レンジは温めの終了を音で知らせてくれるが、この音に変化を感じたことはないだろうか。

以前は「チン」という甲高い音が印象的だったが、最近の製品は「ピーピー」といった、電子音で知らせるものが主流となったイメージを受ける。昔から食べ物をレンジで温めることを「レンチン」というが、今は「レンピー」ではないかと思うほどだ。

このチンという音は、早川電機工業(現:シャープ)が採用したのが始まりという。チンと鳴るレンジはなぜ誕生し、現在の製品でも採用されているのか。

チンの音は“あの乗り物”から生まれた

シャープの担当者に、レンジとチンの音にまつわる歴史を伺った。


――最近のレンジは「チン」と鳴るものが少ないように感じるが、実際はどう?

弊社では「ウォーターオーブン ヘルシオ」AX-XA20(2021年発売)以外の機種すべてが電子音を採用しています。チンから電子音に切り替わり始めたのは40年ほど前からです。自動あたためなど便利で使いやすい商品にするために、高度な制御が必要になり、電子化に対応したためです。


――「チン」の音はいつ、どんな経緯で採用されたの?

弊社では1962年に電子レンジをはじめて発売し、当初はレストランの厨房などの業務用としてスタートしました。ただ、出来上がりを知らせる機能がついていなかったため、忙しい時に加熱終了を見過ごしてしまうことが多く、コックさんから「加熱が思ったよりも早く、出来上がったのが分からず、気づいた時には料理が冷めていたので終了音を付けてほしい」という要望を多くいただきました。

業務用電子レンジ「チン」採用第一号機(提供:シャープ)
業務用電子レンジ「チン」採用第一号機(提供:シャープ)
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これがチンの開発のきっかけになり、試行錯誤の結果、自転車のベルを終了の合図に使いました。ベルを採用したのは当時の技術者が、従業員のレクリエーションでサイクリングに出かけた際に、混みあった道でベルを鳴らすと、町の喧騒の中でも皆気づいてくれたことからです。1967年に業務用レンジではじめて採用し、1968年には家庭用電子レンジにも導入しました。

レンジ内部のタイマー。「チン」はここが鳴らしている(提供:シャープ)
レンジ内部のタイマー。「チン」はここが鳴らしている(提供:シャープ)

――採用されたベルの内部構造はどうなっている?

ベル自体は自転車と同様の仕組みで、チンと鳴らす構造は、ゼンマイ式のタイマーで、ゼンマイが“0”の位置に戻ると、呼び鈴をたたいて鳴らしています。現在でもゼンマイ式タイマーは多くのトースターで使用されています。

タイマーを横から見た図(提供:シャープ)
タイマーを横から見た図(提供:シャープ)

電子音にすることで終了音が多様化

――「ピーピー」などの電子音になったのはなぜ?

時代の経過や技術の進歩で制御方法を電子化し、終了音を電気で音を鳴らせる「ブザー」を採用し、徐々に電子音に切り替わっていきました。電子レンジも進化したことで「チン」から「ピーピー」という音に切り替えていきました。電子音にすることで、音の長さ、音の周波数(音の高さ)など、音の種類を選ぶことができるようになりました。


――ヘルシオにチンが残っているのはどうして?

チンの音源をリバイバルしたのは、ウォーターオーブン「ヘルシオ」の2018年モデルからです。1968年に採用してから2018年で50周年という節目だったこと、弊社が電子レンジに「チン」の音を最初に採用したという歴史を伝えたいという思いもあり、ヘルシオに採用しました。※ヘルシオに採用されているのは、ベル自体ではなくチンの音源

ウォーターオーブン「ヘルシオ」(提供:シャープ)
ウォーターオーブン「ヘルシオ」(提供:シャープ)

――温めることを「チンする」ともいうが、どうしてこう呼ぶようになった?

チンするは「チン」の音に由来していると思われますが、当時の食品メーカーが冷凍や加工食品をあたためる際に「チンする」ということばをCMなどで使い始めたこともあり、家庭の主婦も日常的に使う言葉となり、社会全般に広がったと思われます。


――このほか時代の流れで、レンジで大きく変わったようなところはある?

弊社では、レンジ機能のみのシンプルな性能の製品がある一方、過熱水蒸気(水蒸気をさらに加熱し100℃以上の高温状態にした気体)を利用し食材をおいしく調理できるウォーターオーブン 「ヘルシオ」など、多様なラインアップを揃えております。


チンの音は意外な経緯で生まれていた。ベルで鳴るレンジが少数派になっても、電子音として「チン」が聞ける製品はあるので、“レンチン”という呼び名もまだまだ通用していくことだろう。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。