今シーズン序盤の不調を乗り越え、14戦目で今季初の頂点に立った稲見萌寧(もね)。

2週連続Vを狙う昨シーズンの賞金女王は、今週の大会でも好位置につけ優勝を伺う勢いだ。

だがどうして、これ程劇的な復調を遂げているのか?その疑問を本人に率直にぶつけてみた。

そこには、何かを包み隠すような言葉選びではない、ありのままの自然体で勝負にのぞむ22歳の姿があった。

絶不調からの復調Vで流した涙の意味

今シーズン序盤の稲見は、去年の快進撃がウソのような成績だった。

昨季9勝と他を圧倒した女王は、序盤の7戦で2度の予選落ち、棄権も1度経験した。

そんな苦しみを経験しながらも5月以降、先々週までの5試合で3位以内が3度と復調の兆しを見せると、先週ついに初優勝。

この勝利を、本人はどう受け止めているのだろう。

「ちょっと『まだ勝てないのかな』と思ったりしていて、『夏くらいにとりあえず勝てたら良いな』という気持ちでやっていたので、それが『思ったより早く勝てて、良かったな』という感じです」

その勝利は昨年の圧倒的な強さを思い起こさせるような、3日間トップを譲らない完全優勝。

優勝インタビューでは「ここまで苦しかった。去年たくさん活躍できたからこそ、今年は頑張らなきゃと思った」と、涙をにじませた。

――その思いをひっくるめたのが、あの涙だったのでしょうか? 
そうですね。私、結構涙もろいので、ちょっと辛かったなと思った瞬間に、涙が出てきちゃうので…。

――あれは嬉しかったのかホッとしたのか、どちらですか?
安堵です。安堵した涙という感じでした。めちゃくちゃ涙もろいんです。

「歩けないくらい痛かった」腰の回復

そんな稲見をデータで見ると、4月には13位だった平均ストロークが、今大会前には2位にランクアップ。ショットの精度を表すパーオン率では5位から1位に浮上するなど、急激に調子を上げている。

この裏にはどんな変化があったのだろうか?

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――技術面、スイングなど、何パーセントくらいの出来ですか?
半分くらいです。

――まだ半分ですか。優勝があってもですか?
100パーセントになることはないので、70パーセントになればいいのかなと思っています。

――腰の状態がどう優勝に繋がったのか、教えてください。
腰の痛みは、去年の終わりは本当にもう歩けないくらい痛かったので。そういう面では、良くなって来ています。やっぱり“反り腰”を治そうとして、それがきっかけで上手くハマらなくなってしまったので、元に戻しました。

でも戻すとラウンドが終わった後に若干痛みがあったりするんですけど、でも本当にケアで治って次の日のラウンドでも大丈夫という状態です。

――戻したというのは?
腰の位置です。体の問題ですね。スイングっていうよりも体の“腰の反り具合”とかそういうポジションを直しました。

――そこからショットも安定はしてきましたか?
はい。だいぶスッキリした感じです。

――戻して、終わった後ケアをするとまたもう翌日には?
そうですね、とりあえずもう大丈夫です。

単独トップからの逆転負けで流した悔し涙

2週連続優勝がかかる稲見だが、今週の「宮里藍サントリーレディスオープン」には苦い思い出がある。

去年のこの大会の最終日に単独首位でスタートしながら、4打差あったアドバンテージを逆転された。

昨年の「宮里藍サントリーレディスオープン」では苦い思いも
昨年の「宮里藍サントリーレディスオープン」では苦い思いも

最終ホールで沈めればトップに並ぶバーディパットも、まるで“神様の悪戯”のようにボールはカップをそれ、天を仰いだ。

直後のインタビューでは、涙をこらえることができずに「一番は単独トップで出て負けたのが初めて。自分のミスで負けたのが悔しい」と語り、唇をかみしめた。

悔しさのあまりインタビュー中に涙がこぼれてしまう
悔しさのあまりインタビュー中に涙がこぼれてしまう

あの時の負けを、今はどう感じているのだろうか。

――1年前のこの大会で流した涙は何の涙でしたか?
なにもかも捨てて帰りたかったです。負けた中でも単独トップから負けたのが初めてだったので、それがもう許せなくて。本当にあの試合だけなんですよね。

――しかも3日目までボギーフリー(なし)でした。
基本的に(優勝パターンが)逆転優勝か単独でそのまま逃げ切りだったので、単独にいたら絶対勝てるっていう感じだったので、それで負けたのが悔しかったですね。

あの悔し涙から1年、稲見はそのリベンジの舞台に立っている。

真夏の東京五輪で世界と戦った経験と、今シーズン序盤の不調を乗り越えた経験を携えて。

「先週優勝できたので、今週もしっかりと予選通過して上位でずっと戦っていけるように頑張りたいなと思います」

復調を告げる初優勝で、年間獲得賞金ランキングとメルセデス・ランキングの両方で2位に上がった稲見は、トップ西郷真央との差を確実に詰め始めた。

そして今大会2日目のホールアウト後のインタビュー。「今日はもう(夕方)5時半近いですが練習はするんですか?」と問われると「します(笑)」と間髪を入れずに語った。

その勢いとゴルフへの変わることのない真摯な姿勢がどんなプレーを生むのか、今週の戦いをじっくりと見守りたい。

宮里藍サントリーレディスオープン ~全英女子への道~
第3日・6月11日(土)午後3時00分 生中継
最終日・6月12日(日)午後1時35分  生中継
https://www.suntory.co.jp/culture-sports/slo/

【6月10日18時追記】
今大会2日目のホールアウト後のインタビュー等を追記しました。