「日本の海が大変なことになっている」

そう言われてもあまりピンとこないかもしれない。しかし今、獲れる魚の量が減り、さらには「将来、海の幸が食べられなくなるかもしれない」という。

「2016年に勉強する機会をいただき、初めて危機的な状況だと知りました」と話すのは、フードジャーナリストで一般社団法人Chefs for the Blueの代表理事を務める佐々木ひろこさん。志をともにするシェフらと日本の食文化を守りつつ、サステナブルな海を目指すための活動をしている。

10年後、20年後でも魚を食べられるように。海の恵みである「水産物」を未来へとつなぐ「サステナブル・シーフード」、そして日本・世界を取り巻く海の現状について聞いた。

生産量も自給率も減少…

2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標「SDGs」。17ある目標の一つ、「(14)海の豊かさを守ろう」は、海洋大国であり魚をよく食べる食文化を持つ日本にとっては切り離せない目標だ。

令和3年度の「水産白書」によると、日本の漁業・養殖業の生産量のピークは1984年の1282万トン。しかし、2021年には417万トン(農林水産省の令和3年漁業・養殖業生産統計)と約3分の1まで減少。

また、1964年は113%あった食用魚介類の自給率(令和3年度「水産白書」)も、2020年には57%(水産庁より)まで下がった。

鮮魚コーナーには輸入の魚介類も増えてきた(画像:イメージ)
鮮魚コーナーには輸入の魚介類も増えてきた(画像:イメージ)
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最近は、スーパーで輸入の魚介類を見ることも増えたように思える。

「よく『国産は高いから輸入のものを仕入れている』と言われることが多いのですが、そうではなく、国産のものが獲れていないのです」

佐々木さんいわく、「シシャモ」も輸入されたカラフトシシャモ(国産のシシャモとは異なる)に、タコは主にモーリタニアやモロッコから、鮭はノルウェーやアラスカなど店頭に並ぶ水産物が輸入のものに置き換わりつつある。

“魚の管理”日本と世界の意識の差

魚が“獲れていない”ワケの一つは、獲りすぎていることで獲れる魚の数が減っているからだという。

「漁港で漁師の話を聞くと、みなさん獲れないと言います。魚も小さくなってきているようです。大きい魚は獲り尽くしてしまい、大きくなる前に獲ってしまう。昔は獲らなかった水産資源に手を付けざるを得ないという現状です」

海の資源を守るため、漁業者それぞれのローカルルールが存在している。漁場や禁漁期の設定、船の大きさの制限などがあるが、近年はそのルールだけでは間に合わなくなってきた。

その理由の一つは漁獲能力の向上。「ソナーや魚群探知機、動力導入により網で巻き上げる量が数倍になったなど、ルールと能力の間に齟齬(そご)が生まれて過剰漁獲につながるケースが生まれています」

他にも魚が獲れない原因には、水温の上昇や海流の変化、藻場の減少などの環境的な要素と、乱獲も含めた複合的な要因があるという。

複合的な要因で魚が獲れなくなっている(画像:イメージ)
複合的な要因で魚が獲れなくなっている(画像:イメージ)

しかし、世界は“海の資源を残す”ことに向けて動いている。

「ノルウェーは一時期ニシンなどが減った時期があり、“獲りすぎたら減る”ことに気づいたため、国が管理して獲るスタイルに1970〜80年代から変更しました。欧米諸国も早くから取り組んでいます」

日本では2018年、約70年ぶりに漁業法(2020年施行)が改正された。佐々木さんによるとこの改正により、「持続可能性」という観点が組み込まれ、“管理して獲る”スタイルの導入が進みつつある。しかし、施行して2年、水産庁が制定したロードマップは、まだ現場まで落とし込むレベルには達していないという。

知っている?「水産エコラベル」

海の豊かさを守りつつ、魚を未来へつなぐ水産物が「サステナブル・シーフード」だ。

天然でも養殖でも持続可能に獲り続けられるようルールを守り、天然の場合は漁獲量、養殖の場合やエサや養殖方法など資源管理された中で魚を扱っていくことが求められている。

