政府が今月決定する物価高騰に伴う緊急対策の財源をめぐる自民・公明両党の交渉は、21日、補正予算案を編成することで決着した。自民党は当初から補正予算に否定的で、議論は平行線が続いていたが、最後は公明党への譲歩を余儀なくされた形だ。
この前日の20日、岸田文雄首相は官邸で公明党の山口那津男代表と会談した。関係者によれば、岸田首相は公明側が求める補正予算の編成について、「きっぱりと断る」方針だったという。
しかし、会談を終えた公明・山口氏は、「『幹事長に委ねる』という首相の話だから、党首間でやり取りするということは控えた」と語った。

結局、両党の協議は幹事長間に差し戻される異例の展開となった。自民のベテラン議員は「普通はトップまで上がれば方針が固まるんだけど、まとまらないのは珍しい」と苦笑混じりに語った。
参院選を前に自公の立場に違い
岸田首相が3月29日に緊急対策のとりまとめを指示して以降、自公間で協議が進められてきたが、最も大きな隔たりがあったのは、その“財源”についてだった。
自民党が、物価高騰に素早く対応するため今年度予算の予備費を活用するよう主張するのに対し、公明党は、大規模な補正予算案を編成するよう強く訴えた。つまり、既に成立している予算で対応するのか、新たに補正予算を国会で成立させるのかということだ。その主張の背景には、自公両党の置かれた立場の違いが透けて見える。
自民党は、補正予算の場合、衆参両院で岸田首相が出席して予算委員会を開く必要があり、7月に行われる見通しの参院選を前に、野党に追及の場を与えたくないという思惑があった。自民党幹部は選挙前の予算委員会は「やりたくない」と本音を吐露し、官邸幹部は「大規模補正をやると党内秩序が保たない」と語った。
一方、公明党は、困窮者支援などを盛り込んだ「補正予算の成立」という実績を作って、選挙に向けて支持者にアピールしたい思惑があった。参院選をにらんだ両党のスタンスの違いから、議論は平行線を辿った。
「過去にない」異例の形で決着
岸田首相は、交渉にあたる党幹部らに「引かないでほしい」と釘をさしていた。

期限が迫る4月19日、両党の幹事長らが会談したが、結論は出なかった。
こうした中で行われたのが、前述の20日の党首会談だったのだ。
このトップ会談で決着が着くのではないかとの見方もあったが、結局、財源の議論にさえ入らず、協議を、幹事長間に差し戻すことになった。
そして、差し戻しを受けて、21日に両党の幹事長が協議した結果、緊急対策は今年度予算の予備費を使い、その使用分を補てんするための補正予算案を編成するという形で決着した。

自民党の茂木幹事長は、補正の編成を受け入れたことについて、「一定のスパンで緊急対策を取る」ことを考え、「6月以降も視野に入れた補正が必要だという結論になった」と説明した。
一方、主張が通った形の公明党の石井幹事長は、「最終的にお互いが納得できる形でまとまったということは非常によかった」と語った。

公明党幹部が「よかった。政治の世界はこういう風になっている」と笑顔で語る一方、自民党内からは「不満がいっぱいだ。どうなるか分からない」との声が聞かれた。さらには「公明党は金を使うことばっかりだ」と指摘する声も出た。
使った予備費を「埋め戻す」という異例の補正予算案について、政府関係者は「過去にない形だ。でも、これしかやりようがなかった」と語った。
断れなかった首相の負け?
今回の自公協議の決着について、ある自民党議員は、「参院選前に予算委をやりたくなかった首相が、党首会談でキッパリと断ることが出来なかった。断れなかった首相の負けだ」と分析する。

補正予算案は、5月下旬にも国会に提出され、その後、衆参で予算委員会が開かれることになる。「今の内閣ならそんなに荒れることもない」(自民党幹部)との指摘もあるが、野党は対決姿勢を強めている。
立憲民主党の泉代表は「遅いし、規模があまりに小さい」と批判した上で、「予算委員会でしっかりぶつけていきたい」と意気込みを強調した。国民民主党の榛葉幹事長も「あまりに足りない」と注文をつけた。
異例の形での自公協議の決着が吉と出るか凶と出るか、岸田内閣の力が試される。