鹿児島のバレエ界をけん引してきた、白鳥見なみさん(83)。70歳で踊りの第一線は引退したが、2023年、13年ぶりに舞台に立つことを決意した。本番に向けて奮闘する鹿児島バレエ界のレジェンドに密着した。

白鳥見なみさん、83歳

鹿児島市にスタジオを構える「白鳥バレエ」。戦後間もない1949年に創設され、鹿児島はもとより国内、海外で積極的に公演してきた鹿児島を代表する歴史と伝統を誇るバレエ団だ。

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その白鳥バレエのすべてを16歳で継承し、鹿児島のバレエ界をリードしてきたのが、白鳥見なみさん、83歳。

70歳の時、踊りの第一線は引退したが、その見なみさんが、2023年、鹿児島県バレエ協会創立50周年記念公演で、13年ぶりに舞台に立つことを決意した。

記念公演まで約2週間となった1月14日、鹿児島市にある白鳥バレエのスタジオを訪れると、広いスタジオの中央で、一人準備をする見なみさんの姿が。この日は記念公演に向け初めての全体リハーサル。見なみさんは誰よりも早くスタジオに入り、体をほぐしていた。

白鳥見なみさん:
それぞれのダンサーによって体作りは違います。私の場合は体の中から作る

約1時間かけて心と体を整えること。見なみさんにとってこのルーティンは欠かせない。

「お客さまに最高の舞台を見せたい」

10歳からバレエを習い始めた見なみさん。

16歳の時、当時の師匠が鹿児島を離れることになり「白鳥見なみ」の名前とバレエ団を継承。高校に通いながら、指導と自らの演技を両立させた。

白鳥見なみさん:
白鳥バレエの楽しい劇場は、見て楽しく、心で楽しく。そういうもの

しなやかな踊りと見る者を魅了する表現力で数々の賞を受賞している見なみさん。70歳の時、代表作「平家物語」を最後に、惜しまれつつ舞台を引退した。

しかしその後も指導者として鹿児島のバレエ界発展に尽力し、鹿児島バレエ協会創立50周年記念の公演で、再び舞台に立つことを決めた。

白鳥見なみさん:
コロナ禍の中で、自分が踊って、みなさんに元気になってもらいたいという気持ちです

娘の白鳥五十鈴さんは、白鳥バレエの団長を務める。誰よりも「見なみ」さんを尊敬している。

白鳥五十鈴さん:
コロナを経験しましたので、白鳥(見なみ)は。1週間寝ているだけで筋肉が落ちる。結構きついと思いますが、13年前に舞台を降りたけど「私は動けるよ!」と。私だったら嫌だけどなと思うんです

見なみさんが演じるのは、夢の中で、憧れの「薔薇(バラ)の精」と踊る少女の役。指先から足先まで繊細な動きと体全体での表現が必要な、難しい役だ。

「薔薇」役 Kバレエカンパニー・西野隼人さん:
長年、鹿児島でバレエをやられてきた方なので、舞台芸術を愛する気持ちは、お会いするたびにどんどん深まっていると感じる

白鳥五十鈴さん:
きつそうですけど、リフトとかは普通はできないですよね。いつも舞台はわが物顔に踊れる人なので、今の白鳥の美しい形を表現すればいいと思うので、絶対諦めないでやるべきだと思います

「お客さまに最高の舞台を見せたい」そんな思いで練習に励む見なみさんは、リハーサルを重ねた。

本番中に思わぬアクシデント

いよいよ1月28日、本番の日を迎えた。会場に到着した見なみさんに「ご気分はいかがですか?」と聞いてみると明るい表情でこう答えた。

白鳥見なみさん:
良い気持ちです

「楽しい劇場へようこそvol.2」は、白鳥バレエとしても3年ぶりの公演。心待ちにしていたファンで、会場の川商ホール(鹿児島市民文化ホール)は埋め尽くされた。

開演のブザーが鳴り幕が開くと、早速、見なみさんが舞台に登場し。観客の拍手に応えた。

続いて、人形に扮(ふん)した娘の五十鈴さんが登場。機械仕掛けのようなステップと華麗な動きを織り交ぜた演技で観客を魅了した。

しかしその頃、舞台裏では思わぬ出来事が起きていた。「薔薇の精」の演目の前に、見なみさんがアクシデントにより負傷し、倒れ込んでしまったのだ。

現場に緊張感が走る。このままでは見なみさんの出演は難しい。見なみさんの久々のステージを楽しみにしているファンに、どのように伝えるべきか?団長の五十鈴さんは決断を迫られていた。

そして「薔薇の精」。舞台に登場したのは見なみさんではなく、マイクを手にした五十鈴さん。観客にこう語りかけた。

白鳥五十鈴さん:
ありがとうございます、ようこそお越しくださいました。「薔薇の精」、注目の演目です。先ほどまで万全の状態でリハーサルをして、バラの香りをかぐような豊かな舞を披露する予定でした。白鳥見なみは舞台の幕が開いてからのアクシデントでドクターストップがかかり、ここに登場することができません。ご安心ください!大きな事故ではないのですが、完全な状態で皆さんの前に、復活の白鳥見なみの姿をお見せしたかったので、この曲で登場することができなくなりました。白鳥見なみは近い将来、改めて、皆さんの前に、「不死鳥白鳥」を示すために登場いたしますので、ぜひともご期待いただきますよう、よろしくお願いします!

客席から大きな拍手が起こった。

白鳥五十鈴さん:
白鳥(見なみ)は私たちには出せない味があって、バレエでは身体能力などが重要なので、こんな年齢で踊る人はなかなかいないんですが、キレイだったので、すごくお見せしたくて。本人が一番悔しいだろうと思います。子供たちは悠然と踊っていたので、白鳥のスピリット(精神)が入っている踊りをしていて、私は幸せです

白鳥バレエ・若松佳奈子さん:
先生のおっしゃる一つ一つが身にしみて、それが自分なりに発揮できて、お客さんに見せられたことがうれしい

白鳥バレエ・増森乙華さん:
練習したことが本番でも発揮できたし、先生がおっしゃる一つ一つが大切だと感じました

次の世代に脈々と受け継がれるバレエへの情熱。見なみさんはこの公演から4日後、早くもレッスンで元気な姿を見せたという。
白鳥見なみさんの挑戦は、これからも続く。

(鹿児島テレビ)

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