新型の国産主力ロケット「H3」の打ち上げが7日行われた。2月に行われた前回の打ち上げは、ロケット発射の直前で中止。「今度こそ!」はと期待されたが…残念ながら失敗。
ロケット工学の研究者で元JAXA客員教授の大阪産業大学、田原弘一教授に「なぜ失敗したのか?」そして「日本のロケット開発は大丈夫なのか?」という点について伺った。

今回の失敗は「2段目エンジン」に着火しなかったこと

なぜ7日の打ち上げが失敗したのか…ですけれども、JAXAによりますと「2段目エンジンに火が付かなかった」ということです。今回の1段目、2段目エンジンの着火からの流れは…?

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大阪産業大学 田原弘一教授:
ロケットの下部にはメインの”1段目エンジン”が付いています。この1段目は着火に成功して、きちんと燃え尽きて、宇宙にロケットを飛ばすことまでは今回は出来たと考えていいと思います。1段目エンジンを切り離すと、次はロケット上部にある”2段目エンジン”へ。ここに着火させることが出来ればよかったのですが、それが確認できなかったと報告されています。それで、ロケットが地上に落下すると危険なので、自ら破壊する「指令破壊」を行ったということです

なぜ第2エンジンが点火しなかったのか?田原教授によると「(エンジンではなく)電気系統のシステムトラブルではないか」ということだ。

大阪産業大学 田原弘一教授:
この2段目エンジンというのは実は、いま利用されている日本の主力「H2Aロケット」のエンジンとほぼ同じ。だから実績も十分にあると考えていいです。2段目エンジンにも1段目エンジンと同じように電気機器が装備されており、色々な信号やデータを発信する役割をする”コントローラー”が付いています。実はこのコントローラーが(H3で)新しく開発された”新作”部分なんですが、この部分が今回の失敗の原因になった可能性が高いと考えられます

大阪産業大学 田原弘一教授:
前回の中止の原因が、「コントローラ部分の電気系統が誤作動した」という風に公表されましたが、それと同じ事象が今回発生してトラブルに繋がったのか…と言われると、(前回と今回とでは)状況が異なるのでそれは違うのではないかと思います

開発費は高額だが打ち上げコストは現行「H2A」の半額

新型の「H3」ロケットは開発費は2000億円を超えている。ただ、その分1回あたりの「打ち上げ費用」が、現行の主力モデルH2Aロケットの半分の50億円ほどでいけるということで、こうなればヨーロッパともコスト面でも戦える水準ということになる。

大阪産業大学 田原弘一教授:
コスト面が半額以下という事に加えて、ロケットの打ち上げ能力も向上します。新型のH3ロケットはH2Aに比べて重量が軽いので、余裕をもって打ち上げることができます。これは現在活躍している欧米のロケットとコスト・性能ともに同じなので、なんとか成功して欲しいですね

今回の打ち上げ失敗で、遅れが生じてしまうと私たちの生活にどんな影響が出てくるのか?

大阪産業大学 田原弘一教授:
ロケットの使命というのは、やはり人工衛星を打ち上げることが一番です。人工衛星は私たちの生活になくてはならないものになりました。気象衛星とかGPSとかいろいろありますが、今回は「だいち3号」という地球観測衛星を運んで、災害時の地球の観測などに活躍することが期待されていました。それが数年遅れることで、そういう正確な情報を入手することも遅れてしまうことになってしまいます

次の打ち上げに成功しないと日本の宇宙産業に影響が出てきそうだ。しかし、今回の失敗が「エンジントラブルではなさそう」というところが“救い”だと田原教授は言う。

大阪産業大学 田原弘一教授:
そうですね。前回もエンジンは無傷でした。今回も(2段目エンジンに)点火はしなかったけれど、エンジンそのものに欠陥はないと思われます。だから電気系統とかシステム系統をしっかり作り上げれば、次は成功するのではないかと思います

次回の打ち上げには数年かかるとみられるが、「その時」を期待して待ちたいところだ。

(関西テレビ「報道ランナー」3月7日放送)

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