近年、日本では「前例のない」水害や想像を超える大雨が発生している。

9月23日から続いた台風15号の記録的な雨量のため、静岡県では橋が流され完全に崩落してしまったり、広い地域で浸水被害が出た。静岡市では断水などの被害が今も続いている。

都内にも浸水や洪水リスクが高い地域が一部指定されている。だからと言って、「今すぐここを引っ越してください」というのは現実的ではないだろう。

水害は「洪水」(河川が堤防を越えてあふれ出す)、「内水氾濫」(大雨により排水が間に合わずマンホールなどから地表に水があふれ出す)、「土砂災害」があり、ハザードマップにはそれぞれの被害想定が記されている。

では、水害の危険性が高い地域に住んでいる場合はどのようにすればよいのか。

防災や災害時の具体的対応について、防災コンサルタントで減災ラボ代表理事の鈴木光さんに聞いた。

「避難時の“ハンデ”も知って」

――もし、自宅付近がハザードマップの洪水・浸水想定区域の中で水害リスクの高い“濃い色”に指定されていた場合、できる対応策はある?

第一に、避難所を確認しておきましょう。今すぐできることとしては、ハザードマップの色の濃さ(想定浸水域)の把握と避難場所の確認です。

地震時の避難場所と水害時の避難場所が違うこともあるので注意しましょう。避難所以外でも避難できそうな友人や親戚の家、ホテルなど当てをつけておくことも重要です。

また、避難経路のリスク、例えば土砂災害の危険性、アンダーパス(立体交差で、掘り下げ式になっている道路)、水位が高くなっている橋を渡るなど、安全に避難できるのかということも確認しておきましょう。

避難経路のリスク確認や避難のシミュレーションなど事前準備を(画像:イメージ)
避難経路のリスク確認や避難のシミュレーションなど事前準備を(画像:イメージ)
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第二に、災害を「わがこと」としてシミュレーションしておくことです。ご高齢の家族がいる、ペットがいるなど家庭によっても動きが変わります。みんな避難が同じタイミングとは限りません。

「まさか来るわけない」や「まぁ大丈夫だろう」という考えが、多くの人の命を奪います。常に最悪を考慮しながら、命を守るために、言葉通り“難”を“避ける”準備をしておきましょう。
 

ーー避難所を確認する上での注意点は?

同居家族やペットの有無など、自身の避難時の“ハンデ”も知っておくと安心です。たとえば、車椅子だとバリアフリーではない避難所は過ごしにくいでしょう。

また、ペット同伴可能な場所と、不可能な場所があります。まずは、地域でどんな取り組みを行なっているか関心を持ち、事前に各自治体に確認しておく、避難所運営訓練に参加してみるなどが大切です。

水平避難と垂直避難、どちらがベスト?

ーーマンションや一戸建てによって避難方法は変わる?

基本的には、水害の場合は、上の階に避難する垂直避難ではなく、浸水想定の範囲から離れる水平避難を推奨しています。ですが、水平避難が難しい場合は、マンションなら上の階に垂直避難する方法もあります。その場合は、上の階の住人と日頃から仲良くなっておく必要があります。

戸建の場合は、できる限り避難所に行ってください。ですが、川から遠く、家がある程度頑丈で3階以上の高さがある場合は、上の階に避難することも最終手段として可能です。

まとめると、「ハザードマップのリスクの高さ、家の強さ(高さ・頑丈さ)× 事前準備」に沿ってその時の最善の行動を選択することを推奨します。

調べた上で「リスクの選択」を

ーー賃貸の場合は長期的に考えて引っ越すことも可能ですが、引っ越し時に気をつける点は?

当然のことですが、災害規模が大きい場所は避けてください。まず、ハザードマップをチェックし、土砂災害、洪水のリスクがある地域に該当するかを確認しましょう。リスクが0という場所はないため、自身でリスクの取捨選択をする必要があります。
 

ーー「リスクの取捨選択」とは?

