6年前、保健所に収容されていた殺処分寸前の1匹の猫。

「らい」と名付け、家族として迎え入れたのが、SNSなどで保護猫らとの日常を公開している、晴(はる)さんだ。

ハンデを抱えながらも、家族の献身的な看護に支えられて幸せに暮らす「らい」の姿を1冊のフォトブック『らい 下半身不随の猫』(辰巳出版)につづった。

晴さんと「らい」との出会い、家族となった「らい」の看護やリハビリの様子をフォトブックから一部抜粋、再編集して紹介していく。

命の期限が2日だった「らい」

2018年2月19日、Instagramに届いた1通のDMが、らいとの出会いのきっかけでした。

交通事故に遭った後、保健所に収容された殺処分寸前の猫のSOSで、命の期限はあと2日。

すぐにSNS上で拡散しても引き取り先を見つけるのは難しいと思い、「うちで預かって里親さんを探しましょうか?」と返信しました。

メッセージをくださった方が、すぐにボランティアさんに連絡を取り、保健所から引き出された猫は病院で治療を受けることになりました。

晴さんの家族として迎えられた、らい
晴さんの家族として迎えられた、らい
この記事の画像(8枚)

保健所に収容されてから最低限の処置で2週間を過ごしたその子は、後ろ足を負傷して下半身不随だということがわかりました。

下血し口内や喉も血まみれで、命があったのが奇跡だったとのこと。折れた背骨にプレートを入れて固定し、壊死していた背骨まわりの組織を取り除く大手術を受けました。

また、口内のケガのせいか食事をしなかったため、退院まで点滴で栄養を摂っていました。

うちで預かると決めたものの、当時は認知症の老犬しのが手術をしたばかりだったため、1週間だけボランティアさんに退院後の猫のお世話をお願いしました。

人が大好きで甘えんぼな「らい」

しのの抜糸が済んだ1週間後、「らい」と対面。

圧迫排泄の仕方を教わり、譲渡契約書にサインしてお世話になったボランティアさんにお礼を伝え、少しでも傷に響かないようにブランケットなどでキャリーの中を覆って慎重に車に乗せて帰宅しました。

雰囲気から「らい」と名づけたその子はふっくらまぁるい顔をしていましたが、体重は2キロ台で、まだ前足だけではほとんど歩くことができませんでした。

入院直後のらいはノミ・ダニだらけで去勢されておらず、おそらく半野良だったのだろうとのこと。

人が大好きで、私の手をギュッと抱きしめながらフミフミするのが大好きな、とても甘えんぼな子でした。

里親さんを探す予定でしたが、毎日数時間おきの圧迫排泄と体位変換、リハビリなどのお世話が必要なため、このままうちの子になってもらうことに決めました。

こうして家族が増えて、さらに賑やかになったわが家なのでした。

看護の大変さを上回るかわいさ

らいと暮らすことを決めたものの、半身不随の猫との生活は初めてだったため、試行錯誤の連続でした。

まず、圧迫排泄に慣れていないため時間がかかり、イヤがるらいをなだめながらのお世話でした。

らいに圧迫排泄する晴さんの夫
らいに圧迫排泄する晴さんの夫

初めはイヤがっていましたが、6時間ごとにくり返される作業に慣れてきて、次第に「あ、オシッコの時間ですね。はい、どうぞ!」と言わんばかりにゴロンと横になったり、「そろそろオシッコの時間ですよね?」と自分から催促するようになりました。

けれど、圧迫排泄ではオシッコを全て出しきることが難しく、膀胱炎や尿結石になって尿道にカテーテルを挿入して、注射器で吸い出したり、同時に下痢になったりと、初めて経験する看護がてんこ盛りの日々でした。

それでも、その苦労を上回る彼らのかわいさで癒されることも多い日々でもありました。

当初は足を投げ出すスタイルで食事をしていた、らい
当初は足を投げ出すスタイルで食事をしていた、らい

傷が癒えると、リハビリを開始。

食べやすい高さと角度に食器を調整し、リハビリのため食事の間は後ろ足を座った体勢に。

トレーニングを重ね座位ができるようになった、らい
トレーニングを重ね座位ができるようになった、らい

筋肉が落ちているため、初めは姿勢を保つのが難しく、支えていないと後ろ足がすぐに崩れていましたが、徐々に食事が終わるまで座位を保てるようになりました。

歩きやすい姿勢がうれしくて早足になる、らい
歩きやすい姿勢がうれしくて早足になる、らい

らいが歩く時は、後ろ足がいつも同じ向きで引きずらないように気をつけ、四足歩行の姿勢が保てるように、両手で下半身を支えながら歩行をサポートしました。

また、らいがベッドで休む時も、2、3時間おきに体位変換をして、褥瘡(じょくそう)と四肢の強張(こわば)り予防を心がけました。

「らい」の第一印象は我慢強い子

現在はらいの他に、6匹の保護猫と暮らしている晴さん。

らいと初めて対面したときのことを晴さんはこう振り返る。

晴さんも癒やされる、甘えんぼのらい
晴さんも癒やされる、甘えんぼのらい

「とても人懐っこくて驚きました。実際にらいに圧迫排泄をしている様子を見させていただきながらやり方を教わったのですが、その間も終わるまでジッとおとなしくしていて、我慢強い子だなと思いました」

ボランティア団体などから一時預かりをしているわけではないという晴さんだが、自宅敷地内に迷い込んだり、困っている猫とバッタリ出会ってしまうことが多いのだという。

晴さんが保護した猫は全員晴さんの家族になったようだが、「その子たちが年を取り、病気をするようになると看護や介護、治療費がかかり、保護をしてもウチで飼うことが時間や金銭的にも難しくなったため、新しく保護した子たちは里親さんを探すことにしました」と保護猫を家族にすることの大変さも教えてくれた。

譲渡した猫たちは、新しい家族と楽しく暮らしているそうだ。

『らい 下半身不随の猫』(辰巳出版)

晴(はる)
広島県在住。らいの他に、6匹の保護猫と一緒に暮らしている。SNSにてくぅとしの、他ににゃんずたちの日常を公開中。認知症の犬「しの」と、しのを献身的に支えた介護猫「くう」が主人公のフォトブック『くぅとしの 認知症の犬しのと介護猫くぅ』(辰巳出版)も大きな話題に

晴(はる)
晴(はる)

広島県在住。らいの他に、6匹の保護猫と一緒に暮らしている。SNSにて、くぅとしの、他にゃんずたちの日常を公開中。認知症の犬「しの」と、しのを献身的に支えた介護猫「くう」が主人公のフォトブック『くぅとしの 認知症の犬しのと介護猫くぅ』(辰巳出版)も大きな話題に