イラン外務省のキャンアニ報道官は1月24日、日本メディアとの会見で、イランが支援するイエメンのテロ組織フーシ派が2023年11月に日本郵船の運航する貨物船ギャラクシー・リーダー号を拿捕した件について、「日本政府からの要請があれば行動する」「解決できる」と述べた。

これは奇妙な発言だ。

岸田総理大臣は2023年12月2日、イランのライシ大統領と電話で会談し、フーシ派によるギャラクシー・リーダー号の拿捕を非難し、同号と乗組員の早期解放のため働きかけを行うよう要請した。日本政府はイランに対し、すでに「要請」しているのだ。

しかし、それから2カ月が経過した今も、同号は解放されていない。フーシ派は同号の甲板に、米軍によって暗殺されたイランのイスラム革命防衛隊司令官ソレイマニの顔が描かれた垂れ幕を掲げる映像を公開するなど、さかんにプロパガンダに利用している。

ギャラクシー・リーダー号の甲板でスローガンを叫ぶフーシ派支持者ら(1月16日公開の映像より)
ギャラクシー・リーダー号の甲板でスローガンを叫ぶフーシ派支持者ら(1月16日公開の映像より)
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これは日本政府からの要請があっても、イランは「行動」をとることもなければ、問題が「解決」されることもないという証だ。

同報道官は「イランと日本の友好関係に基づき、解決に協力する用意がある」とも述べたが、これも文字通りに受け取ることはできない。イランは近年だけでも2019年6月、2021年7月、2023年12月と3回も日本のタンカーを攻撃している。いずれもイランは関与を否定しているが、米国や英国はこれをイランによる攻撃と認定している。

これだけ繰り返し攻撃されれば、友好関係などウソだとわかりそうなものである。ところが日本のメディアは、「イランは日本の伝統的友好国」だと言い続ける。

貨物船拿捕はイランの指揮下に行われた可能性

フーシ派についても、日本のメディアは「親イラン武装組織」とか「イエメンの反政府武装勢力」などと婉曲的な描写をするが、これは実質的にイラン子飼いのテロ組織である。

フーシ派は、ギャラクシー・リーダー号を乗っ取る際の映像を公開
フーシ派は、ギャラクシー・リーダー号を乗っ取る際の映像を公開

ギャラクシー・リーダー号を拿捕したのもフーシ派だ。覆面をした複数のフーシ派戦闘員がヘリコプターで乗り付け、操縦士などに銃を突きつけて船を乗っ取り、「イスラエルに死を!アメリカに死を!」などと叫んだ。フーシ派自身がこの様子を撮影し、得意げに映像を公開したのだから間違いない。行動はテロリストそのものだ。

フーシ派はその後も、イエメン沖を航行する民間船舶に対し、対艦ミサイルを撃ち込んだり、自爆ドローンを送り込んだり、小型船で乗り付けて乗っ取ろうとしたりするといった攻撃を30回以上も繰り返している。米国は1月、フーシ派を再度テロ組織に指定した。

イランがフーシ派に供与しようとしたイラン製の武器。2024年1月に米中央軍が押収した。
イランがフーシ派に供与しようとしたイラン製の武器。2024年1月に米中央軍が押収した。

フーシ派の民間船舶攻撃については1月、イランがこれを直接指示しているとロイター通信が報じた。イランはこれまでもフーシ派に武器・資金供給してきたが、2023年10月7日のハマスのテロ後に支援を強化、12月にはフーシ派戦闘員がイランで最新兵器を使う訓練を受け、イランの革命防衛隊員がイエメンの首都サヌアに司令本部を設置し、そこに駐在してフーシ派が船舶攻撃するのを指揮・監督している、とのことである。

米英当局は以前から、イランがこれを指揮しているとしてイランを非難してきた。ロイターの報道は、米英の認識の正しさを裏付けている。要するに、ギャラクシー・リーダー号拿捕もまた、イランの指揮下に行われた可能性が高いわけだ。

ところが日本メディアは、イラン当局者の明らかな虚言を問いただすこともしなければ、イランの言動の矛盾を指摘することもなく、「イランは伝統的友好国」だと繰り返す。

拿捕されたギャラクシー・リーダー号
拿捕されたギャラクシー・リーダー号

しかし、現実から目を背けても現実は変わらない。現実とは、日本はイランにとって最大の敵国アメリカの同盟国であるということ、日本のタンカーがイランによって繰り返し攻撃されているということ、イラン子飼いのテロ組織が拿捕した日本の貨物船の甲板に、イラン革命防衛隊司令官の顔のついた垂れ幕が掲げられているということである。

伝統的友好国だということになっているイランが、実際には日本を攻撃しているという問題は、「部屋の中の象(an elephant in the room)」になってしまっている。いくら見えないフリをしたところで、間違いなくそこに象はいる。そして見えないフリを続けたところで、象は決していなくなりはしない。
【執筆:麗澤大学客員教授 飯山陽】

飯山陽
飯山陽

麗澤大学客員教授。イスラム思想研究者。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学。博士(文学)。著書に『イスラム教の論理』(新潮新書)、『イスラム教再考』『中東問題再考』(ともに扶桑社新書)、『エジプトの空の下』(晶文社)などがある。FNNオンラインの他、産経新聞、「ニューズウィーク日本版」、「経済界」などでもコラムを連載中。