岩手・宮古市で「源義経」を題材にした市民劇が行われた。
主役を演じたのは、地域の歴史を伝えることで希薄になりつつあるコミュニティをつなごうと立ち上がった男性だった。

地元の人の手作りで伝える「義経北行伝説」

5月21日、宮古市で行われた市民劇。兄に追われた「源義経」が自害せず、平泉から宮古を通って北へ逃げたとされる「義経北行伝説」が題材。

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この市民劇、役者はもちろんのこと、照明などの舞台技術や生演奏のオーケストラなど、ほとんどが地元の人の手作りで成り立っている。

この日を特別な思いで迎えた人がいる。主役の源義経を演じた、山田町出身の伊藤峻さん(37)。
伊藤さんは縦横無尽に飛び回りながら、この舞台に立てる喜びを噛みしめていた。

11年前の東日本大震災で、会場となった宮古市民文化会館は建物の中まで津波が押し寄せ、半壊した。

源義経役・伊藤峻さん:
この市民文化会館が実際被災していて、数年後に復活して、みやこ市民劇は今回で第3回なんですけど、夢を与えられる場が宮古にあるというのは継続してくべきだと改めて感じた

現在、宮古市の建設会社で社長を務める伊藤さんは「地域に何ができるのかが、発想の原点」という理念のもと、地元の復興に貢献してきた。
その伊藤さんが市民劇と出会ったのは、社長に就任した2020年だった。

芸術を通してコミュニティ繋ぐ…市民劇に込められた地元復興への思い

みやこ市民劇は文化会館の再建に合わせ、2018年に1回目の講演が行われた。コンセプトは「芸術を通して人が集い、再びコミュニティを作ること」。

宮古市・山本正徳市長:
皆で力を合わせて一つの物事を作り上げることは非常に大事なことだと思うので、しっかりと取り組んでいきたい

伊藤さんはこのコンセプトに賛同し、2020年に行われた第2回公演から参加。平日の夕方や休日に稽古を重ねてきた。

源義経役・伊藤峻さん:
皆さん台本をなりきってしゃべるんですね。雰囲気に圧倒されて、とんでもないところに来てしまったと思った。普段できない表現を学ぶ場だと思ってきて、稽古を重ねるうちに楽しくなってきた

まじめな性格の伊藤さんは、信念とやさしさをあわせ持つ「源義経」のイメージにピッタリだと、主役に抜擢された。

源義経役・伊藤峻さん:
この甲冑(かっちゅう)は1回しか着ないが、すごい立派に作ってもらい、本当に責任を感じる。宮古市民の人たちに演劇の素晴らしさとか、地域にこういう歴史があったということを誇りに思ってもらえるよう、表現を磨き、市民に届けられるように頑張りたい

そして本番当日の朝、伊藤さんは市内の神社を訪れた。祈るのは、舞台の成功とまちの発展。

源義経役・伊藤峻さん:
安全に無事走りきることができることと、この演劇がきっかけになって宮古がもっと発展すればいいなというのもお願いした

会場には、市の内外から約400人の観客が訪れた。いよいよ幕が上がる。

伊藤さんは、場面転換中の早着替えも成功。落ち着いた様子で義経を演じる。

練習を重ねてきたソロの歌も無事成功。伊藤さんたちの熱のこもった演技は、観客の心にも響いていた。

訪れた客:
すごくよかった。来てよかったなと

訪れた客:
実際見ると、市民が活気があるんだなということが伝わってきて、すごくよかった

伊藤さんも手応えを感じていた。

源義経役・伊藤峻さん: 
演じる前はすごい責任を感じることもあったが、実際演じて、すごく楽しかった。皆さんが本当に後押ししてくれるような気がして、すごい気持ちがよかった

震災から11年。新型コロナウイルスもあり、コミュニティが希薄になりがちな中、市民劇は人と人の心をつなぐひとときをもたらしていた。

(岩手めんこいテレビ)

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