日本郵船が運航する貨物船が11月19日、紅海でイエメンの武装勢力フーシ派に襲撃されて乗っ取られ、フィリピン人やブルガリア人などの船員22人が拘束された。
この記事の画像(6枚)フーシ派がなぜ日本の貨物船を攻撃したかというと、フーシ派いわく、この船を所有しているのがイスラエル人だからだとのこと。フーシ派というのは、イランから資金・武器を供与されているいわゆる「代理組織」だ。イランの国是は「イスラエルせん滅」であり、フーシ派の武装組織「アンサールッラー」も「イスラエルに死を、ユダヤ人に呪いを」という標語を掲げている。
フーシ派は声明で、イスラエルがガザを攻撃していることへの報復としてイスラエル船を拿捕したと主張した。ガザを支配するハマスもフーシ派同様、イスラエルせん滅という目標を掲げ、テロ攻撃を実行している。
イスラエルへの攻撃…実質的には“イランとの戦争”
イスラエルは常に、イランから資金・武器を供与されている武装テロ組織、テロ支援国家に囲まれ、それらの攻撃にさらされている。北にはレバノンのヒズボラ、東にはシリアのアサド政権、そして南のガザ地区を実効支配しているのがハマス、さらに遠方のイエメンにはフーシ派がいる。
10月7日にハマスがイスラエルに対する大規模テロ攻撃を開始して以降、ハマスに加えてヒズボラ、シリア、フーシ派が一斉にイスラエルを攻撃した事実は、これが実質的にはイスラエルとイランの戦争であることを示している。
フーシ派は今後も、イスラエルに関係するあらゆる船を攻撃すると宣言している。イスラエル人やイスラエル企業が直接所有したり運航したりする船以外にも、その所有にイスラエル人が関与しているだけでも標的となることが、今回の貨物船拿捕によって明らかとなった。
イランと「良好関係」維持する日本
イエメンのフーシ派の支配領域は、紅海の出入り口であるバブ・エル・マンデブ海峡に面している。ここは日本にとって、ホルムズ海峡と並ぶ重要なシーレーンだ。拿捕された貨物船には日本人船員がいなかったからいいじゃないか、などと言って済む問題では全くない。
日本は、エネルギー資源の約90%、食料はカロリーベースで約60%を輸入に依存しており、日本の貿易の99%以上は海上貨物が占める。日本商船隊の船員は95%以上を外国人が占め、日本人は5%に満たない。外国人が日本の船に乗らなくなれば、日本の物流は途絶え、国民生活、経済活動はたちまち立ち行かなくなる。
これまで日本政府は、中東における日本船の安全を、「外交努力」と「情報収集」によって確保する「我が国独自の取組」を続けてきた。「我が国独自の取組」とは、要するに米国の主導する「海洋安全保障イニシアティブ」下に設置された「国際海洋安全保障構成体」には参加しないことを意味する。なぜなら、それへの参加は「イランとの関係」に差し障るからだ、というのが日本政府の立場だ。
政府は、2023年11月14日に更新された「中東地域における日本関係船舶の安全確保に関する政府の取組」においても、「我が国は米国と同盟関係にあり、同時にイランと長年良好な関係を維持するなど、中東の安定に関係する各国と良好な関係を築いています」と断言している。しかし現実に、日本の貨物船がイランの代理組織によって拿捕された。2021年7月にも、そして2019年6月にも、日本のタンカーはイランによって攻撃されている。
要するに日本政府は、日本船がイランに複数回攻撃されているという現実から目をそらし、日本はイランと長年良好な関係を維持している、だから中東における日本の船の安全は確保されているとウソをついているのだ。
中東における日本船の安全は…
貨物船拿捕後の記者会見で、現地情勢の認識と今後の外交方針について問われた上川外相は、「外務省といたしましても、中東地域全体の情勢につきまして、緊張感をもって注視しております」と回答した。
外務省が緊張感をもって注視したところで、フーシ派の攻撃を抑止できるわけがなく、日本船や日本企業の活動の安全は全く守られない。岸田政権は深刻な事件発生を受けてなお、有効な手を打つことも外交政策を見直すこともないまま、日本企業と日本のシーレーンの安全確保という重大責務を放棄したのだ。
AP通信は11月25日、米国防当局者筋として、イスラエル人が所有するコンテナ船がインド洋でイラン製と思われる自爆ドローンによって攻撃されたと報じた。日本商船に迫る危険は杞憂(きゆう)ではない。
「日本は中東のあらゆる国と良好な関係にあるから大丈夫」という外務省の中東外交の前提自体が幻想であることを認め、実態に即した外交へと改めない限り、日本の未来は危うい。