長崎原爆の日に行われる平和祈念式典。毎年、その冒頭に核兵器廃絶を願う合唱曲「もう二度と」を披露してきた「被爆者歌う会 ひまわり」。今年が最後の舞台になった合唱団の平和を願う思いを取材した。

戦争の記憶を胸に、平和への思いを発信

世界で唯一、被爆者だけの合唱団「被爆者歌う会 ひまわり」はこの夏、3年ぶりの平和祈念式典での合唱を前に6月に練習をスタートした。

「ひまわり」指導者・寺井一通さん:
今日から2カ月にわたって練習をして、人数が25名までということに限られています。この暑い最中、8月9日を来年も迎えるというのは、もう体力的にしんどいということで、今年を最後にして有終の美を飾ろうと

「被爆者歌う会 ひまわり」の指導者・寺井一通さん
「被爆者歌う会 ひまわり」の指導者・寺井一通さん
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宇木和美さんは、メンバー最高齢の89歳だ。

宇木和美さん:
かけがえのない友達なんですね、メンバーは。だから今年1年で終わりなんだと思ったら、精いっぱい、今までの気持ちを込めて頑張りたい。自分のできる力を出し切って、8月9日、平和に対する思いを世界に届けたい

「ひまわり」メンバー最高齢 89歳の宇木和美さん
「ひまわり」メンバー最高齢 89歳の宇木和美さん

宇木さんは12歳、県立女学校1年生のときに爆心地から4.2km、長崎市大浦下町の自宅で被爆した。彼女自身にけがはなかったものの、当時のことを今でもはっきりと覚えている。

宇木和美さん:
大橋のたもとにお母さんが2歳くらいの女の子を抱きしめて、横になっていた。それを見たらかわいそうでね。これは、私が二度と戦争をしてはいけないと思った原点

大学を卒業して2年後に結婚。夫の転勤に連れ添い、30年以上を県外で過ごした。60歳で長崎に戻るまでは当時の記憶にふたをしてきた。

「これでいいのか」と自問してきたという宇木さん
「これでいいのか」と自問してきたという宇木さん

宇木和美さん:
私は被爆者でありながら、何も自分の経験を話していないし、核兵器反対の声も上げてないと。これでいいのかしらと思ったんですね

結成から18年 平均年齢は80歳を超える

モヤモヤを抱えていたときに出会ったのが、「被爆者歌う会 ひまわり」だった。合唱団は2004年、当時の原爆症認定訴訟の原告団を励まそうと制作された歌をきっかけに結成された。

ほとんどが被爆者運動に携わったことがなかった一般の人たちで、名前には、太陽に向かって咲く夏の花「ひまわり」のように、上を向いて活動しようという意味が込められている。

被爆者・松谷英子さん(2006年当時):
二度と私たちのような被爆者をつくってもらいたくないという思いで、一生懸命歌っています

活動の場は少しずつ広がり、2010年からは平和祈念式典の冒頭部分を任されるようになった。そして、2015年にはアメリカ・ニューヨークやドイツでも歌声を響かせた。

2022年、国内外で核兵器廃絶や平和への思いを発信してきた功績が認められ、被爆者で医師の故・秋月辰一郎さんの呼びかけで始まった「秋月平和賞」に選ばれた。

「ひまわり」の国内外での功績が認められた
「ひまわり」の国内外での功績が認められた

「ひまわり」指導者・寺井一通さん:
今年は(平和祈念式典に)なんとか出演させていただいて、全国、全世界の人にもう二度と被爆者をつくらないでという歌を発信しようと思っている

結成から18年、多いときに60人ほどいた会員は11人にまで減少。平均年齢は80歳を超えていた。

新型コロナウイルスの感染拡大で、2022年4月までの2年間は活動休止を余儀なくされた。その間、メンバーの多くが体力の衰えなどを理由に「ひまわり」を脱退していった。最高齢の宇木さんも、週に1回の練習に参加するのが精いっぱいとなった。

宇木和美さん:
頑張るエネルギーは、あの頃はまだあった。2年前ですからね。8月9日に歌っていたときのように戻るには時間がかかる。発声にしても、大きな声は始終出しておかないと、やっぱり出しきれない

“最後の合唱”にかける覚悟 思いを次の世代に

2022年5月、宇木さんが楽しみにしていたプロジェクトが始まった。「ひまわり」と高校生の合唱をCDに収め、幅広い世代に核兵器廃絶を訴える「長崎から平和の歌」プロジェクトだ。

第24代高校生平和大使・川端悠さん:
核兵器廃絶と平和な世界の実現を求めて、これまで署名活動を中心に活動を行ってきました。コロナ禍で活動の制限はあるんですが、今日は歌を通して世界に平和を発信していきたい

宇木和美さん:
一緒に歌うことによって、私たちの思いは伝わっていくでしょう。その思いが高校生を通して大きく平和に向かって広がっていったら、こんなうれしいしいことはない

しかし収録の日、スタジオに宇木さんの姿はなかった。「長時間の収録に耐えうる体力がない」というのがその理由だった。

「ひまわり」指導者・寺井一通さん:
美しい声なんですよ、彼女(宇木さん)は。歌声も。そういう意味では期待してたんですけども、体調に自信がないと。それだけは、僕がひまわりと17~18年間付き合ってきて、一番気にしなければならないことなんですよね

宇木さんは体力や気力を振り絞って、8月9日の式典で歌い切ることだけを考えていた。インタビューを受ける代わりに書いてくれた手紙には、最後の式典への覚悟がにじんでいた。

【宇木さんの手紙】
17年間、暑い日ざしに耐えながら、二度と被爆者を作ってはいけない、その一心で歌を国内外の人々に聞いていただきました。8月9日をめざして、ひまわりが見事な花を聞いてくださる方に届けられるように

宇木さんからの手紙には平和祈念式典への思いがつづられていた
宇木さんからの手紙には平和祈念式典への思いがつづられていた

そして、2022年8月9日の平和祈念式典。照りつける夏の日差しの下で、元メンバーも含めて23人が“最後の合唱”を行った。そこには力強い歌声を響かせる宇木さんの姿もあった。

”最後の合唱”で歌声を響かせる宇木さん
”最後の合唱”で歌声を響かせる宇木さん

宇木和美さん:
戦争は絶対にしてはいけない。どうしたら戦争を避けることができるのか、(若い世代に)真剣に考えてほしい

もう二度とつくらないで、私たち被爆者を…。ひまわりが絶対に咲かせたい平和への願いだ。

(テレビ長崎)

テレビ長崎
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