6月末、東京・渋谷区の松濤中学校で区主催の防災訓練「渋谷防災キャラバン」が行われた。防災訓練と言えば消火器を使った消火訓練や地震の揺れの体験などが一般的だが、ここではよりリアルに災害を体験できるAR(拡張現実)を使ったバーチャル避難体験が行われた。

東京・渋谷区の松濤中学校で行われた「渋谷防災キャラバン」
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AR体験で体育館に煙が…

VR(バーチャル・リアリティ=仮想現実)は専用のゴーグルなどを装着して、360度の映像やCGを見ることで、実際にその場所にいる感覚を得ることができる。

一方、AR(拡張現実)は現実の風景に仮想の映像を重ねることで、現実の世界を拡張することができる。この技術を使って目の前の風景に煙や炎、浸水の映像を重ねあわせることで、「今いる場所で実際に災害がおきたらどうなるのか」を疑似体験することができる。

ARを使った浸水体験

会場にはAEDによる救命処置やガスメーター復帰操作の体験コーナーもあり、朝から家族連れや子どもたち、周辺町内会の高齢者ら多くの人たちが参加した。

ARのゴーグルをつけた人たちはまず目に入るその光景に驚く。自分がいる体育館で火災が発生して、煙が充満する中で、どうやって消火するか、そしてどう逃げるのか。天井から煙が立ちこめる中で、姿勢を低くして進むことがまず大切だと分かる。

会場でARゴーグルをつけると…
自分がいる体育館に煙が充満していく様子が見える

また浸水体験では水かさがみるみる増していき、水が濁って足元に何があるのかも確認できず、濁流の中、漂流物も迫ってくる。

路上でARを使うと…
浸水後の様子を実感できる

参加した人たちに感想を聞いた。

「きょうはこのイベントがあるのを知って、家族で区外から来ました。バーチャル体験は初めてで、火災では炎の根元を消すことなど勉強になりました」

ARゴーグルをつけて消火訓練
消火は炎の根元から

「煙からはかがんで逃げなければならず、浸水では足元が見えなくなるので、マンホールや側溝に吸い込まれることにも気をつけないといけない。リアルに体験できるので、地元の商店会の人たちにも参加してほしい」

「大学でVRを研究しているが、煙がリアルで驚いた。こうなる前に逃げないといけない」

バーチャルを使った“リアルな体験”が防災への心構えに

運営する「一般社団法人 拡張現実防災普及」の板宮晶大代表理事は1995年の阪神・淡路大震災に当時、高校生でボランティア活動をしたことをきっかけに防災への関心が高まったという。

一般社団法人 拡張現実防災普及  板宮晶大代表理事

「倒壊した住宅を目の当たりにして、避難生活をしている住民の話を聞く中で、建物の耐震化や家具の固定、避難経路の確保などが重要だと感じました」

そして東日本大震災の津波による災害を見て、開発にあたる板宮氏の兄、神奈川歯科大学の板宮朋基教授とともにバーチャルによる災害体験の普及にあたってきた。

「スマホやタブレットなどデバイスの進化もあり、ARによる災害体験はよりリアルに感じられるようになりました。参加者も初めは『おもしろそうだな』という方が多いですが、実際に遭遇することはあまりない火災による煙や浸水の疑似体験で災害のすさまじさを感じて、防災への心構えをしようというケースが多いですね」 

 

出水期となり豪雨や台風による水害が各地でおきているが、現在、土砂崩れを疑似体験できるARの開発も進めているという。

「コロナ禍の中、大がかりでなくてもスマホなどデバイスさえあれば体験することもできます。疑似体験をすることで災害を自分事として捉えてもらい、実際に命が救われる事例を少しでも増やしたいと考えています」

【執筆:フジテレビ解説委員室室長 青木良樹】

記事 18 青木良樹

フジテレビ報道局解説委員室室長 危機管理委員長  東京都出身 1988年フジテレビ入社  警視庁や警察庁記者、ニュースディレクターなどを経て、警視庁クラブキャップ、バンコク支局長、編集長、社会部長などを務める。オウム真理教事件、和歌山カレー事件、ミャンマー日本人ジャーナリスト射殺事件などを取材し、現在は新型コロナや災害取材のとりまとめ、危機管理などにあたっている。