石川県輪島市に伝わる伝統芸能「御陣乗太鼓(ごじんじょだいこ)」。2022年春、10年ぶりに打ち手がデビューした。その町に生まれた男性しか打つことが出来ないと言う、歴史ある伝統芸能に挑んだ高校生のデビューまでを追った。

能登の小さな町がつないだ門外不出の伝統

輪島市に伝わる「御陣乗太鼓」は、石川県無形民俗文化財に指定されている伝統芸能だ。約450年前の戦国時代、上杉謙信の軍勢が能登に攻め込んできた際、鬼や亡霊の面をつけて海藻の髪を振り乱しながら、太鼓を打ち鳴らし、追い払ったのが始まりとされている。

石川県が誇る御陣乗太鼓だが、実は約70世帯250人が暮らす海沿いの町・輪島市名舟町(なふねまち)に生まれた男性にしか打つことが許されない、門外不出の太鼓だ。

輪島市内には御陣乗太鼓の壁画も…
輪島市内には御陣乗太鼓の壁画も…
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しかも、楽譜などなく、打ち手は稽古を積んで耳と体にリズムを刻み込む。

輪島市名舟町は日本海側に面した自然豊かな町
輪島市名舟町は日本海側に面した自然豊かな町

10年ぶり!期待の新人は17歳の高校生

その太鼓の打ち手として2022年、新たに高校生が加わることになった。高校2年生の南雄輝(みなみ・ゆうき)さん(17)。御陣乗太鼓の打ち手がデビューするのは10年ぶりとなる。

デビューを控えた南さん
デビューを控えた南さん

デビューを約1か月後に控え、稽古場で汗を流す南さんに挑戦の理由を聞いた。

南さん:
誘われたのもありますけど、太鼓が好きだった。やっぱりかっこいいからですかね

南さんを指導するのは、江尻一希(えじり・かずき)さん(28)だ。

指導する江尻さん:
鏡見ろ、鏡。なんか変やと思わんか?こうや、こうや

南さんと指導役の江尻さん
南さんと指導役の江尻さん

実は、南さんの1つ前となる10年前にデビューしたのが、江尻さんだ。江尻さんはこの10年間、新たな打ち手が現れないことに寂しさを感じていた。

江尻さん:
南さんが太鼓をやると言ったときは正直、嬉しかったです

過疎と高齢化…若者が町離れ 迷いの中で受け継がれる太鼓

御陣乗太鼓の保存会では、28歳の江尻さんが最年少だ。過疎と高齢化が進む能登では名舟町も例外ではなく、打ち手も高齢化が進んでいる。若者たちの多くは働く場を求め、町を離れていく。正直、高校生の南さんも将来に迷いがあるという。

南さん:
町に残りたいという思いが半分と、町から出たいという思いが半分あって…

夢と現実の狭間で気持ちは揺れる
夢と現実の狭間で気持ちは揺れる

南さんの指導にあたる江尻さんも、その思いに理解を示す。今は輪島塗の職人をしている江尻さんだが、自身も高校卒業後の3年間は県外に出た。ふるさとを離れた経験があったからこそ、今があるという。

江尻さん:
御陣乗太鼓の記憶が鮮明に残っていて、家業である輪島塗の仕事と太鼓を両立したいと思った。今は名舟町に骨をうずめる思い。高校生の南さんには、自分の一番やりたいことを優先してほしい。ふるさとで太鼓を叩きたいと思えたら、そこで戻って来てくればいい

県外で暮らしたことで、より御陣乗太鼓の大切に気づいた江尻さん
県外で暮らしたことで、より御陣乗太鼓の大切に気づいた江尻さん

初舞台の1週間前。南さんは自宅で父親とイメージトレーニングに励んでいた。父の忠博さんは名舟町出身ではないため、御陣乗太鼓の打ち手にはなれなかった。

南さんの父・忠博さん:
息子が太鼓をやるって聞いたときは本当に出来るのかなって不安はあった。今は、楽しみ半分、不安半分です

南さんにとっては、打ち手になれない父の思いを背負っての舞台でもあるのだ。

いよいよ本番!暗闇から声が…勇壮な太鼓の響き

ベテランの打ち手:
この舞台使って、ミエ切る練習してみ。

この日一緒に太鼓を打つのは、キャリア40年以上の大ベテランたち。そのベテランの一人が直前に稽古をつけてくれた。

本番直前に大ベテランから直接指導
本番直前に大ベテランから直接指導

ベテランの打ち手:
やりながら覚えていかな。場数や

南さん:
めちゃくちゃ緊張してます。自分を出して、かっこいい姿をみせたいです

ベテランの指導を受けて、本番へ気合も十分!
ベテランの指導を受けて、本番へ気合も十分!

いよいよ10年ぶり!新たな打ち手がデビュー

南さんの初舞台が始まった。会場に響く勇壮な御陣乗太鼓の響き!

南さん(右)の初舞台の幕が開けた!
南さん(右)の初舞台の幕が開けた!

180センチの長身を生かし、南さんは観衆を見下ろすようにミエを切る。

長身を生かして、観客を圧倒する演技
長身を生かして、観客を圧倒する演技

会場に響く勇壮なリズム…

ベテランたちに臆することなく、太鼓の音を響かせた
ベテランたちに臆することなく、太鼓の音を響かせた

終わってしまえば、舞台はあっという間。大きなミスはなく舞台を終えた南さんだが…

南さん:
もう全然ダメでしたね。声を出すところとか。一応、思いっきり叩けたよと、指導してくれた江尻さんには伝えたい

反省点が多いのは目標が高い証。高校卒業までは、もうしばらく時間はある。南さんの現時点での目標は…

南さん:
まだ将来は決まってないけど、今は一生懸命叩きたい

いまは精一杯、太鼓に打ち込みたいと話す南さん
いまは精一杯、太鼓に打ち込みたいと話す南さん

過疎と高齢化の町で伝統をつなぐのは難しい。しかし『太鼓の音を響かせたい』…その思いがあれば、伝統はつながっていくはずだ。

(石川テレビ)