10月6日よりウズベキスタン・タシケントで開幕する世界柔道選手権2022。
夢である五輪の出場権を得るため、金メダルが絶対条件の崖っぷちの男がいる。
世界王者の経験を持つ73キロ級、男子代表最年長の橋本壮市（はしもとそういち・31歳）だ。
「東京オリンピックで落選した時は正直引退も考えていました」
橋本の73キロ級には東京五輪で連覇を達成した大野将平が君臨している。
同い年で最大のライバルである大野に東京五輪代表の座を奪われて、橋本は失意の底に沈んだ。
どんなに強くても、日本代表として五輪の舞台に立てるのは、一人だけ。
それは強き日本柔道の、宿命だった。大野という大きな壁の存在は、「引退」の二文字もよぎるほど彼を苦しめた。
誰からも愛される男
そんな橋本に手を差し伸べた人たちがいた。
「地元の人もそうですし、たくさんの人が『もう一度頑張ってみてくれよ。柔道やっている姿が見たい』と言ってもらえて力をもらいました」
橋本の心に再び火を灯してくれた存在。それは、彼の成長を幼いころから見守り支え続けてくれる、地元・静岡県浜松市の仲間たちだ。
大会前、幼なじみのいる地元のケーキ店「PATIS Akiyama」（静岡県浜松市）を橋本は店を訪れる。
店主からは「（昔から）人のふところに入るのがすごいうまいんだよね」と褒められる。橋本の「有名になってこの店を紹介する」という夢についてスタッフが聞くと、店主は「それを一つ目標としていたの」と話し、橋本も「言ってましたよね」と頷く。
幼なじみは「柔道着のここ（背中）に『アキヤマ』って書いて出るって（言っていた）」と話すと、橋本は「今までここのお菓子やケーキを食べまくったから、試合で紹介できたらいいねとずっと言っていた」と笑う。
店主の妻も「それがかなってうれしいって。有言実行だよね」とうれしそうにする。
橋本が幼少期に育った育成館道場の杉山崇（たかし）監督は「（昔から）すごい一生懸命やるので応援したくなるような選手だと思います。人柄がほんとにいいので。素直ですしね。人柄がいいので。そこら辺がやっぱり周りの人間を惹きつけていく魅力なのかなと思いますね」と語る。
――先生は橋本くん、好きですか？
好きです、もちろん。育誠館の本当に代表する1番の選手なので。
育誠館道場の後輩も「橋本先輩のような世界で活躍できるような選手になりたいです！」と目を輝かせた。
地元に限らず、橋本という男の周りには、不思議と人が集まる。
週に数回、池上本門寺で階段トレーニングを行う橋本。
その日一緒にトレーニングをしていたのは総合格闘家の秋山成勲さんだった。橋本のSNSを見て「一緒に走ろう」と声をかけたという。
今やその輪は、他ジャンルのスポーツ選手にまで広がりを見せていた。
「人懐っこいですよね。根がいい子なので自分たちも仲良くさせてもらっています」（秋山）
王者不在の今大会は金メダルが絶対条件
応援してくれる皆のためにも自身の夢をかなえたい、そんな思いを抱く橋本は2年後のパリ五輪へ突き進むことを決意した。
五輪代表選考が本格的に始まる今回の世界選手権に、五輪連覇の大野は出場しない。
金メダルこそが絶対条件の橋本にとって、パリ五輪への未来に繋がる絶好のチャンスともいえる。
まさに全身全霊で挑む世界一決定戦になる。
8月に行われた男子代表合宿では、他の代表選手がインターバルをとる中、一人延々と自らを追い込み続ける橋本の姿があった。
「オリンピックで優勝するのが僕の夢なので。この世界選手権がとても重要になってくるので金メダル取れるよう頑張ります」
世界一のパパへ
橋本がここまで追い込む理由はもう一つある。
昨年11月に待望の第一子となる長女が誕生した。
父親になって最初に出場した今年の選抜体重別は、世界選手権への切符がかかった大一番だったが、早速、娘の声援を力に変えていた。
「この間の選抜の時も試合中、娘が泣いてる姿が聞こえてきて頑張ろうかなって思った」
家族の為にも負けられない今回の大勝負。
愛する家族へと捧げたいのはもちろん「世界一」の称号だ。
「僕の今の一番の癒しなので、かっこいいパパを見せられればいいなと思います。結果はもちろん金メダル。王座奪還というのをして、来年の世界選手権も出場権をしっかり取ってパリにつなげたい」
2022世界柔道選手権
10/6開幕！
フジテレビ系列で8夜連続中継！
https://www.fujitv.co.jp/sports/judo/world/index.html
