人が生命を維持するために必要な「水分」。

これまでの研究で、人の体にどれだけの水分が含まれているかは分かっていたが、どれだけの水分が出入りしているか(=人が1日にどのぐらいの水分を失うのか)については、正確に把握することは困難だった。

こうした中、国立研究開発法人「医薬基盤・健康・栄養研究所」などの研究グループが11月25日、この把握を可能とする計算式を世界で初めて導き出したと発表した。

研究グループが導き出したのは、「人の体における1日の水分の出入りを予測する計算式」だ。この計算式を用いることで、人が1日に体内から失う水分の量が把握できる。研究成果は11月25日、アメリカの科学誌「サイエンス」に掲載された。

医薬基盤・健康・栄養研究所の山田陽介室長らは、アメリカ、イギリス、中国、オランダなどの研究機関の研究者と共同で、23カ国に住む、生後8日の乳児から96歳の高齢者までの男女5604人を対象に調査を実施。

この結果、一日に失われる水の量は、男性で20歳~35歳だと平均4.2リットル。年齢が上がるにつれて低くなっていき、90歳代では平均2.5リットルだった。

一方、女性は30歳~60歳で平均3.3リットル。男性と同様に、年齢が上がるにつれて低くなっていき、90歳代では平均2.5リットルだった。

この結果をもとに研究グループは、体重や年齢、地域の平均気温や標高などを入力すれば、「それぞれの人が体内から1日にどのくらいの量の水が失われるか、予測できる計算式」を導き出した。
その計算式がこちらだ。

水の代謝回転 (ml/日) = [1076×身体活動レベル] + [14.34×体重(kg)] + [374.9×性] + [5.823×1日の平均湿度(%)] + [1070×アスリート] + [104.6×人間開発指数(HDI)] + [0.4726×標高(m)] – [0.3529×年齢の 2乗] + [24.78×年齢(歳)] + [1.865×平均気温の 2乗] – [19.66×平均気温(℃)] –713.1

*身体活動レベル(座位中心な場合 1.5、平均的な場合 1.75、高い場合 2.0)、 性(女性 0、男性 1)、アスリート(非アスリート 0、アスリート 1)、 人間開発指数(先進国 0、中間的な国 1、発展途上国 2)

※成人の水の代謝回転量の計算式(提供:国立研究開発法人「医薬基盤・健康・栄養研究所の山田陽介室長)
※成人の水の代謝回転量の計算式(提供:国立研究開発法人「医薬基盤・健康・栄養研究所の山田陽介室長)
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世界で初めて導き出されたという、この計算式。一体どのように使えばいいのか? また、今後、どのようなことに役立つ可能性があるのか?

医薬基盤・健康・栄養研究所の山田陽介室長に話を聞いた。

計算式を導き出した2つの理由

――このような計算式を導き出した理由は?

理由は2つあります。

(1)世界の人口の約3分の1が、安全な飲料水を家庭で得ることができないといわれています。また、災害などの有事の際にも、安全な飲料水を確保することは重要です。

しかし、どの程度の飲料水が必要となっているのかについては、明らかでなく、また、生理学的・環境学的要因がどのように、水分の必要量について影響を与えているのかについても不明でした。

(2)世界(特に英語圏)では「1日に2リットルの水を飲みましょう」という推奨が、まことしやかに流れていますが、それには科学的根拠がありませんでした。


――計算式にある「人間開発指数」は、どのような意味? これを式に入れた理由は?

「発展途上国」か「先進国」かを、表す指標です。発展途上国では、飲料水へのアクセス手段が限られる一方、水の代謝回転量が多いのが明らかになったからです。

イメージ(水分補給)
イメージ(水分補給)

――計算式に「アスリートか否か」を入れた理由は?

アスリートでは、身体活動の多さに加えて、練習による環境などにより、同じ状況でも、1リットル以上もの水の量が必要になるからです。

計算式で得られた結果のうち約40%を取る必要

――この計算式で導き出された、山田室長が「1日に失う水分量」はどれくらい?

私の“秋”の「水の代謝回転量(人の体における1日の水分の出入り)」は、1日あたり3.5リットル。“夏”の「水の代謝回転量」は、1日あたり4.2リットルです。


――この計算式はどのように使えばいい?

脱水・熱中症予防などを考えると、計算式で得られた結果のうち、約40%を飲料水で取る必要があります。平均で、男性で1.6~1.8リットルで、女性では1.2~1.4リットルになります。

「1日に2リットルの水を飲みましょう」という推奨は科学的根拠がないことが分かり、より適切な飲料水の摂取の目安を個別的に示すことができます。

また、夏において、外で活動的な仕事やレジャーをする際には、より多くの水が必要になります。


――この計算式は今後、どのようなことに役立つ可能性がある?

脱水や熱中症の予防、さらには、脱水に伴う腎臓や心臓の障害などの予防のために必要な水分摂取量の目安を明らかにできることが期待されます。

また、国連によると、世界の人口の約3分の1が、家庭で安全な飲料水が不足している状態にあると推測され、特に発展途上国において水不足の問題は顕著です。

こうした中、この計算式は、各国における災害や有事の際の飲料水や食糧の確保の戦略立案や、世界における人口増加や気候の変動による水不足の予測モデル構築に役立つものと考えられます。

イメージ(水分補給)
イメージ(水分補給)

世界で初めて導き出された「人の体における1日の水分の出入りを予測する計算式」。自分で計算するのはなかなか大変だが、まずは計算してみてほしい。その結果の数値のうち、約40%を飲料水で取る生活を心がけてみてはいかがだろうか。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。