「市長が不正に関与した」。
福井・鯖江市では今、市議会が強い調査権限を持つ百条委員会を設置し、市長の入札不正の疑惑を調べている。ただ市長は当初から「ありえない」と疑惑を一貫して否定。設置から4カ月経過したが、いまだ疑惑の解明にはいたっていない。
一方市民に聞くと、多くがこの“騒動”に関心がないことが分かった。なぜ百条委員会の設置まで発展してしまったのか？
鯖江市 百条委員会設置は約半世紀ぶり
市議会が疑惑として調べているのは、市内に建設が計画されている「ごみ焼却施設」の入札についてだ。建設費と運営費であわせて約270億円の血税が投入される公共事業。この入札をめぐり、佐々木勝久市長が業者に不正な声掛けをしたとの疑いがもたれている。これを問題視する市議も複数いる中、2022年9月。
鯖江市議会 石川修議長：
百条調査特別委員会を設置することに賛成の諸君の起立を求めます。起立多数。よって百条調査特別委員会設置の動議は可決されました
市議会は賛成多数（賛成9人、反対7人）で強い調査権限を持つ「百条委員会」の設置を決めた。鯖江市議会で百条委員会が設置されるのは1976年以来、約半世紀ぶりとなる。
百条委員会とは、地方自治法第100条に基づいて設置される。「地方公共団体の事務に関する調査」を行うのが目的だ。証人として呼ばれた場合、正当な理由なく拒むと禁錮や罰金が科されることがある。また嘘の証言をした場合も禁錮刑となる場合もある。このように強い調査権限を持つことから、地方議会の「伝家の宝刀」とも呼ばれる。
市民置き去りの“騒動”
百条委員会が設置されるきっかけとなったのは、一つの告発文だ。
A4用紙5枚に書かれた中身をみると、ごみ焼却施設建設に関しては当初、大手プラントメーカー2社が入札に参加するとみられていたと記載されている。ところがそのうちの１社が突如参加を見送ったため、入札は１社だけに。総額272億円で落札されることになったという。
その入札に関して「佐々木勝久鯖江市長が不正に関与した」と告発している。そして市長の関与について、このような記載がある。
「市長から電話があり、下請けに入りオール鯖江でやろうと、談合まがいの誘いを行ってきた。この問題を、ぜひとも公正取引委員会に取り上げていただき、ご審議いただきたくお願いします」
百条委員会では佐々木市長だけにとどまらず、市議会の議員２人にも多数派工作など不正な疑惑があるとして調査している。しかし…
鯖江市 佐々木勝久市長：
全く知りません。ありえない
佐々木市長らは一貫して疑惑を否定し続けている。調査はいまだに平行線をたどったままだ。2023年1月で委員会設置から4カ月経過した。市民はこの状況をどうみているのか。
市民：
知っているけど、細かいことは分からない
市民：
内容はよく分からんわ
市民：
知りません
多くの市民はそもそもこの問題を知らない、もしくは知っていても無関心というのが実情だ。市民置き去りの“騒動”ともいえる状況に陥っている。地方自治の専門家、京都橘大学の竹内直人教授に話を聞いた。
竹内直人教授（行政学）：
百条調査権は議会が市民の代表として行うもので、市民があまり関心を持たないことについて、議会だけの考えでやることは問題。逆に市民が気付いていないなら、議会が市民に丁寧に説明していく必要がある
ごみ焼却処理施設 不正か？政争か？
市民の無関心について訴えたいことがあるという男性が、福井テレビの取材に応えた。鯖江市の隣、越前町に住む森川正富さん。百条委員会の発端となった告発文を提出した人物だ。
告発文を議会に出した森川正富さん：
越前町の業者も入札に入った方がいいと言われ、私の会社に声をかけてもらった。ところがはしごを外された
森川さんはごみ焼却施設の入札に参加しようとしていた。しかし、組んでいた大手メーカーが参加を見送ったため、断念を余儀なくされた。当初はその経緯に問題があると感じ告発文を書いたが、今は別の問題が浮上しているという。
告発文を議会に出した森川正富さん：
百条委員会を開いてほしくて告発文を出したわけではない。入札額が高かったから異議を申し立てている。あれだけの税金をつぎ込むのだから、鯖江市民としてみなさんに考えてほしい
百条委員会設置の背景について、市長と議会に詳しい関係者は次のように指摘する。
「佐々木市長が不正を行っているわけがない。やっていないことを証明することは、嘘をでっちあげるよりもはるかに難しい」
「今回の騒動は前の市長選挙のしこり。佐々木市長の当選が気に食わない一部の議員の暴走だ」
決して交わることのない市長と議会の主張。総額272億円の血税が投入されるごみ焼却施設は、どのような結末を迎えるのか。市民不在の状況が続く中、百条委員会は3月末に結論を出すとしている。
（福井テレビ）