「サステナブル・シーフード」は日本のスーパーにも置かれている。その代表的なものの目印が水産エコラベルで、日本で活用されているのが主に3つ。

水産資源と環境に配慮し適切な管理の上、持続可能な漁業で獲られた天然の水産物につけられる「MSC」。環境と社会への影響を低減した養殖場で生産される水産物だと認証されたものにつけられる「ASC」。日本発のエコラベル「MEL」は、水産資源の持続性と環境に配慮している事業者を審査し認証されたもの。

生態系や資源の持続性に配慮した方法で漁獲、生産された水産物に対して消費者が選択できる商品に認証を与え、ラベルで表示している。

このラベルを目にしたことがあるかもしれないが、認知度は依然として低い。それは「サステナブルと言える魚介類が少なく、認証の取得には費用がかかることもあり、小規模事業者が多い日本の漁業者が手を出しにくい。またそれを扱う小売なども認証を取得する必要があり、結果的に認証魚は値段が高くなるため、消費者が買いにくくなり、流通が難しくなる」からだという。

ただ、「サステナブル・シーフード」をスーパーなどが取り扱い、消費者が買うことがグローバルスタンダードになりつつあることに加え、佐々木さんは「海や水産物は人類共通の財産で世界の財産です。一緒に守って獲る、その姿勢を示すことが大事」と強調する。

未来へ魚を残すために私達ができること

とはいえ、スーパーの鮮魚コーナーにはいつも新鮮な魚が並んでいる。

まだ、危機を感じ取ることができないが、佐々木さんは「魚が減ったことで、たくさん獲れる魚種は圧倒的に減っています。スーパーのバイヤーは魚を手に入れるため、四方八方走り回っているようです。近い将来は魚売り場をなくすスーパーも出てくるかもしれません。冷凍と養殖魚だけを取り扱うということもあるでしょう。鮮魚がいつでも買えるという状況は貴重になりつつあります」と訴える。

10年後、20年後も魚を楽しみたい。そして、未来にも魚を残したい。

私達に今すぐにできることは、「水産エコラベルのついた魚を購入することを、選択肢の一つに加えること」だと佐々木さん。

しかし、エコラベルがついた魚介類の数が少ないため「日本の食はまかなえない」と指摘もする。

私達にできることは「水産エコラベルの魚を買うこと」(画像:イメージ)
私達にできることは「水産エコラベルの魚を買うこと」(画像:イメージ)

「今後は水産庁の作ったロードマップが遂行されれば、魚種によって漁獲枠も定まってきます。すると、当たり前ですが、単価は上がります。枠のなかった頃と比べると流通量が下がるため、単価が上がることを理解しつつ、それでも買い続けることをしてほしいです」

それならば「魚を食べなければ、豊かになるのではないか」。そんな疑問もよぎるが、それも違うという。「そもそも獲っているけど、食べられていない現状もあります。そして、食べないと今度は日本の水産業が衰退します。海や魚の危機を理解しつつ、魚を考えて買う・大切に食べることも大事なのです」と語る。

佐々木さんは、消費者の意識が日本の、世界の海を豊かにするポイントだという。「私達の意識が変われば、流通もサステナブルなシーフードが求められていると認識し、さらには漁業者の意識も変わるのです。私達にできることはサステナブル・シーフードを買うこと。日本の海も魚も救えるという大きな使命を消費者は背負っています」と訴える。

2017年に立ち上がったChefs for the Blue。

魚が減っているということ、そして、日本の海に危機感を抱いた佐々木さんや東京のシェフらが連携し、深夜の勉強会を開いたのがはじまりだ。その後、啓発活動や企業、自治体らとの協働を通じて、サステナブルな生産・消費方式を訴えてきた。

今後は、距離が生まれている消費者と漁業者をつなぐ活動をしていきたいと見据える。

「お子さんやお孫さんが、将来『魚、おいしい!』と食べ続けられる未来を作るためには、今、動かなければなりません。
30年で3分の1まで減りました。戻すのは60年、100年かかるかもしれませんが、戻さないといけないのです。今、舵を切るラストチャンスに近いのです」