2月6日に発生したトルコ大地震で、建物が大規模に倒壊し、街全体が消失したかのような情景は日本でも繰り返し報じられた。
トルコのエルドアン大統領は2月20日、地震によって約11万8000棟の建物が、倒壊したか、緊急に取り壊しが必要になったか、あるいは深刻な害を被ったと述べた。死者数はトルコだけで4万3000人を超えている。建物の大規模な倒壊が死者数を増大させた一因であるのは明らかだ。
この記事の画像(6枚)エルドアン政権と建設業者の癒着
では、なぜこれほど大規模に建物が倒壊したのか。その原因として、エルドアン政権と建設業者の癒着を指摘する声は多い。
建設業界はエルドアン氏にとって重要な支持基盤だ。折しもエルドアン氏が政権を握って以来、長らくトルコでは建設ブームが続いてきた。エルドアン氏は公正な入札を経ず、「お仲間」の建設業者にインフラ事業を発注し、手抜き工事で安全基準を満たしていない建物に対しても、一定の金額を国に納めることで行政処分を見送る措置を続けてきた。
BBCはこの行政処分免除について、1960年代から続いており、今回の地震の被災地でも7万5000棟の建物にこの処分免除が与えられていたと報じている。
トルコは地震の多い国であり、1998年には近代的な耐震基準も制定され、翌99年には施行された。しかしそれは実際には徹底されず、骨抜きにされてきたわけだ。
エルドアン氏がスピードとコストを優先する建設業界に対して行政処分免除を与え、それと引き換えに業界からの支持をかためてきたことは、前回の大統領選が行われた2018年に全国で700万件以上の免除申請があったことからも裏付けられる。エルドアン政権の腐敗が今回の「人災」を招いたと批判される所以だ。
一方エルドアン氏は、倒壊した建物は近代的な耐震基準が施行される以前に建てられたものだとして政権に対する批判を退け、建設請負業者ら100人以上に逮捕状を出し、すでに10人以上を拘束している。
加えて、被災者に対し20万戸の住宅を建設すると約束し、それらを断層から離れた頑丈な地盤の上に建設すること、高層にはせず高くても3〜4階建てにすること、「正しい方法」で建設することなどを明言した。エルドアン氏は、「テントやコンテナで生活している人々は1年以内に頑丈で安全かつ快適な家に住み始める」とも述べている。
今回の建物倒壊の全責任を業者に負わせ、自身は「被災したかわいそうな国民を迅速に救済するヒーロー」の座に収まるつもりらしい。
繰り返される人災
エルドアン政権と癒着した「お仲間」業者の手抜きのせいで、国民の命が失われたり生活に大きな支障が出たりしたのは、今回の地震が初めてではない。
2020年に西部イズミル県沖で大地震が発生した際には、214棟の建物が倒壊したり、深刻な被害を受けたりし、114人が死亡した。BBCはこの地震後、同県では67万2000棟が直近の行政処分免除の恩恵を受けていたと報じている。
にもかかわらずエルドアン政権は、今回の地震発生の直前にも新たな行政処分免除法案を検討していた。
2021年にトルコ南部で山火事が発生し、少なくとも9人が死亡、数千人が避難を余儀なくされた際には、「お仲間」建設業者が環境に配慮していなかったことや、政権が空中消火機を保有していなかったなどが批判された。
今回のエルドアン氏の約束も、一時的に批判を免れ、選挙で勝ち抜けるための方便にすぎない可能性は排除できない。少なくとも彼が、権力の座を明け渡す気配は微塵もない。