優れた芸術活動を表彰する2022年度の日本芸術院賞に、岡山市出身の小説家・小川洋子さん(60)が選ばれた。
小川洋子さんは26歳で作家デビューし、これまでに「妊娠カレンダー」で芥川賞、映画化もされた「博士の愛した数式」で本屋大賞などを受賞。2021年には紫綬褒章も受章している。

2022年度の日本芸術院賞には9人が選ばれ、小川さんは、精力的にユニークな小説世界を生み出し、それを発展させてきたことが評価された。
小川さんに、受賞への思いや、これからの作家活動について話を聞いた。

「小説を書くことで発信し続ける責任感じる」

小川洋子さん:
芸術院賞というのは、とってもベテランの方がお取りになるものだと思っていましたので、自分にお声がかかったのは意外でした。自分は、まだまだ若造のつもりでいましたので

「まだ若造のつもりだった」と語った小川洋子さん
「まだ若造のつもりだった」と語った小川洋子さん
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ーー数々の賞を受賞されているが、この賞の重みはどう感じている?

小川洋子さん:
文学が芸術として認められて、社会で人々に必要とされるものであるということを、小説を書くことで発信し続けていかないといけないなあっていう、そういう責任みたいなものも感じております

日本芸術院賞の重みについて語る小川さん
日本芸術院賞の重みについて語る小川さん

ーーまだご自身が若造だとおっしゃった。そのご年齢の中で受賞に至ったわけだが、改めて責任という言葉が出たが、気持ちを新たにするきっかけのようになった?

小川洋子さん:
そうですね。デビューしてちょうど35年に今年(2023年)なりますし、家庭環境も変わって、本当の意味で小説を書くことに専念することができる年齢になってきて、これからは若いときみたいに、焦りながら書くんじゃなくて、じっくり本当に書きたいものを大事に書いていきたいなって。そういう時期が来たんだなあと言うふうに思います

デビュー35年を迎えての思いは…
デビュー35年を迎えての思いは…

ーー率直に、受賞について嬉しく思っている?

小川洋子さん:
そうですね、嬉しい…、でも嬉しいというよりも前に、賞の決まる仕組みはよくわかってないんですけど、色んな芸術院の会員の方が推薦して下さった結果だと思いますので、私の小説を気にかけて心に留めて、力添え下さった先輩たちがいらっしゃるということで、感謝の気持ちの方が強いですね

ーー受賞の理由に、小川さんの作品には「骨に似たしっかりと固いものがある」という講評があった。ご自身としてはどう捉えている?

小川洋子さん:
骨とか物体とか無機質なものとか、そういうちょっと一見、人間の心とかけ離れたようなものから、そういうものを観察して行く中で人間の心という、ちょっとつかみどころのないものを表現するっていう。そういう書き方はずっと続けてきたかなと思っています。

気になる次の作品は…

ーー作品を作るにあたって大切にしていること、テーマ設定をするときに自身の中で芯のようにしているのは、どういうこと?

小川洋子さん:
一番大事なのは、自分が本当に書きたいという気持ちがなければ最後までもたないので、そういう気持ちにさせてくれるものと出会ったら、それを大事に育てていくっていうことが大事なんですけど。ですからテーマを選ぶときには、本当に自問ですね。「自分が本当にこれを書きたいのか?」っていう。社会が必要としているとか、今、時代がこれを求めているのかとか、そういう視点じゃなくて、「自分が今書きたいのはこれなのか?」っていう、そういう視点を必ず一番に考えるようにしています

テーマの選択は常に自問だという小川さん
テーマの選択は常に自問だという小川さん

ーー次の作品にはもう取り組んでいる?

次回作への取り組みを尋ねると…
次回作への取り組みを尋ねると…

小川洋子さん:
えぇまあ、ぼつぼつ取りかからなければならないんですけれど、なかなか、いつもながら、すんなりといかないですね

ーー最初のイメージから推敲(すいこう)していくのは、どういう作業?

小川洋子さん:
「どうやって書いていったらいいんだろう?」「どこから手をつけていったらいいんだろう?」っていうことが、もう訳が分からなくなって、どうしていいかわからないっていうところから第一行を書き始めて。でも、一行書くと次の一行が見えてくる。一つの場面を描き終わると次の場面が見えて来るという。とても不安な作業って言いますか、小説は先を見通して、着地点をちゃんと見極めて書けるようなものじゃないので、その不安にどれだけ耐えられるかっていうところが勝負かなと思いますね

ーー今、次の作品のイメージは自身の中でもある?

小川洋子さん:
徐々に固まってきていますけど、でも、まだなんとなく書きたいものが点々で散らばっている状態で、それを結び付けていくというか。それは自然に結びつくものなんですけれど、それが星座みたいな、無関係だと思っていたものが結び付いた瞬間に、「あっ書けるな」って言う確信が持てる。それを待ってる状態ですね

「他者への興味が深くなった」

ーー授賞の理由の中に、「営為を更に育て、その仕事が進むように」というコメントもあった。これから先、どのように作品作りに臨んでいきたいと考えている?

小川洋子さん:
あまり余計なことは考えずに、たった一人の読者に向かって書くというようなつもりで書き続けていきたい。たった一人、私の小説を本当に深く理解して、心にとどめてくれる読者がいれば、それで書いた意味があるんだっていうぐらいな気持ちで。文学の世界も本が売れないとか、電子書籍が出てきたりとか、環境は変わっているんですけれど、そういうことに惑わされずに、作家はひたすらいい小説を書くということを目指して行きたいと思います

「作家はひたすらいい小説を書くということを目指したい」
「作家はひたすらいい小説を書くということを目指したい」

ーー家庭環境も変わって自由に書けるようになってきていると話していた。年代によって書くものは違ってくる…、あした(3月30日)お誕生日ですよね

小川洋子さん:
そうなんです

ーー60代に入って、どんな小川洋子の作品をこれから世に出していきたい?

小川洋子さん:
そうですね。もう、だんだん本当に年を取れば取るほど、自分自身へのこだわりっていうのがなくなってきましたね。むしろ他者への興味が深くなる。自分はこう思っているんだということを、自分を主張するために登場人物を使うんじゃなくて、その登場人物がどう思っているか、どんな生き方をしてるかということを書くために私が言葉をつないでいくっていう風に、だんだん自分の比重が少なくなってきて、でもかえってその方が、気が楽になってきました

ーー皆さん楽しみにしていると思うので、これからもいい作品を出していただけたらと思う。今、岡山を訪れることはある?

小川洋子さん:
4月には内田百閒文学賞の授賞式がありますので、そういうのに伺ったり、今でも親戚なんかも岡山にいっぱい住んでいますし。岡山に行く、帰るってことは特別なことじゃなくて、とても自然なことですね、自分にとっては

岡山に帰ることは「自然なこと」と話す小川さん
岡山に帰ることは「自然なこと」と話す小川さん

ーー地元・岡山の人に伝えたいことは?

小川洋子さん:
岡山を離れて私も随分年月がたちますけれど、こうしていまだに私のことを気にかけて、地元のテレビ局の方が取材してくださるのは本当にありがたくて、嬉しく思っているんです。地元の方の応援っていうのは、特別な励ましになると思って感謝しております

授賞式は、2023年6月下旬に東京の日本芸術院会館で行われる。

(岡山放送)

岡山放送
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