俳優の渡辺裕之さんが亡くなってから1週間。渡辺さんの25年来の友人である男性が、フジテレビの取材に応じた。

どんな事でも真剣に考えてくれる彼に感謝

「ナベちゃんとは25年の付き合いがあり、芸能人としての仕事以外にもお互いの相談事も良くする仲だった。どんな些細な事でも自分の出来る事は何でも提供してくれ、どんな事でも真剣に考えてくれる彼に私は感謝していた。世の中に新型コロナウイルスが出始める前までは、時間があれば知り合いも含めて食事に行ったり、何度かお互いの自宅にも行き来する事のあった友人だった」

フジテレビの取材にこう答えてくれたのは、5月3日、神奈川県の自宅で亡くなった俳優の渡辺裕之さん(享年66)と25年の付き合いがある男性だ。

この男性は渡辺裕之さんの事を「ナベちゃん」と呼び、芸能界の仕事だけでなくプライベートでも親交があった。2022年に入ってからも渡辺さんとは複数回電話をしていて、仕事の相談に乗っていたという。男性は渡辺さんの死後、二度と会えなくなってしまった事実に悲しさと辛さを感じている中で、世の中に出ている今回の渡辺さんに関する報道や記事には事実と違うものもあると指摘する。そして、「渡辺さんの名誉のために」という思いから、俳優としての一面だけではなく、事務所の代表として悩んでいたこともあったという話を語ってくれた。

渡辺裕之さんとコメディアンの小松政夫さん(2017年撮影・男性提供)
渡辺裕之さんとコメディアンの小松政夫さん(2017年撮影・男性提供)
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その事実を知ったとき…

「彼を知る人なら誰もが今回の事実を疑わざるを得ないだろう。渡辺裕之という人間が亡くなったという事実を耳にした時、一瞬、時が止まり我に返るまでには少しの時間を必要としたのは私だけでは無かったと思う」

男性は、突然入ってきた訃報に対して今でも信じられないと話す。そして生前、渡辺さんと一緒に過ごしたプライベートについても語ってくれた。

「ナベちゃんは食事の際『デビューしてからずっと上下2〜3キロくらいしか体重は変わらないよ。あまり炭水化物は食べたらダメだよ』と私に言っていました。ゴルフに行った時も、私のフォームを見て、シングルだった彼は自分の理想のフォームに近づくようによく指導してくれました。彼は周りの友人にも自分と同じように少しでも良い事を伝えようと必死になる人なのです」

警視庁の交通イベントに出席する渡辺裕之さん(2017年撮影・男性提供)
警視庁の交通イベントに出席する渡辺裕之さん(2017年撮影・男性提供)

個人事務所の社長としての重圧

「世の中が新型コロナウイルスの流行によって、周囲の状況も不要不急の外出を控える傾向であったと同様に、私とナベちゃんも外で会うことは少なくなっていたが、電話などで毎月のようにお互いの状況を話す機会があった。コロナ渦で舞台、イベント等の規制が設けられ、これに影響を受けて辛い目に合っている芸能人は少なくないと思われるが、彼も好きな音楽活動が制限されて、また舞台や他の仕事も厳しい年が続いている事を話していた」

舞台の合間に演技の確認をする渡辺裕之さん(2016年撮影・男性提供)
舞台の合間に演技の確認をする渡辺裕之さん(2016年撮影・男性提供)

「彼には俳優やドラマー以外に、もう一つの仕事である個人事務所の社長業があり、その会社の運営も人生において大きな比重を占めているようであった。自分だけなら仕事がなければ少し我慢をすれば大丈夫となるが、事務所の社長として関わる全ての人の責任を1人で感じていたのだと思う。責任感の強い彼から会社の運営について相談をされた事があったが、その際『自分には経営のセンスが無いのかも…』と少し嘆いている時もあった。今考えれば、このコロナ渦での多くの芸能人が不安に思う現状に対して、彼は一人の俳優としてではなく、事務所の代表という事がかなりの重圧として感じていたのかもしれない」

惜しげもなく家族に愛情を注いでいた

渡辺さんは、1993年に女優の原日出子さんと結婚し、2021年の年末にも夫婦でそろってイベントに出席するなど、芸能界きってのおしどり夫婦として知られていた。男性は妻の原さんや子供たちとも交流があり、渡辺さんが家族と過ごす姿についてこう語っている。

「原さんは良き妻であり俳優、渡辺裕之の一番の応援者でもあった。そして子供たちも本当に素晴らしく、まさに絵になる様な素敵な一家だ。そして皆、父・渡辺裕之が大好きで、また彼も惜しげもなく家族に愛情を注いでいた。そんな姿を見ていた私にはどうしても彼が1人で悩みを抱え込んでこんな事態になったのか信じられない」

渡辺裕之さんが描いた自画像(男性提供)
渡辺裕之さんが描いた自画像(男性提供)

「魅は与に生じ求に滅す

取材の最後に、男性は渡辺さんが自ら書いたという座右の銘を見せてくれた。そこには「魅は与に生じ求に滅す」と書かれていた。

渡辺さん直筆の座右の銘(男性提供)
渡辺さん直筆の座右の銘(男性提供)

そして、渡辺さんについてこう語った。

「自分に厳しく、他人に優しく、曲がったことを嫌い、純粋な心を持つ彼が亡くなったのは本当に残念で寂しい。天国で奥様と子供たちを守ってあげて下さい。芸能関係者M、H、I氏より」

【取材・執筆:フジテレビ報道局所属 河村忠徳】

悩みや不安を抱えて困っているときには、電話やSNSで相談する方法があります。「こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)」など、複数の窓口があり、厚生労働省のホームページにも案内があります。

河村忠徳
河村忠徳

「現場に誠実に」「仕事は楽しく」が信条。
FNN北京支局特派員。これまでに警視庁や埼玉県警、宮内庁と主に社会部担当の記者を経験。
また報道番組や情報制作局でディレクター業務も担当し、日本全国だけでなくアジア地域でも取材を行う。