ふるさと納税は返礼品が魅力のひとつ。自治体の競争は過熱しているが、そこに一石を投じるような試みも行われている。

長野県が4月3日に開設した「ガチなが」
長野県が4月3日に開設した「ガチなが」
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それが、2023年4月3日に長野県が開設した「ガチなが」という、県直営のふるさと納税サイト。こちらでは「本サイトでは、返礼品は原則として提供していません」と明言しているのだ。

掲載されている事業の一例
掲載されている事業の一例

4月28日時点では、伝統的工芸品の支援、医療・介護従事者の支援、減災・防災対策などの10事業で寄付を呼び掛けている。どうして?と思うかもしれないが、背景には悩ましい状況がある。

寄付額の5割近くが諸経費で消える

長野県によると、ふるさと納税は返礼品の人気で寄付先が選ばれる傾向にあるほか、返礼品を用意するための代金や配送料、民間のポータルサイトへの委託料といった諸経費がかかる。その合計額は、寄付額の5割近くにのぼるという。

ガチの寄付を呼び掛けているという
ガチの寄付を呼び掛けているという

こうした諸経費を減らし、地域に使える金額を増やしたいのだという。サイト名も「ガチ(本気)で長野県を良くしたい」という思いが由来だ。斬新な試みだが、一方で気になるのが、こちらのサイトでは寄付金が集まるのかというところ。返礼品を目当てに寄付している人も多いはずだ。

長野県に寄せられたふるさと納税の寄付額の推移
長野県に寄せられたふるさと納税の寄付額の推移

長野県へのふるさと納税額は増加傾向にあり、2021年度は個人・法人合わせて約8万7000件、12億円以上の寄付を集めた。数字だけみると順調そうに思えるが、「ガチなが」を開設したのはなぜだろう。長野県の担当者に聞くと、厳しい実情が分かった。

寄付を集めても赤字になる可能性がある

――「ガチなが」を開設したのはなぜ?

ふるさと納税制度の目的は、「生まれ育ったふるさとや応援したい地域に貢献したい」という想いを、税制を通じて実現することですが、現状は返礼品競争の激化や事務経費の増加によって、住民サービスに充てられる寄付額が減少するなどの課題があります。そこで「ガチなが」を開設しました。


――ふるさと納税の実情を教えて。

ふるさと納税の返礼率は「寄付金額の3割以下」と決められていますが、やはり、上限に近い方が寄付は集まりやすいです。例えば、1万円の寄付に対して、自治体Aが3000円相当、自治体Bが2000円相当で同じ種類の果物を返礼品にすると、Aが果物の量や質が良いために寄付を集めやすいです。

民間のポータルサイトを利用しないと寄付が集まらないという現状がある(画像はイメージ)
民間のポータルサイトを利用しないと寄付が集まらないという現状がある(画像はイメージ)

また、民間の大手ポータルサイトの運営業者に委託すると、寄付額の1割ほどが業者への手数料になります。ただ、こうしたサイトを利用しないと寄付が集まりにくいため、自治体は経費が掛かるもののお願いしている状況です。このため、各自治体が実際に受け取る額は、返礼品代(寄付額の3割)、委託経費(寄付額の1割)と諸経費を除くと、寄付額の5割ほどになってしまうのです。


――それでも、寄付金が集まるならいいのでは?

ふるさと納税は自治体の税金が、他の自治体へ流出する側面もあります。例えば、長野県民が他の自治体に寄付すると、本来は長野県内の自治体へ納められるはずの税金が出ていくことになります。国の推計によると、長野県はふるさと納税によって、2021年度に13.8億の県民税が流出し、2022年度は18.7億が流出する予測です。

2021年度の寄付額は約12億でしたが、先ほどお伝えした諸経費を除くと、実際に残るのは5割ほどです。ふるさと納税は現状、県外に流出した金額の75%を国が補填しているため、結果的には黒字を確保できている状況です。

県民が困っていること、してほしいことに取り組みたい

――「ガチなが」に移行することでのメリットは?

返礼品代や委託経費がかからないため、実際の住民サービスに多額のお金を使えるようになります。「ガチなが」のサイト構築費は約438万円、運営経費は年間で約60万円。カード決済の手数料が寄付額の1~1.5%のため、これまでよりもはるかに低コストになります。

「ガチなが」の特徴と狙い
「ガチなが」の特徴と狙い

――実際はどんな寄付を呼び掛けていくの?

長野県ならでは、あるいは県として重点的に取り組みたい分野に関するプロジェクトを掲載していきたいと思っています。県民の方が困っていること、県にやってもらいたいとの希望を反映できるものが求められると思いますので、現地機関の職員が把握している、県民の問題意識などを取り入れていければと考えています。


――返礼品がないことで、寄付の減少が心配されたりはしない?

返礼品は地元の特産品を扱っており、県内業者の需要増に繋がるなどのメリットもあることから、一律に否定するわけではありません。そのため、当面は大手サイトへの業務委託も継続し、寄付額の激減を防ぐとともに、県内業者の需要確保を図ります。

将来的には「ガチなが」への一本化も

――「ガチなが」にはどんな役割を期待したい?

「ガチなが」のプロジェクトページには、県事業への共感や応援したいという想いを受け止めるため、寄付金の用途も明記しています。事業に対する応援やアイデアの投稿を気軽にできるようにして、寄付者との共創によるプロジェクトの推進により、より良い長野県が創られていくことを期待したいです。

プロジェクトページには寄付金の用途も明記している
プロジェクトページには寄付金の用途も明記している

――長野県ではふるさと納税の今後をどう考えている?

当面は、現在の制度と「ガチなが」との共存を図っていきますが、将来的には「ガチなが」への一本化を目指したいと思っています。


ふるさと納税については、返礼品競争やサイトの運営業者への委託費などで、現状では寄付額が増えても、他県への流出分で赤字になってしまう可能性もあるようだ。

担当者によると、サイトを開設してから40万円弱の寄付が集まっているという。(5月1日時点)
「ふるさとや応援したい地域に貢献したい」という本来の趣旨に立ち返るものでもある長野県の取り組みだが、どの程度の理解が得られるのか、どのように広がっていくのか注目していきたい。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。