単独で飼育されていたはずのサルがある日、子供を出産していた。そんな出来事が長崎・佐世保市の動物園で起き、人々の関心を集めている。

話題となったのは、佐世保市の九十九島動植物園「森きらら」で飼育されている、メスで10歳のシロテテナガザル「モモ」。単独で飼育していたにもかかわらず、職員が2月10日、子ザルを抱きかかえているのを発見したというのだ。

モモと今回発見された子ザル
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撮影された写真を見ると、モモのそばには可愛らしい子ザルが。その姿は親子そのものだ。

その一方で気になるのは、単独で飼育されているはずのモモがなぜ妊娠・出産したのか。そして父親は誰なのか。園の担当者に周囲の状況などを聞くと、思わぬ可能性も見えてきた。

5~6年前から単独で飼育

ーー子ザルに気付いた経緯を教えて。

2月10日の朝、飼育員が獣舎に行った際、赤ちゃんを抱えているのを発見しました。モモは5~6年前から単独で飼育されていて、妊娠の可能性はないと思っていたために、とても驚いたとのことでした。

モモたちが生活するテナガザル獣舎

ーーモモはなぜ単独で飼育されていた?

シロテテナガザルは5歳くらいから性成熟し、繁殖相手を見つけて交尾するようになります。シロテテナガザルが希少種で国内外でも血統管理を徹底していること、近親交配すると障害を持った子供が生まれる可能性があるため、単独で飼育していました。


ーー妊娠には気づかなかった?

シロテテナガザルの妊娠期間は約7カ月ですが、テナガザル類は妊娠してもお腹が大きくなりにくいため、気づきませんでした。単独で飼育していたので、妊娠を疑うこともありませんでした。


ーー子ザルはどうなる?親子の様子は?

子ザルは当園で育てていきます。様子ですが、出産翌日には授乳も確認され、献身的に育てています。動物は本能で行動しますが、大事に見守っているように見えます。

授乳も確認されている

展示場と寝室以外は移動なし…謎は深まるばかり

ーーテナガザル獣舎の環境はどうなっている?

まず当園では、今回生まれた子ザル以外だと、次のテナガザル類を飼育しています。

・シロテテナガザル(4頭)
 モモ  :メス/10才
 ヨタロー:オス/30才※モモの父親
 モンロー:メス/21才※モモの母親
 ジュリ :メス/4才※モモの妹

シロテテナガザルのモンロー(左)とヨタロー

・フクロテナガザル(4頭)
 カーリー:オス/23才
 クロ  :メス/28才
 カケル :オス/7才
 のぼる :オス/5才

フクロテナガザルの面々。左がカーリー

・アジルテナガザル(1頭)
 イトウ :オス/32才

アジルテナガザルのイトウ

獣舎はおり状になっていて、正面から見ると、左にフクロテナガザルの展示場、中央に入れ替え展示の展示場、右にシロテテナガザルの展示場となります。展示場の裏には、テナガザルの寝室とスタッフ用の飼育通路があります。

テナガザル獣舎の見取り図(森きららの回答を基に作成)

ーーモモはどのように生活していた?

現在はスペースの関係上、中央の展示場では午前にイトウ、午後にモモを展示しています。モモは12:00~17:00ごろまで展示場にいて、夕方から翌日の昼までは、中央の展示場とつながっている寝室で過ごしていました。

中央の展示場の様子

展示場と各寝室は鉄のドアで仕切られていますが、モモのドアはパンチングボードに変えていました。テナガザルは、異種間でも同空間で飼育可能な例があることから、当園では、イトウとモモの同居を可能とするため、パンチングボードを通してお見合いを実施していました

同居が可能になれば、寝室よりも広い展示場で過ごす時間が長くなり、複数頭でくらすことで個体間の関係やテナガザルの本来の生態に近い生活ができるようになります。

モモの寝室と展示場を仕切るパンチングボード(現在は撤去)

状況からいうとイトウが父親では…と考えたくなるが、担当者によると、パンチングボードでも閉鎖されているときは行き来できないという。そして、考えられる父親候補は複数いるというのだ。
 

展示場の隙間で交尾したか…父親候補は4頭

ーーそれでは誰が父親?どうやって妊娠した?

各展示場の間には鉄柵や板、二重網などを設けているのですが、その隙間で交尾した可能性が高い
と考えています。子ザルの父親として考えられるのは、ヨタロー、カーリー、イトウ、カケルの4頭です。ノボルは5歳でまだ生殖能力はありません。

父親候補の面々(左からヨタロー、イトウ、カーリー。カケルは撮影写真がないとのこと)

交尾の可能性として考えられる場所は、以下4カ所あります。

(1)モモとモモの両親の獣舎間にある二重網。網目の大きさ1×1cm、厚み2cm
(2)モモとモモの両親の獣舎間にある老朽化によってできた穴。直径5mm~9mm、厚み10cm
(3)モモとイトウのお見合いに使用したパンチングボードの穴。直径9mm、厚み5mm
(4)モモとフクロテナガザルの獣舎間の二重網。網目の大きさと厚みは(1)と同様

展示場の間は二重網と板で仕切られている

ただ、(2)は穴の厚みが10cmあること、(4)は二重網だけでなく板も取り付けていることから、それぞれ可能性は低いと考えています。

1年後に子ザルのDNA鑑定

ーー子ザルの父親は調べるの?

授乳が終了する約1年後、子ザルは母親(モモ)から離れ、単独で行動するようになります。その後に飼育スタッフが近づくことができれば、毛を採取してDNA鑑定する予定です。


ーー父親が判明した後の予定は?

離乳後にモモの避妊を行った上で、イトウとモモ、子ザル3頭での同居を行っていきたいと考えています。もし、イトウが父親であった場合は、親子の同居ということになります。


ーー今回のことをどう受け止めている?

新しい命の誕生は大切にしたい。モモの子育ても温かく見守っていきた
いと思っています。しかし、動物園の役割のひとつである「種の保存」という観点からは、今回の妊娠は交雑種、近親交配の可能性があることから、本来あってはならないため、反省すべきことであります。

再発防止策としては、授乳期間が終了するころ(授乳期間は発情・妊娠することがない)に、隣り合う獣舎との間に鉄板を設置し、隙間を作らないなどの対策をします。

親子を温かく見守っていきたい

展示場のわずかな隙間で交尾した可能性が高いようだが、父親がわかるのは約1年後のようだ。詳細が気になるところだが、生まれた子ザルが大切な命であることには変わりない。園側も再発防止策もするというので、成長を温かく見守っていきたい。

(画像提供:九十九島動植物園「森きらら」)

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