単独で飼育されていたはずのサルが出産。当時“謎の出産”と話題になったが、2年かがりで、子どもの父親がついに判明した。

発端は2021年2月10日にさかのぼる。長崎・佐世保市の九十九島動植物園「森きらら」で、シロテテナガザルの「モモ」(メス・当時10歳)が赤ちゃんを抱いているのを職員が発見したのだ。

子どもを抱くモモ(2021年撮影)
子どもを抱くモモ(2021年撮影)
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しかしそれは、起こるはずのない事態だった。同園では複数のテナガザル類が暮らしているが、モモは数年間にわたって単独飼育されていたのだ。テナガザル類は妊娠してもお腹が大きくなりにくいため、職員が気づくこともなかったという。

父親候補は4頭…当時の状況は?

同園では、フクロテナガザルの展示場、入れ替え展示の展示場、シロテテナガザルの展示場が並ぶ構造になっていて、裏側にサルたちの寝室があった。

モモたちが生活するテナガザル獣舎(2021年撮影)
モモたちが生活するテナガザル獣舎(2021年撮影)

入れ替え展示の展示場では、午前にアジルテナガザルのイトウ(オス・当時32歳)、午後にモモが生活していたが、接触はさせていなかったという。

2021年当時のテナガザル獣舎の見取り図(森きららの回答を基に作成)
2021年当時のテナガザル獣舎の見取り図(森きららの回答を基に作成)

モモの寝室と展示場は小さな穴が開いたパンチングボードで仕切られていた。

展示場の間はこのような状態(※2021年3月時点)
展示場の間はこのような状態(※2021年3月時点)

このほかの状況としては、各展示場の間は鉄柵や二重網などで仕切られていたが、網目の間に小さな隙間はあった。こうした要素から、イトウを含めた4頭が父親候補と考えられた。

父親候補の面々。中央がアジルテナガザルのイトウ(2021年撮影)
父親候補の面々。中央がアジルテナガザルのイトウ(2021年撮影)

本当に網目や穴のわずかな隙間から交尾をしたのか?そして4頭の父親候補のうち誰なのか?
ミステリーな状況は“謎の出産”として、人々の関心を集めた。編集部でも取材をしており、当時の状況や考えられる可能性などをお伝えした。それから約2年、父親がついに判明したのだ。

(参考記事:単独飼育していた「シロテテナガザル」謎の出産!? 父親候補は4頭…飼育環境から浮かぶ“可能性”

父親が判明…子どもはどう授かった?

森きららは1月30日、DNA鑑定の結果、イトウが父親だったと発表。モモの子がオスであることも分かったという。父親の謎は解けたが、モモはどうやって子どもを授かったのか。森きららの担当者に聞いた。


――モモの子の父親はどのように調査した?

モモの子と、父親の可能性がある4頭の糞便や体毛から、DNAを抽出して判定する方法を選びました。判定には通常、血液または毛を用います。血液は最も信頼性が高いのですが、捕獲して麻酔をかけるなどして採血をする必要があり、大きなストレスがかかるためこの方法は取りませんでした。

モモとその子どもの様子(2021年撮影)
モモとその子どもの様子(2021年撮影)

――2年かがりの判明となったのはどうして?

毛の採取はモモが子を大事に抱えているため、難しいという問題がありました。捕獲や麻酔を伴わず負担のかからない判定方法を模索していたため、時間がかかってしまいました。

交尾が行われたと思われるパンチングボード(2021年撮影)※現在は鉄製で穴がないものに変えている
交尾が行われたと思われるパンチングボード(2021年撮影)※現在は鉄製で穴がないものに変えている

――イトウとモモはどう交尾したと考えられる?

展示場とモモの寝室を仕切るパンチングボードには、直径9mm、厚み5mmの穴が無数に開いていました。このパンチングボード越しで接触したと考えております。研究機関にも見せましたが(交尾は)不可能ではないと回答をいただきました。

2023年のモモとその子ども
2023年のモモとその子ども

――モモの子の体重や身長は?2年で成長した?

目視での感じですが、体重は2kgくらい、身長は40cmくらいです。生後から1年ほどは母親にべったりでしたが、昨年の夏ごろからは展示場のロープや柵で器用に動き回るなど、やんちゃでとても元気に過ごしています。園でも人気者です。


――父親が判明して飼育状況に変化はあった?

飼育状況は現在も変わらず、午前、午後の交代で展示を行い、別々の寝室で過ごしています。モモとモモの子は一緒ですが、イトウと一緒の空間で過ごすことはまだありません。

モモの子とイトウを並べてみた
モモの子とイトウを並べてみた

――モモの子とイトウに似ている部分はある?夫婦や親子の関係はどう?

体色は似ていたと思います。ただ、シロテテナガザル同士でもいろんな体色の子が生まれるので検査結果が出るまではわかりませんでした。(関係性について)イトウとモモの寝室は互いに目視できますが、どちらも気にしていない様子です。ただ、モモの子が鳴いたりすると、イトウが反応を見せることもあります。

将来的には親子の同居を目指したい

――今回の結果をどう受け止めている?

ようやく父親及び性別が分かり安心しています。奇跡的に誕生した一つの命としてしっかりと飼育していきたいと考えています。


――親子の扱いはどうする予定?

モモの子が乳離れした後、時間をかけながらにイトウに慣れさせる練習を行っていき、最終的には親子の同居を目指していきたいと考えています。最後まで見守っていきたいと思います。



なおモモの子の性別も分かったことから、名前は職員たちがこれから決めるという。将来的には、一家団らんの光景を見ることもできるかもしれない。

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プライムオンライン編集部
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FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。