鹿児島県で小料理店を営む男性が、いったん店を閉じ、はるか遠くの南極に料理人として派遣されることになった。7月1日に辞令交付を受けた、好奇心旺盛な和食料理人の挑戦を取材した。

2度目の試験に合格 昭和基地の隊員に食事振る舞う

鹿屋市に店を構える小料理屋「菜」。繊細な包丁使いでハモを下処理するのは、中川潤さん(39)。兵庫県出身の中川さんが奥さんの地元にオープンさせた創作和食の店だ。

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実は6月中旬で休業し、取材した日は特別にお店のメニューを作ってもらった。

中川潤さん:
閉鎖された空間と場所柄ですかね。「南極というところに行く」という非現実的なところに興味を引かれた

中川さんがこれから料理を作るのは、鹿児島から遠く離れた南極。65年以上にわたって地球環境の観測を続ける日本の拠点、昭和基地だ。中川さんは、昭和基地で働く隊員28人に1年間、食事を振る舞う調理担当に選ばれた。

中川潤さん:
「南極料理人」という映画を見て、すごく楽しそうだった。自分もなってみたいなと思った記憶はある

19歳のときに料理人になった中川さん。「海外に住んでみたい」という好奇心旺盛な一面があり、27歳のときには青年海外協力隊としてバングラデシュの調理学校で料理を教えたり、ブラジルの総領事館で公邸料理人として働いたことも。南極に行きたいと思ったのも自然な流れだったかもしれない。

4年前に受けた試験は不合格だったが、2022年、2度目の挑戦で見事合格。

中川潤さん:
(合格通知が)来たー!みたいな。連絡を受けた時はちょっと震える感じでした

家族も応援 出発は11月「不安よりワクワクが大きい」

6歳、4歳、1歳の3人姉妹の父親でもある中川さん。南極に行けば、簡単に帰国することはできない。

中川潤さん:
(1歳の娘は)大きくなって、しゃべるようになっているでしょうね。帰って来たらね。

――パパ、どこに行くか知ってる?

長女・結菜ちゃん:
東京と南極。(パパは)優しい人です

幼い子どもたちは手がかかる時期だが、妻の香菜さんも夫の挑戦を応援している。

妻・香菜さん:
夢がかなったから、いいんじゃないかな。皆さんにおいしいご飯をいっぱい作って、幸せをいっぱい届けていただけたら。無事に行って、無事に帰ってきてほしい

東京へ出発する5日前。店には、流し台を磨く中川さんの姿があった。

中川潤さん:
不安がないと言ったら嘘になるけど、それよりもワクワクの方が大きい。南極に行ったら、オーロラとか見てみたい。料理以外、楽しみが少ない環境になると思うので、まずは皆さんが楽しんでいただけるようなものを作りたい。せっかく鹿児島から行くので、さつま揚げとか、鶏飯(けいはん)とか。温かい鶏飯もあれば、南極の氷を使った冷たい鶏飯があっても面白い

鶏飯とは鹿児島・奄美の郷土料理。ご飯に鶏の胸肉や細く切った薄焼き卵などをトッピングし、鶏でだしを取ったスープをかけて、お茶漬けのようにして食べる。

そして、7月1日。中川さんは東京で調理担当の辞令を受けた。これから11月の出発まで、食材の調達などの業務にあたる。

夢の南極へ!中川さんは今、期待に胸を膨らませている。店は南極から帰る2024年の春に再開させる予定だという。

(鹿児島テレビ)

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