7月26日、奄美・徳之島が世界自然遺産に登録されて1年となった。この1年で見えてきた課題や島の変化について、鹿児島テレビ・坪内一樹キャスターが奄美大島を取材した。

坪内一樹キャスター:
奄美市住用町にいます。緑に囲まれた場所。午後6時を過ぎ、だいぶ涼しくなってきました。ここは山がすぐそばに迫る場所なんですが、アマミノクロウサギなど希少な動物が観察できる三太郎峠の入り口です

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坪内一樹キャスター:
ここで行われるナイトツアーが人気なんですが、車が入り過ぎないように、通行には事前予約が必要となっています。世界遺産に登録され、自然を守るための取り組みがより求められるようになった奄美大島の今を取材しました

世界遺産登録から1年…課題が浮き彫りに

2021年7月26日。世界自然遺産に登録された「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」。国内では5件目で、アマミノクロウサギに代表される固有種や希少な動植物が数多く生息する生物多様性が評価された。

世界に認められた「奄美の自然」。同時にその自然保護も強く求められることになった。

辺りが薄暗くなってきた午後8時前。ナイトツアーで人気の三太郎峠の入り口に1台の車がやってきた。

和歌山からのツアー客:
野生生物を見るのが好き。前に来た時、参加して楽しかったので、今回リピートで

奄美市住用町の山中を走る全長約10kmの三太郎峠。奄美のシンボル・アマミノクロウサギや、日本一美しいカエルといわれるアマミイシカワガエルなど、希少な野生生物が観察できる道路としてナイトツアーが増加している。

しかし、それに伴い、野生生物が車にひかれるなど観察のあり方も課題に。そこで、2021年10月から設けられたのがナイトツアーでの自主ルール。

日本一美しいカエルといわれるアマミイシカワガエル
日本一美しいカエルといわれるアマミイシカワガエル

峠に入るのは30分おきに車1台ずつとし、事前にインターネットで通行時間を予約。時速10km以下で走行し、前の車を無理に追い抜かないなど公道では前例のない取り組み。

しかし、これはあくまで自主ルールで、法的拘束力はなく、峠の入り口にスタッフの配置もない。現状、予約なしの車も1~2割はあるという。

入り口に設置された看板
入り口に設置された看板

環境省 奄美野生生物保護センター・田口知宏さん:
ルール自体を知らない観光客も一定数いる。ガイドから、ルールが守られていないという意見もある。ルール周知は課題

それでもこの取り組みは、先進事例として今後 島内の別の場所や、他の遺産地域に役立つことも期待される。

一方、奄美市名瀬にある金作原(きんさくばる)では…

奄美群島認定エコツアーガイド・越間茂雄さん:
見上げると、独特の形状の植物。ヒカゲヘゴといいます

太古の森を思わせる亜熱帯植物に覆われ、奄美ならではの動植物も生息する、観光客に人気の散策ツアーエリア。

東京からの観光客:
東京と全然木が違う。1本もわからない

この金作原。奄美市の市街地からアクセスしやすく、観光客が集中する傾向にあり、自然環境への負荷が懸念されている。
そこで今、奄美の観光関係者の間で模索されているのが、散策ツアーエリアの分散化。

自然写真家で、ガイドも務める常田守さん。常田さんが分散先の1つに推奨する奄美市住用町のルートを案内してもらった。

坪内一樹キャスター:
元々ここは何の道だったんですか?

常田守さん:
上にダムがあるんですよ。ダムを造ったときの道、今は管理用の道です

車も通れる道ながら、両脇には奄美らしい植物が生い茂り、勢いよく流れ落ちる滝も間近で見られる。

常田守さん:
シダ植物やコケがついていたり、そこにあるのがシマサルスベリ。サルスベリの野生種です。面白い植物もある。金作原に負けていない

世界自然遺産登録から2年目を迎え、常田さんは引き続き観光と自然保護のバランスの必要性を訴えている。

常田守さん:
利用する所は利用し、守るべきところは徹底して守る。メリハリをきちっとやっていけば、私は大丈夫と思いますが、それには人間が努力していかないといけない

10年~20年先を見据えた取り組みを

坪内一樹キャスター:
ふたたび三太郎峠の入り口です。きょう(7月28日)も夜7時から早速予約が入っています。担当者は、ルールを守って利用してほしいと話していて、利用する観光客にも自然を守る意識が求められています

奄美大島への来島者の数。コロナ前の2019年は44万9,138人だったが、2020年は26万人余りに激減。世界自然遺産登録で観光客の増加が期待された2021年も27万人6,565人と、コロナ前には及んでいない。

ただ2022年は行動制限がない夏となり、あるリゾートホテルでは「今年の夏休みはほぼ満室」と話していた。希少な動植物の観察に加え、世界自然遺産の島に来たということで、奄美の山や海も楽しみたいと話す観光客が多いよう。

世界自然遺産に登録されて1年。今、奄美大島では自然保護のために関係者の地道な努力が続けられている。
今後、観光客が増加を続ければ、また新たな課題も浮き彫りになるかもしれない。自然保護、その取り組みにゴールはなく、この1年はステップにすぎない。

常田さんが推奨する奄美市住用町のルートで見える自然
常田さんが推奨する奄美市住用町のルートで見える自然

世界の宝を守りつつ、多くの人にその魅力を知ってもらう。そのために10年先、20年先を見据えた取り組みを今後も進めていく必要がある。

(鹿児島テレビ)

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