災害のリスクを考慮して、どのリスクが自分達の許容範囲かで物件を選ぶということです。

例えば、ハザードマップの洪水には、想定最大規模、計画規模があります。想定最大規模は、降雨規模が1000年に一回程度を想定しているものです。1000年ごとに1回発生する周期的な降雨ではなく、1年の間に発生する確率が0.1%以下の降雨のことです。

計画規模は、100年に1回程度を想定しているもので、河川整備などの洪水対策は、計画規模を参考に行われています。

賃貸住宅は長年住むとは限らないため、想定最大規模より計画規模を重視しながら選ぶことをおすすめします。一方、住宅購入時は、想定最大規模の災害を被るリスクが賃貸時よりは高いと言えます。この違いを認識し、両方を見て受け入れやすいリスクの場所を選択しましょう。

ハザードマップはあくまで「指標」。災害は想定通りではない(画像:イメージ)
ハザードマップはあくまで「指標」。災害は想定通りではない(画像:イメージ)

ーーそれ以外にハザードマップをチェックしていて気をつけるべき点は?

ハザードマップの違いを把握することです。国土交通省の「重ねるハザードマップ」のみですと、大きな河川しかのっていません。

そこで、自治体が発行するハザードマップも併せて確認してください。また、ハザードマップも想定なので信頼しすぎないようにすることも大事です。
 

ーー「ハザードマップを信頼しすぎない」とは?

ハザードマップはあくまで想定であり、それ以上の災害の可能性もあれば、それ以下の災害の可能性もあります。信頼しきるのではなく、あくまで指標の一つとして捉えるべきです。

真っ赤な地域、例えば洪水(想定最大規模)の場合に5メートルから10メートルや10メートルから20メートルの浸水深が想定されていても、想定通りというわけではないです。諦めずに生きる行動をしましょう。

ですが、色が濃くない(浸水深が0.5メートル未満など)場合でもその高さを超える可能性があり、水害の恐れがないというわけでもありません。
 

ーーそれ以外に気をつける点は?

周辺地域の過去の土地活用も併せて確認してみてください。過去の土地活用の方法によっては、液状化のリスクがあります。

家だけ無事でも周りに被害があると、ライフラインが確保できない可能性があるためです。食事だけでなく、トイレなども難しくなるため、食事の備蓄と共に簡易トイレも用意しておきましょう。

今すぐできる対策はモノだけじゃない

ーー今すぐできる対策は?

第一に、持ち出し品のバッグ作りです。持ち出し品のバッグ作りでは、家族分の食料や衣料をまとめておくこと。また、ペットを連れて行く場合は、ペット用品もまとめなくてはいけません。

ただ、持てる荷物には限界があるため、家族の荷物を減らすことも必要になります。さらに、避難所に行ったとしても、避難所の電気が止まっている可能性もあるため、LEDライトや懐中電灯なども用意しておくこと。

日常的に天気や防災情報をチェック(画像:イメージ)
日常的に天気や防災情報をチェック(画像:イメージ)

第二に、避難のタイミングを考えておくことです。近所を災害が襲った場合、どの段階で避難するのかを想定しておきましょう。

第三に、天気情報や防災情報、防災アプリを見ておくことです。住む地域で何が起こっているのかを日常的に認識しておくことで、防災情報が出た際にすぐに行動できます。具体的には、気象庁の「キキクル」というアプリが有効です。
 

ーー防災グッズは自宅のどこにおいて置くべき?

複数置ける場合は、置く場所を分散させることをおすすめしています。玄関や一階に置くことですぐに防災グッズを運搬できます。

ですが、洪水など水害の場合は水に浸かってしまう可能性があります。そのため、リスク分散のために防災グッズは一カ所におかないことを推奨します。水害のリスクが高い場合は、事前に高い場所においておくと安心です。

 

鈴木さんの話を聞くと、水平避難やペットや高齢者の有無など、自分の住環境によって適切な避難方法は異なることがわかる。

災害のニュースは決して他人事ではない。「わがこと」として、今すぐできる対策を打っておくと、まさかの事態が起きたときの明暗が大きく分かれるのかもしれない。

鈴木光
一般社団法人減災ラボ代表理事、減災アトリエ主宰。防災図上訓練指導員、工学大学院客員研究員。2015年に減災アトリエを設立し、2017年に減災ラボを設立。2013年にはクリアファイルを使い自分だけの減災マップで地域の災害リスクの理解を深める減災教育プログラム「my減災マップ」を考案。

取材・文=鈴木俊之