ほとんどの人は、見たこともない漢字たち。「こんな漢字が本当にあるの?」と疑問に思う人もいるだろう。

奇妙な漢字の世界を堪能できる杉岡幸徳さんの著書『奇妙な漢字』(ポプラ社)から、一部抜粋・再編集して紹介する。

<アートな漢字>缶が乱入?ソフトクリーム?女帝が勝手に? 

「田」に囲まれた中に、違う漢字が2つ混ざっている。この字が意味するものは何なのだろうか。

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【部首】缶部26画【総画数】32
【音】ライ【訓】さかだる
【意味】酒樽  

この字も複雑。「田」をひたすら積み重ねたのかと思ったら、よく見ると、2カ所だけ「缶」と「回」に化けている。内部は迷路だ。 

これは「罍(らい)」の古字で、酒樽を表わす。器を表わす「缶」が乱入しているのはそのためだろう。  

【部首】人部14画【総画数】16
【訓】けんか
【意味】けんか 

江戸時代の戯作者である式亭三馬の奇書『譃字尽(うそじづくし)』に出てくる漢字。抽象的な模様のようだ。

読み方は「けんか」。人が8人集まって、しきりに揉めている。一番下の人は7人にのしかかられ、伸びてしまっている。辛そうだ。

【部首】言部?画【総画数】(?)
【音】ゲン・ゴン【訓】い-う
【意味】言う。言葉 

綿菓子かソフトクリームに見える。『字鏡集(じきょうしゅう)』に出てくる字で、「言」と同字だという。

古文書を真剣に読んでいるときに、こんな間抜けなフィギュアが出てきたら、 脱力してしまうだろう。

【部首】口部0画【総画数】1
【音】セイ【訓】ほし
【意味】星 

星を意味する漢字。 しかし、こんなものが漢字なのか。ただの“マル”ではないのか。 

だが、この字を馬鹿にしてはいけない。

これは神聖かつ崇高な「則天文字」なのである。則天文字とは、中国史上唯一の女帝である則天武后(624頃~705)が、自らの権勢を誇示するため、勝手に作らせた漢字である。

その数は18個ほどと言われている。

<動物の漢字>龍が4つでおしゃべり?

【部首】龍部48画【総画数】64
【音】テツ・テチ
【意味】言葉が多い。おしゃべり 

「龍」というただでさえややこしい字を、4つも積み重ね、さらにややこしくした字。「龍」は16画だから、全部で64画ある。

意味は「おしゃべり」だ。

一般的には、この字こそがもっとも画数の多い漢字だとされている。「龍4つ+一(てついち)」という人名も存在する。

もっとも画数の多い漢字と、もっとも画数の少ない漢字を組み合わせたわけだ。

<何かがおかしい>たった一つの「、」が狂わせる

【部首】玉部0画【総画数】5
【音】シュク
【意味】傷のある玉。玉の細工人 

初めてこの漢字を見つけた時、私は非常に感動した。「玉」の「、」を少しずらすだけで、まったく別の字になってしまうとは…! 

言うまでもなく、この「、」は玉についた傷を表している。 

『奇妙な漢字』(ポプラ社)
『奇妙な漢字』(ポプラ社)
杉岡幸徳
杉岡幸徳