「犬を飼いたい」と思ったときに、保護犬を迎え入れるという選択をした俳優・西尾まりさん。保護犬譲渡センターのSNSを見て心奪われた一匹の保護犬のもとに、足繫く通うこと1カ月。
ようやく緊張が解け、迎え入れることになったのが緤(せつ)だった。
そんな、緤とのストーリーを別冊天然生活『保護犬と暮らすということVOL.2』より、一部抜粋・再編集して紹介する。
きっかけは友人が保護犬を迎え入れていたこと
広島の街中をさまよっていたところを保護されたという緤(せつ)、愛称「せっちゃん」が西尾まりさん一家に迎えられたのは、推定3歳ごろのこと。
「すん、としてなびかない感じにぐっときてしまって」と、初対面の日を懐かしみます。

西尾さんが保護犬という存在を意識するようになったのは、同業の友人、村岡希美さんが保護犬の花子を受け入れてからの日々に間近で触れたことがきっかけでした。

「心に何らかのトラウマを抱えた保護犬である花子と、村岡さんや周りの人たちとの間に絆が生まれ、心を開いていく様子を見ていて、なんて美しいんだろうと」
ツンデレな振る舞いで家族の中心に
ある日、以前子どもたちと見学に訪れていた最寄りの保護犬譲渡センターが公開した、せっちゃんの情報をSNSで見つけ、「なんだこの子は?」と心ひかれた西尾さん。

まずは母と、続いて家族全員で面会に訪れます。
呼べば駆け寄ってくるような人懐こい気質ではなく、緊張をにじませるせっちゃんでしたが、その後も1カ月ほど足しげく会いに通った後、家族として迎えることに。
当時はクレートから決して出てこようとしなかったものの、リードを見せれば散歩に出ることは嫌がらなかったといい、「リードを着けたら散歩だと、譲渡センターで学んでいたのだと思います。とても学習能力の高い子です」と振り返ります。

「初めはこもりきりで、うんともすんともいわなかった」というせっちゃんが、みずから足を踏み出してビーズクッションの上に落ち着いた様子を目にしたとき、硬かった互いの関係がほぐれ始めたと感じたそう。
保護犬を引き取って犬を飼うことが当然の社会に
「子どもたちはいま、せっちゃんを通して、ほかの生き物に対する振る舞い方、やさしさを学んでいるように思います。
せっちゃんは意志のある子で、子どもが散歩用のリードを着けようとすると、『お前じゃない』とウーッと主張したりもする。でも、そういうのも嫌じゃないみたいで、気の強い女だな、なんて笑っています」

手間も気苦労も含めたせっちゃんとの豊かな日々を通し、西尾さんはいま、「保護犬を引き取って犬を飼うことが当然の社会になってほしい」と願っています。

「保護犬でも、ペットショップで買った子でも、ひとつの命ということに変わりはないけれど、そもそもお金で命がやり取りされることってどうなんだろう、と。
皆が保護犬を引き受けるようになれば、おのずと保護犬は減っていくはず。保護犬は、そもそもいてはならない存在なんだということを、忘れずにいたいと思うんです」

西尾まり(にしお・まり)
俳優。人気子役として注目を集め、現在は多数のドラマ、映画、舞台などで活躍中。2月24日より舞台「アンナ・カレーニナ」、6月にも舞台「楽園」に出演する。
インスタグラム:
https://www.instagram.com/mari_nishio_official/?hl=ja
撮影/西尾まり