ウクライナの避難民支援。長野・松本市の寺の住職が、多くの避難民が押し寄せているポーランドとモルドバを訪れた。現地では今、何が求められているのか…。住職が見た支援の実情と課題をお伝えする。

難民支援活動 経験生かして

瑞松寺住職・茅野俊幸さん(長野県松本市)
瑞松寺住職・茅野俊幸さん(長野県松本市)
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「ウクライナ国、国土安穏、万邦和楽、和平ならんことを」

瑞松寺の住職、茅野俊幸さん(56)。ロシアの軍事侵攻が始まってからこの2カ月半、毎日、ウクライナの平和を祈っている。

瑞松寺の住職・茅野俊幸さん:
一日も早くロシアと停戦が結ばれて、国外に出ている方が皆さん家族一緒になって幸せに暮らせるようにと。私たちができることは宗教者、仏教者として平和が一日でも早く訪れることを強く祈ること

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茅野さんは僧侶として祈りを捧げるだけでなく、難民支援を行う団体「シャンティ国際ボランティア会」の常務理事としても活動している。これまで内戦などが続いたアジアの国々で、学校や図書館を建てる活動に携わってきた。

物資を配りながら避難所を訪問
物資を配りながら避難所を訪問

瑞松寺の住職・茅野俊幸さん:
主にアジア圏の活動だったが、今回はウクライナの国外避難民という形で活動しようと、初動調査という形で入らせていただきました

本格的な支援に向けて、4月に茅野さんたちは物資を配りながらポーランドとモルドバの避難所を訪れた。
こちらはポーランド南西部の村・モシュナの避難所。村を含む郡全体では、約4万人が避難している。

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瑞松寺の住職・茅野俊幸さん:
弾が飛び交うような中を逃げながら、子どもの手を引っ張りながら逃げてきた方もいるし、15分で荷物をまとめて命からがら逃げてきたという話もあった

心の傷を懸念

避難民のほとんどが女性や子ども。夫や父親はウクライナに残っていて、これまで訪れた「難民キャンプ」との違いに気づかされた。

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瑞松寺の住職・茅野俊幸さん:
いずれまた戦争が収まったら一日も早く戻りたい、そんな方々ばかりで、気持ちが避難先にいても落ち着かないという方が結構いて、国外へ出たり入ったり流動的な避難生活をされているので驚きだった。中には、悲しいことだが、ポーランドの避難先で出会った10代の子どもですが「自分の国に戻って、僕も一緒に戦いたい」と、そんな言葉を子どもがしてしまう、悲しい場面に出会った

茅野さんたちが懸念していた一つが、子どもたちの心に残った傷だ。避難民を受け入れている家庭を訪問した際、茅野さんは子どもが描いた1枚の絵に胸を痛めた。

瑞松寺の住職・茅野俊幸さん:
真っ黒く塗られた絵があって、その下に何か書いてある。一つの紙の中に真っ黒く四角く塗りつぶして自分の名前が書いてあって、「これが今の気持ちです」と壁に貼ってあった。今、自分の心の中は闇の中にあることを絵が表現しているんじゃないかと感じた

真っ黒く塗られた絵(提供画像)
真っ黒く塗られた絵(提供画像)

現地で感じた支援の課題

モルドバの首都キシナウ。現地では、閉館した映画館などを避難所に利用していた。

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2カ国を訪れる中、現地が抱える課題も見えてきた。一つは就労や教育を支援する上で課題となる「言葉の壁」だ。

瑞松寺の住職・茅野俊幸さん:
言葉の壁というものがあって、母国語のウクライナ語で教育できる環境を整えることも必要だし、国際NGOと自治体が連携して、教育の滞っている部分をサポートしていく必要がある

もう一つは「支援疲れ」。避難民を受け入れているホストファミリーには、大きな負担がかかっている。

避難民を受け入れているホストファミリー(提供画像)
避難民を受け入れているホストファミリー(提供画像)

瑞松寺の住職・茅野俊幸さん:
一つの家に何人も押し寄せるように(避難者が)住んで生活している。その状況が2、3カ月続くと、受け入れる方々も支援疲れ…仮設住宅の支援とか、安心して暮らせる仮の住まいを、インフラ整備していく必要がある

避難民や支援の状況を報告

2カ国訪問の報告会(長野市)
2カ国訪問の報告会(長野市)

5月11日、長野市の西光寺。

瑞松寺の住職・茅野俊幸さん(報告会):
戦況次第でまた国外に避難する人もいるし、(戦況が)良くなれば戻る人もいる。支援ニーズが日々変化している。支援のあり方を、もう一度考え直さなければいけないと思う

5月11日、茅野さんは長野市の寺で2カ国訪問の報告会を開いた。涙ながらに自国を追われた状況を語った母親、心に傷を抱えた子どもたち、隣国に圧し掛かる負担…。
避難民の心情や現地の課題を訴えた。

瑞松寺の住職・茅野俊幸さん(報告会):
なかなか終わらぬ戦争の中、多くの方が国外に避難していく姿を放っておくわけにはいかない。祈りに終わりなく、祈りに国境なく、活動を模索して展開できれば

報告を聞いて…

60代:
身近に感じられたのでありがたかった。(言葉の重みが)違いますね、現場に行ってらっしゃる方の話なので

80代:
自分があの場所に立ったら、どういう心境になるのか、ジーンと考えさせられた

茅野さんたちの団体は、今回の訪問をもとに本格的な支援に乗り出す方針で、県民にも平和のためにできることを始めてほしいとしている。

瑞松寺の住職・茅野俊幸さん:
皆さん、それぞれ募金活動、義援金、寄付をしていただく形もあるが、まずは皆さんも日常でロシア・ウクライナの分断が終わり、和平、対話が生まれてくることを祈って願っていてほしいな

(長野放送)

長野放送
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