3日間で考えたビジネスモデルの優劣を競う起業体験イベントが、静岡・三島市で開かれた。
優勝チームの作品は、“お金がない学生”をターゲットにしたアプリの開発だった。最初の着想からアイデアを練り直していく過程をみていくと、起業のヒントが見えてくる。

3日間でビジネスモデル提案

2022年4月に静岡・三島市で開かれた起業体験イベント「Startup Weekend(スタートアップ ウィークエンド)」。

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参加したのは県内外に住む13歳から59歳までの28人で、学生や会社員などさまざまだ。参加者は、金曜日の夜から日曜日までの54時間でビジネスモデルを作り上げ、最終日に審査を受ける。

もともと東京のNPO法人が全国の各都市で開いていて、体験した人たちが同種のイベントを企画することが多いそうだ。地域の企業が費用面でサポートすることもある。三島市では2020年と2021年に続き3回目の開催だ。

主催者・麻生泰臣さん:
人と人とのつながりや、地域特性を生かした新たなビジネスの発信が目的です

参加者は人脈を築いたり、起業のノウハウを学ぶことができる。

アイデア披露してチーム作り

イベント初日には、まずそれぞれのアイデアをアピールした。

参加者:
(三島の子供たちは)きらきらする大人や企業との出会いが、都会に比べて少ない。だから子供に夢を与えるものを

別の参加者:
もともと日本にある伝統の野菜の種を広めて守っていきたい

別の参加者:
街で人と人とをつなげるプラットフォームを考えています

続いてはチーム作り。お互いに誘い合って、チームを組む。その結果、5つのチームが誕生した。残る2日間は、チームで協力してアイデアをビジネスとして形にする。

「フードロス削減」をビジネスに

2日目、いよいよビジネスを作る作業が始まった。ポイントは、「顧客が求める価値を提供できているか」「ビジネスとして収益性・実現可能性は考えられているか」などだ。チーム内で話し合いを重ねていく。

「フードロスの削減」を目指すチームを取材した。

フードロスチーム・川端彩加さん:
とりあえず総菜店をターゲットにして、ニーズがあるか聞きに行く段階です

総菜店などで売れ残った商品を引き取り、人通りの多い駅前などで販売するビジネスを想定し、店を回って話を聞いた。

精肉店:
今は1頭なら1頭分がみんなパックにされてくるから、捨てるところはない。皮は革屋さんに行くし(ロスは)何にもない

団子などを販売する米店にも行った。

米店:
雨の日や風の日など、あまりお客さんが来店してくれない日には(売れ残りが)ありますが、普段は店で調節してるので(売れ残りを)駅前で売ることまでできるかな

米店で聞き取り
米店で聞き取り

方向の修正が必要なようだ。

現場の意見きいて方向修正

午後からは、起業を経験した経営者やサポートする専門家などがアドバイザーとなり、現実的なビジネスに近づけていく。

起業アドバイザー:
もうかってる仕事は、(事務所の)家賃がなくて、人もそんなにいらなくて、設備がパソコンだけで、仕入れがないもの。例えばアプリ開発だとか

フードロスチーム・川端さん:
(アドバイスを聞いて)思ったんですけど、スーパーなどの営業時間とお弁当にフォーカスを当てて、「お弁当が何個余っているか」を“見える化”したらどうだろう

新たな切り口が見つかった。残すはあと1日だ。

起業体験した先輩が学んだこと

長泉町でシェアハウスを運営する宮迫菜由さんは、2021年イベントに参加した。イベントでは、以前から興味があった「狩猟」をテーマにしたビジネスを提案した。

2021年参加の宮迫さんは「狩猟」ビジネス提案
2021年参加の宮迫さんは「狩猟」ビジネス提案

宮迫さんは狩猟免許を取得していて、獲物をさばいて食肉にしたり、シカの革細工をフリーマーケットで販売したりしている。

宮迫菜由さん:
たくさんの人の前で自分がやりたいことを話すことが、私にはすごく意味があった。自分の中で覚悟みたいなもの、言ったからにはちゃんとやらないと恥ずかしいという意識が芽生えたので

ターゲットの反応は?

起業体験イベントは、いよいよ最終日を迎えた。フードロスチームは、2日間で市内の総菜店など20店舗を回り情報を集めた。最後は新ビジネスのターゲットとする大学生の聞き取りだ。

フードロスチーム :
(店で)売れ残ったものをアプリでお知らせして、街にいてお知らせがきたら、近かったら行くかな

大学生 :
そうですね

フードロスチーム :
家にいて通知が来たらどう?

大学生 :
ちょっと面倒くさい

審査まであと1時間、各チームとも最後の追い込みだ。

新規事業のプロが審査

持ち時間の終了が告げられ、いよいよ審査が始まった。審査員は、投資会社や大手企業の新規事業担当者だ。

各チームが、3日間かけて作り上げたビジネスモデルを発表した。一人暮らしの高齢者の不安解消のための共同生活支援サービスや子供向けの就業体験サービス、それに家庭菜園向けに国産の高品質な種子を提供するサービスなどが披露された。

フードロスチームの順番がきた。

フードロスチーム:
廃棄がとても多く、売上げも下がり悩んでます、困ってますという声をお聞きしました。ですから、廃棄直前の総菜をレスキューしたいと思いました

大学生の聞き取りも盛り込んだ。

フードロスチーム:
インタビューをして確認しました。ある学生は「ぜひ欲しい。でもお金がないので値段によるな。50円や100円だったら買います」。別の学生は「(売れ残りに)全く抵抗ないです、総菜は100円までかな」。でも最後に、何かのついでならいいかもとぽつりと言いました。
なので我々が提供するサービスは、地域の店舗の(廃棄予定の弁当の)在庫数が、その人がその街の近くに行くと(スマホに)お知らせで出てきます

フードロスチームの弁当情報アプリ
フードロスチームの弁当情報アプリ

フードロスチーム・川端さん:
フードロスゼロの世界へ、一緒に考えていきましょう。お願いします

「大勢の声を反映」を評価

審査の結果、優勝したのはフードロスチームだ。総菜店や大学生など大勢の人の声を聞いて、ビジネスに反映させたことなどが評価された。

優勝したフードロスチーム
優勝したフードロスチーム

フードロスチーム・川端さん:
ビジネスプランが二転三転して、仮説が5つくらい出てしまった。そのたびに検証して崩れてを繰り返し、本当に辛くて大変だったけど、チームのメンバーが優しくて、助け合って乗り越えて、何とかきょうを迎えられた

主催者・麻生泰臣さん:
ここで出会った仲間とまた違ったものを作ることで、静岡県や三島市など地域を盛り上げてくれる人材に育ってもらいたい

参加者全員で記念写真
参加者全員で記念写真

ビジネスを生み出すために悩み続けた3日間。
このイベントの経験が、新しい事業を始めるきっかけを与えてくれそうだ。

(テレビ静岡)

テレビ静岡
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