ロシアのウクライナ侵攻が始まって、8月24日で半年となった。
信州に避難してきた家族が、高森町で暮らし始めて3カ月余り。最年少・3歳の女の子がいる家族を通じ、避難生活の現実と希望をお伝えする。
ダニエラちゃんは希望を与える存在
朝7時半、兄・ダビドさんがまだ眠る中、母・ディナさんに起こされていたのは、3歳のダニエラちゃんだ。
まだ眠そう…。
高森町の町営住宅で、3人は別家族のきょうだいと、部屋を分け合って暮らしている。
この記事の画像(22枚)朝食を食べたら、急いで保育園に行く準備だ。
ダニエラちゃんの歯磨きをするため、母・ディナさんが「もっと口を開けて」と促す。歯磨きを終え、着替えたら、ベビーカーに乗って出発。保育園までは歩いて20分ほどかかる。
母親・ディナさん:
アツイ…
保育園に通って、2カ月余りになるが…
ダニエラちゃん(3):
ママ~
別れ際はまだ泣いてしまう。
一人遊びが多かったというダニエラちゃんだが、最近は他のお友達と遊ぶことが増えたという。
大好きなプールの時間がやってきた。ダニエラちゃんにも、3歳らしいあどけない笑顔が浮かんだ。
この3カ月余り、ダニエラちゃんは、厳しい状況に置かれた避難家族や多くの支援者の癒やし、そして希望の存在となってきた。
空手道禅道会が町と連携 避難家族を受け入れ
2022年2月に始まった、ロシアのウクライナ侵攻。多くの市民が戦火に巻き込まれた。
そうした中、現地に支部を持つ飯田市の空手団体「空手道禅道会」が、日本への避難を募った。やってきたのは、4家族9人。避難先は、禅道会と連携した高森町だった。
2人の子を抱えるディナさんは…
母親・ディナさん(5月6日会見):
(現地は)爆撃や空襲のサイレンが鳴っています。3時間おきに夜にもサイレンは鳴って、子どもたちはとてもおびえていて、子どもを連れて避難所などに避難しないといけないのは、とてもつらかった。
日本に来て温かい歓迎を受けて、何回も感謝の言葉をおくりたい気持ち
生活用品の買い出しに、町営住宅への引っ越し、そして小中学校への通学。慌ただしく日本での生活が始まった。
生活が落ち着いてきた7月、衝撃が走った。9人の故郷・ビンニツァ州の中心部がミサイル攻撃をされ、子ども3人を含む24人が死亡したのだ。
パートナーや親族の無事は確認できたが…
母親・ディナさん(7月19日会見):
亡くなった人たちに何もできないのがつらいです。こんなふうに亡くなってしまったのは、とてもつらくて悲しい
仕事と子育てに奮闘…子どもたちも頑張る
その後、大人たちは、町の業者のパート従業員として働いている。キッチンカーを使って、ウクライナ料理を道の駅で販売している。
販売の仕事をしてきたディナさんにとって、接客はお手の物だ。
母親・ディナさん(8月16日):
このような仕事に慣れてるから、日本に来て同じような仕事ができて、安心して接客できるから楽しい
一方、保育園では…
「いただきます」
ダニエラちゃんだって頑張っている。苦手な給食にもトライ。
山吹保育園・佐々木美紀 保育士:
国も違うし、言葉も違うし、安心できるようにダニエラに寄り添って、少しでも落ち着ける環境をつくってあげたいというのが一番
お昼寝の時間。
ダニエラちゃんは、お気に入りのウサギの人形と一緒に眠りについた。
午後3時すぎ、雨の中、ディナさんが迎えに来た。
「ママ!ママ!」
ダニエラちゃんの兄・ダビドさん(8):
コンニチハ
ディナさん一家は、共に避難してきたカテリーナさん、ヴィタリさんのきょうだいと、部屋を分け合って暮らしている。
この日の夕食はボルシチと、チーズをのせて焼いた食パンだ。
ダビドさんとヴィタリさんは夏休み中。時間を持て余し気味だ。
ヴィタリさん:
きょうは起きて、歯磨いて、ゲームして、ゲームして、ゲームして、ゲームしたよ
ダニエラちゃん(3):
オイシイネ
日本に来て3カ月余り。生活のリズムはつかめてきたようだ。
母親・ディナさん:
子どもたちのこれからを心配していますが、学校や保育園にちゃんと通わせて、責任をもって育てていきたいです。ダニエラはもう少し落ち着きのある子になればいいかなと。ダビドはもっと勉強に熱心になってほしいかな
祖国に残る夫が心配…戦争終結を願う
しかし一方で、祖国、そして現地に残る夫への思いは募る一方だ。
夫・セルギーさんは、農業機械の販売をする会社を経営していて、ビンニツァに残っている。連絡は毎日しているが、先日、隣町に爆弾が落ちたというメッセージが届いたという。
母親・ディナさん:
毎日、夫のことを心配していて、どんどん寂しさが募っています。一日でも早く戦争が終わってほしい、会いたいです
ダニエラちゃんの兄・ダビドさん(8):
お父さんのことを思うと、とても寂しいです。お父さんに会えたら、抱きしめてキスをして、外食に行きたいです
ダニエラちゃんも時折、父親がいないことを寂しがっているそうだ。
一家の思いとは裏腹に、戦闘は長期化の様相を見せている。
ウクライナの未来に光がさしてほしい
「禅道会」はさらに支援の輪を広げようと、寄付金を募るクラウドファンディング、名付けて「ダニエラ基金」をスタートさせた。
目標金額は1000万円。避難家族の就労や、ウクライナにいる人たちへの支援に充てる予定で、9月末まで受け付ける。
禅道会首席師範・小沢隆さん:
(ダニエラちゃんは)いつも元気が良くて光が差すような明るいところがあるので、ウクライナの未来に光が差せばいいなという願いも込めて、彼女の名前を使った基金にしました
ディナさんは…
母親・ディナさん:
とても面白いことだと思います。みんなのための基金、とてもすてきなことだと思います。ウクライナに帰ったら写真スタジオを開きたいんですが、そこにもダニエラの名前をつけたい
いずれ祖国に…。
ディナさんは、家族そろってダニエラちゃんの笑顔を囲む日を待ち望んでいる。
(長野放送)