念願だった雑誌の連載を目の前にして、難病を発症した静岡・磐田市のマンガ家の男性。
絶望を乗り越え、YouTubeで公開を始めた動画は反響を呼び、短編集が出版されるなど新たな一歩を踏み出している。

マンガに没頭した日々が一転

YouTube「スタジオGARAGE・はじめまして」
YouTube「スタジオGARAGE・はじめまして」
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YouTube「スタジオGARAGE・はじめまして」より
~自分が、難病であることがわかりました。マンガだけは、どうしても諦めることが出来ませんでした。どんなに嫌なことがあっても、マンガを描いている間だけは生きててよかったと思える。こんなどうしようもない自分をちょっとだけ好きになれる。~

短編動画で自分のことを描いた寺田浩晃さん。27歳のマンガ家だ。
大阪芸術大学で学び、卒業後は上京。雑誌での連載を目標に、24時間をマンガに捧げた寺田さん。
努力の甲斐もあって、読み切りマンガが何度か掲載され、「稀代のストーリーテラー」と紹介された。
しかし、念願の連載の話が来た矢先の2019年…

YouTube「スタジオGARAGE・はじめまして」
YouTube「スタジオGARAGE・はじめまして」

YouTube「スタジオGARAGE・はじめまして」より
~自分が、難病であることがわかりました。人生終わったと思いました。その後、体重は40kg台まで低下。慢性的な腹痛、血便、下痢…~

好酸球性胃腸炎(こうさんきゅうせいいちょうえん)。食べ物が原因でアレルギー反応が起こる、治療法が確立されていない難病だ。

寺田浩晃さん:
本当にマンガで描いた通り、人生終わったと思った。最初は認めたくなくて、ずっと自分の中で否定していた

腹痛や血便、嘔吐に加え、前立腺炎や坐骨神経痛、うつ病など合併症も併発した。

新たな決意「自分を残せる手段がある」

発症してから1年半、部屋に引きこもる生活が続いた寺田さん。
自分の存在を残したい…前に進めたきっかけは、やはりマンガだった。

寺田浩晃さん:
病気になって残りの時間が無いとなった時に、唯一運が良かったと思うのは、自分がマンガを描いていた。マンガって世に残るじゃないですか。自分を世に残せる手段があると思って。残った時間で何が描けるかしか考えなかったので、雑念は消えた気がした

2021年1月、仲間とYouTubeチャンネル「スタジオGARAGE」を開設。
本の出版を目指し、短編動画を発信してきた。

YouTubeチャンネル「スタジオGARAGE」
YouTubeチャンネル「スタジオGARAGE」

あれから1年。
寺田さんの姿は、地元の交流センターにあった。
2021年に新型コロナの影響で中止となってしまった、作品展示会の準備だ。

寺田浩晃さん:
シンプルです。とにかく作品を見てほしい。あまり飾り立てず、中身を見てもらえるように

迎えた展示会当日。普段はYouTubeという画面越しで見てくれている読者だが、目の前には、作品をじっくりと読んでくれる読者の姿があった。
寺田さんも、直接触れ合える機会を大切にしていた。

来場者:
いろいろなものを全部見ています。何回見ても良い。必死にやっているからね

会場には3日間で266人が来場し、好評を博した。

寺田浩晃さん:
去年来たくて来られなかったという声をすごくもらって、その声を聞くと、本当にやって良かったと思う

描くときは立ったままで…

15分以上座ると下半身に痛みが生じるため、立ったまま描き続ける寺田さん。気になる体調は…

寺田浩晃さん:
1年前に比べたら、だいぶ元気になっていると思う。治療としても、いま薬に頼っていないので副作用もないし、時間かかるけど根本的に体質改善をしようとやっている

寺田さんの日課となっているのが散歩。いまでは30分程度、体力アップや気分転換を図りながら、ほぼ毎日歩いている。

短編集の出版記念で上映会

5月21日、磐田市で本の出版を記念して上映会が開かれた。出版された本は、短編集「黒猫は泣かない。」
帯には、日本漫画家協会の理事長を務める里中満智子さんのコメントが寄せられている。

出版した短編集「黒猫は泣かない。」
出版した短編集「黒猫は泣かない。」

上映会は、新型コロナ対策として事前申し込み制で行われ、約100人が訪れた。
本のタイトルにもなっている作品「黒猫は泣かない。」が上映された。

小学校の同級生が亡くなり、葬儀に参列する女性。亡くなった同級生は、何をされても決して泣かなかった、いじめられっ子の男の子だった。
そんなある日、声をかけた女性だけに見せた涙。
大人になり、忙しい日々に追われ、変わってしまった女性。
作品では、不思議な黒猫との出会いを通して、自分を見つめ直すきっかけに気づかせてくれる。

YouTube「スタジオGARAGE・黒猫は泣かない」
YouTube「スタジオGARAGE・黒猫は泣かない」

上映会では、舞台挨拶にも立った寺田さん。自身の生い立ちや病気への思いを口にした。

寺田浩晃さん:
ちょっといじめられている時期があって、学校にも家にも居場所がなくて、とにかく辛くて、自分が世界で一番不幸だと思っていた。マンガを描いて東京に行って、仕事でかろうじてご飯を食べられるようになるけど、病気になっちゃって。でも、やるしかないと思って。本当に感謝しかないです。きょう来ていただいて、ありがとうございました

観客:
感動した。私もこれからいろいろあると思うけど頑張りたい。
病気のこともあると思うけど、苦労したからこそ、いろいろ感じること、言えることが作品に表れていると思う

上映会後には、本の販売会やサイン会も開かれ、たくさんの人たちから応援メッセージをもらった寺田さん。
顔を見て、直接言ってもらえる言葉の力の大きさは、寺田さんの表情からもうかがえた。

寺田浩晃さん:
うれしいことをいっぱい言ってもらえた。うれしかった、本当に。ただただ時代や流行に流されない。風化しない本を残す、それだけです。良いものを描く

出版された本を見て寺田さんが思ったことは、「早く次を描きたい」ということ。
悩みや傷を抱えた人の心が、少しでも軽くなればと願い、きょうも力強くペンを走らせる。

(テレビ静岡)