「名医のいる相談室」 医療の正しい知識を有する名医たちが、健康に関するお悩みを解説。

今回は、耳鼻咽喉科が専門の信州大学名誉教授・宇佐美真一(うさみ・しんいち)医師が、「若年発症型両側性感音難聴(りょうそくせい かんおんなんちょう)」について徹底解説。

遺伝子が原因となり40歳未満で発症し、症状が進行する両耳の難聴ながら、補聴器や人工内耳で聞こえを取り戻すことができる、若年発症型両側性感音難聴の特徴や原因について解説する。

この記事の画像(8枚)

若年発症型両側性感音難聴とは

現在この疾患は、国の指定難病に指定されていますが、厚生労働省の難治(なんじ)性聴覚障害に関する調査研究班で研究が進んでおり、徐々に全貌が明らかになってきました。

まずこの疾患を理解するために、耳の大まかな解剖を説明します。

音は耳に入って聴神経に伝えられますが、耳は外側から外耳(がいじ)・中耳(ちゅうじ)・内耳(ないじ)という3つの部分から成り立っています。耳の穴から、突き当たりの鼓膜までを外耳と言います。

鼓膜の奥が中耳と呼ばれる部分で、鼓膜から入った音を増幅して、内耳に伝えます。内耳には、毛の生えた細胞が並んでいますが、その細胞が音の振動をキャッチして、音の情報を聴神経に伝えています。

耳のどの部分が悪くても難聴になりますが、外耳・中耳に原因があるものを「伝音(でんおん)難聴」、内耳・聴神経に原因があるものを「感音(かんおん)難聴」と呼んでいます。

今日のテーマである「若年発症型両側性感音難聴」は、内耳の働きが悪くなるために難聴になる病気です。若年発症型両側性感音難聴は、次の3条件を満たすことが必要です。

1)40歳未満で発症すること
先天性の難聴や、老人性の難聴とは異なる難聴であること

2)両側性であること
片側の耳が聞こえなくなるような突発性難聴とは異なる難聴であること

3)遅発性難聴を引き起こす原因遺伝子が同定されていること
現在11種類の遺伝子が原因になると明らかになっています。この11種類の遺伝子以外にも、原因となる遺伝子があると考えられており、現在、研究班で研究が進められています。

以上の条件を満たす患者のうち、聞こえが良い方の耳の聴力の平均が70dB以上である方が、指定難病の対象となります。

現在、全国に約4000名ほどいると推測されていますが、私どもの研究班で疫学調査を行っています。

若年発症型両側性感音難聴の症状

症状は、若年=40歳未満で発症し、両耳とも徐々に聴こえが悪くなるのが主な症状です。一般的には軽い難聴から発症し、その後、難聴は徐々に進行していきます。

高い音が中心に聞こえなくなる、あるいは逆に低い音が中心に聞こえなくなるなど、難聴にはさまざまなタイプがありますが、聴力のタイプは原因の遺伝子によって異なっています。

よくドラマなどで急速に聞こえなくなるような場面がありますが、この疾患で急速に聴力を失うことはありません。

ただ耳鳴りやめまいなどを合併する患者さんもいて、生活の質を低下させることがあります。

若年発症型両側性感音難聴の原因

若年発症型両側性感音難聴は、遅発性難聴を引き起こす遺伝子が原因です。現在、11種類の遺伝子が原因遺伝子として明らかになっています。

遺伝子というと難しく聞こえますが、“体の設計図”と言い換えると分かりやすいかと思います。その設計図に基づいてタンパク質がつくられ、そのタンパク質が体のいろいろな働きを担っています。

耳に関して言うと、聞こえるために必要なタンパク質がありますが、そのタンパク質を作るための設計図、これが遺伝子ということになります。

設計図は、個人個人で違っています。

例えば、Aという遺伝子であれば、聞こえに必要なタンパクを作ることができますが、Bという設計図であれば、聞こえに必要なタンパクを十分に作れない。その結果、難聴になってしまいます。したがって、その患者さんはBという設計図を持っているということになります。

遺伝子が関与する病気ですので、遺伝することもありますが、お子さんが難聴になるかどうかは遺伝子の種類によって異なります。

親も難聴・子も難聴という場合もありますし、親に難聴がなくても、子供さんが難聴を発症することはあります。従って、遺伝子診断によって原因をきちんと調べるということが必要になります。

若年発症型両側性感音難聴の治療法

内耳の病気ですので、治療法としては補聴器、あるいは人工内耳が有効です。

補聴器は、音を増幅して内耳に送り込む医療機器です。人工内耳は、音を直接 聴神経に送る医療機器で、手術が必要になりますが、日本では約20年前から健康保険適用になっています。

補聴器にするか、人工内耳にするかは、難聴の程度によって使い分けます。軽度から中等度の難聴には補聴器、高度から重度の難聴には人工内耳が用いられます。

進行性の難聴ですので、まずは補聴器。進行して70dB以上の高度難聴になった場合には、人工内耳も考慮に入れます。

補聴器や人工内耳により、日常会話にはほぼ問題ない聞こえを取り戻すことが可能です。

聞こえにくいと感じたら

最後に、世の中には多くの医療情報、これは正しいものもあれば間違ったものもありますが、そういった情報であふれています。

しかしこの病気は、補聴器や人工内耳で聞こえを取り戻すことができる病気ですので、聞こえに不安を感じたら、ぜひ早めに耳鼻科を受診することをおすすめします。

またこの病気の診断には、原因遺伝子を調べることが必要ですので、その病院で遺伝子診断をやっているかどうかを確認されるとよいと思います。

この病気に関する正しい情報は、難病情報センターのホームページに出ていますので、ぜひご覧いただきたいと思います。

宇佐美真一
宇佐美真一

現在 信州大学名誉教授・信州大学医学部人工聴覚器学講座特任教授として難聴の研究を継続している。また、厚生労働省「難治性聴覚障害に関する調査研究班」の研究代表者を務め、難聴および難聴遺伝子に関する全国共同研究を展開している
<経歴>
S56(1981)年 弘前大学医学部 卒業
S60(1985)年 弘前大学大学院医学研究科博士課程修了
S61(1986)年 ベイラー医科大学 留学
H1(1989)年 ヘルシンキ大学医学部 留学
H4(1992)年 弘前大学医学部講師
H5(1993)年 弘前大学医学部 助教授
H11(1999)年 信州大学医学部 教授
H31(2019)年 信州大学卓越教授
<専門>
耳鼻咽喉科学
とくに難聴の診断と治療(難聴の遺伝子診断、人工内耳)を専門としている