木材を原料とした繊維で、工業用品や紙おむつ、化粧品などに利用されているのが「セルロースナノファイバー」略して「CNF」。
ここ数年、食品での利用が加速しているという。はたして食品に入れると、どのような“おいしい効果”があるのだろうか。
木材などの繊維をナノレベルまで小さくしたCNF
池田孝記者:
私が手に持っているこちらのドロッとした液体の中には、目には見えませんが、セルロースナノファイバーが入っています

「セルロースナノファイバー」略して「CNF」は、木材などの繊維を10億分の1、ナノレベルまで小さくほぐしたものだ。鉄と比べて5分の1の軽さで5倍の強度があり、プラスチックやナイロン樹脂に混ぜて使うと、軽くて強度の高い製品を作ることができる。

その特性を生かし、自動車のバンパーやタイヤといった工業製品のほか、紙おむつや化粧品などで活用が進んできたが、ここ数年、食品での利用が加速している。

CNF入りのうどんを製品化…さて、そのお味は?
日本製紙・多田裕亮主任研究員:
セルロースと言うと馴染みがないかもしれませんが、例えば私達が普段、野菜から取っている食物繊維もセルロースと呼ばれる物質からできています。ナノファイバーというと工業製品をイメージするかもしれませんが、例えばナタデココもセルロースのナノファイバーからできています

業界をリードする「日本製紙」は、2018年静岡・富士市に研究開発と生産を行う施設を設置。製品化した食品はうどん。うどんメーカーと協力して、CNFを練りこんだ麺を開発した。

CNFの入っているうどんと、入っていないうどんはどう違うのだろうか。
池田孝記者:
まずはCNFの入っていないうどんをいただきます。とてもおいしいうどんです

池田孝記者:
次にCNFの入ったうどんをいただきます。違いますね、こちらの方がとてもコシがあります
CNFを混ぜることで材料を強くできるという特徴を生かし、コシのある麺を実現した。

日本製紙・多田裕亮主任研究員:
セルロースナノファイバーは流通コストの削減や、保存性の観点から粉末で提供しています。基本的にはCNFを使ってみたいという食品会社や、飲食関係の方に目的や課題を聞いて相談し、サンプルを試してもらい用途開発を進めています
さまざまな食品での利用を促進するため、「日本製紙」は粉末化したCNFを販売していて、多くの店で商品化が進んでいる。

老舗店のどら焼きもCNFでみずみずしく
静岡・富士市の和菓子店「わかつき」は、「若月製餡所」として昭和3年に創業した老舗。

あんこにこだわった和菓子店として親しまれていて、どら焼きをはじめ、たい焼き、きんつばなど、あんこを使った和菓子がそろっている。

わかつき・若月正章社長:
はっきり言って手間がかかるが、ひと手間ふた手間かけることがおいしさに反映する。それがまさにCNFにあったのです。水分を保つというCNFの特性を知り、みずみずしいあんこを目指し、日本製紙の研究者と開発を進めてきました。これはCNFの元の粉で粉状にできます。これをアルコールの中で分散して、さらに水の中で溶解します

試行錯誤を繰り返しながら、1年かけて水分の分離を防ぐあんこを開発し、みずみずしいあんこの商品化にこぎつけた。
若月正章社長:
今まで、これほど保水効果やみずみずしさを保持できるものはありませんでした。類似したものはいっぱいありますが、これだけみずみずしさを保持できて、風味を損なわないものはセルロースナノファイバーを置いてほかにないと思います

生クリームは粘り気が出て形もしっかり
キメ細かく、しっかりと形が維持された生クリーム。CNFは洋菓子でも活用が始まっていて、富士宮市の洋菓子店「フルーリス」では、ケーキなどの生クリームにCNFを利用している。

店員:
まず砂糖を入れます。次にセレンピア(CNF)を入れます。そして、砂糖とセレンピアを生クリームに混ぜます

健康志向から、低脂肪タイプの生クリームを追求していた洋菓子店がたどり着いたのがCNFだった。
フルーリス・加藤正人代表:
(生クリームの)脂肪分を低くても使えるようにしたい。脂肪分が低いということは、水分が結構あるということ。油に対して水分がたくさんあると(生クリームは)流れやすいんです。それがセレンピア(CNF)を入れることによって流れずにきれいに仕上がる、そこですね、生クリームに使おうと思ったのは

生クリームの脂肪分を減らすと水分の量が増えてしまい形が保てなくなるが、CNFを入れることで粘り気が生まれ、形をしっかり保つことができると言う。

加藤正人代表:
乳化力がかなり強くて、脂肪分が低い35%の生クリームだけで作ることができるようになったので、健康的だしシンプルにおいしいです
フルーリスでは、カステラにもCNFを使っていて、焼き上がりが良くしっとりとした食感が増したという。

さらにカフェチェーン店のバームクーヘンやコンビニのパンなどにもすでに使用されているほか、ハンバーグや揚げ物、サラダのドレッシングなどへの利用も研究が進んでいる。
自然の木が原料だから環境にも優しい
さまざまな食品利用が進むCNF。食品での利用は、環境への貢献にもつながっている。
多田裕亮主任研究員:
原料が自然の木ですので、木は成長する過程でCO2を吸収します。カーボンニュートラルであるということと、リサイクル性が高いことが特徴です。また、例えばCNFを添加して食品の賞味期限が延びた例もありますので、フードロスの観点からも環境に貢献できると期待しています

さまざまな分野で活用され、環境にも優しいCNF。これからもその用途は広がっていきそうだ。
(テレビ静岡)