「弁当忘れても傘忘れるな」。…そんな格言が生まれるほど、年間を通じて雨や雪が多い石川県。そんな地方だからこそ生まれた工芸品「金沢和傘」がある。
大量生産の時代に、あえて手仕事で傘を作り続ける職人の思いに迫った。

「後を継いだら勘当や!」職人だった父の思い

鮮やかな色づかいが特徴の、金沢和傘。

金沢和傘
金沢和傘
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石川県金沢市で金沢和傘を作り続けている、1896年創業の「松田和傘店」を訪れた。金沢市には、最盛期には100軒を超える和傘店があったものの、現在残っているのはこの1軒のみ。2016年に3代目を襲名したのが松田重樹(まつだ・しげき)さんだ。

3代目 松田重樹さん
3代目 松田重樹さん

実は松田さんは、元から職人だったわけではないという。

松田和傘店 3代目・松田重樹さん:
私は公務員だったんです。だけど、お袋から「後を継げ!継げ!」と何度も言われるわけです

公務員だった松田重樹さん
公務員だった松田重樹さん

小学生の頃から、職人だった2代目の父、弘さんの仕事の手伝いをしていた重樹さん。熟慮した結果、後を継ぐことを決めて父に話したところ、予想外の言葉が返ってきた。

松田和傘店 3代目・松田重樹さん:
後を継ぐといったら「勘当や!」と言われて…。親父としては、安定した公務員でずっといてほしいという思いがあったんでしょうね

父から「後を継いだら勘当だ」と言われた重樹さん
父から「後を継いだら勘当だ」と言われた重樹さん

松田和傘店がなくなれば、金沢和傘は廃れてしまう。一方で、1960年頃から、軽くて持ちやすい洋傘が世の中に出回り、和傘の需要は一気に落ち込んだ。しかも傘は必需品ではない。
「勘当だ」という言葉は、伝統工芸で生計を立てることの厳しさを実感していた、父の優しさだった。

疑っていた“半世紀持つ”客に教えられ…思いが強く

父から1年半勘当され続けたが、その後、一緒に仕事をすることが許された。しかし父は変わらず厳しかった。

松田和傘店 3代目・松田重樹さん:
(父は)仕事は見て覚えろと。全く教えてくれなかった。本当に厳しかった

厳しかった父・弘さん
厳しかった父・弘さん

本来、和傘の制作は分業制だ。当時唯一の職人となっていた父・弘さんは、細かく分ければ40以上にも上る工程を、全て1人で手掛けていた。2020年に弘さんは95歳で亡くなったが、91歳まで現役の職人として仕事をしていた。父は客にこう言いながら売り出していた。
「手入れさえすれば50年は持ちますよ」と。その言葉に重樹さんは疑いを持っていた。

50年は持つと父は客に言っていた
50年は持つと父は客に言っていた

松田和傘店 3代目・松田重樹さん:
和傘は紙と竹と木でできているんです。そんなものが半世紀も持つはずがないと思っていた

しかし、重樹さんが3代目を襲名して間もない頃、その言葉が本当だったことが分かる出来事が起こる。

松田和傘店 3代目・松田重樹さん:
北海道に住んでいる方で、金沢和傘を100本ほど持っているお得意様がいて。「この金沢和傘は30年前から使っています。こんなのを作ってね」と私に一本プレゼントしてくれたんです。見たらまだまだ十分使えるんです。親父の言っていたことは本当だったんだと思って。この技術は残していかないといけない、と強く思いました

先代が作った30年前の傘
先代が作った30年前の傘

コラボオファー続々 世界からも注目…伝統守るため「攻め」続ける 

金沢和傘の最大の特徴は、その頑丈さだ。
金沢は雨が多いだけでなく、水分量の多い重い雪が降るため、その重さに耐えられるように作られている。傘の天井部分には和紙が四重にも貼られていて、ほかの地域の和傘にはないものだ。

そしてもう一つの特徴が、「千鳥掛け」。
傘を支える内側の「竹骨」を通って、様々な色の糸をかける工程の一つだ。

特徴の一つ「千鳥掛け」
特徴の一つ「千鳥掛け」

松田和傘店 3代目・松田重樹さん:
千鳥掛けは、補強でありデザインでもあります。「手元巻」「鉢巻」「桔梗」「あやとり」など色々なかけ方があるんです

補強でありデザインにもなる
補強でありデザインにもなる

さらに松田さんは、九谷焼作家や友禅作家など、異業種の作家とコラボした傘を作り始めている。

松田和傘店 3代目松田重樹さん:
いろんなところからオファーは来ているので、それに応えられるようにしていかないと。攻めの姿勢ですよね

金沢和傘
金沢和傘

金沢和傘はその美しさから、ヨーロッパの展覧会に出品されるなど、世界から注目され始めている。

2022年に63歳となった松田重樹さん。父から「後を継いだら勘当や!」と言われても、重樹さんの気持ちは全く冷めたことはなかった。
この伝統を絶やすわけには絶対にいかない。「うちの傘を使い続けているお客さんのためにも、あと10年15年は最低続けないとね」と、91歳まで職人として第一線に立ち続けた父の背中を思い出しながら、重樹さんは攻めの姿勢を貫く覚悟だ。

(石川テレビ)

石川テレビ
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