長:
半信半疑で始めたところ、効果てき面。設置以来、食害を及ぼす鳥が全く姿を見せなくなった
さらに、こんな“副産物”も生まれた。

日野川漁協・佐々木武夫副組合長:
かかしの姿をみんなが楽しんでくれている部分もある。家族連れや犬の散歩をする市民が写真を撮ったり、持っているほうきを付け替えたり。少し理解を得られているのではないか
設置の期限は、4月中旬から6月中旬までを予定しているという。
かかしはその後、どうなってしまうのだろうか? 発案者の宇野正雄理事にも話を聞いた。

日野川漁協・宇野正雄理事:
アユ釣りが解禁になれば撤去する予定。だけど、こうやってみるといいもんやね。私は残してもいいんじゃないかという気持ちはある
鳥害の防御策だったかかしだが、地域を明るくするスポットという思わぬ波及効果を生んだ。
日野川漁協では「今後はかかしに代わって、釣り人が増えてくれたらうれしい」と話している。
(福井テレビ)